カルチャー
【#4】セントラル・セント・マーチンズの友人をインタビュー。
2021年9月5日
text: Maya-Aska
ファッションはセントラル・セント・マーチンズでは中心的な存在かつ同窓の有名デザイナー陣から知られています。そんなファッション・デザインのメンズウェア(Menswear)を学んでいるテンジン・シアさん(Tenzin Sia)をインタビューしました。
私達はファンデーション・コースで同じクラスだった事から友達になりました。
眞弥飛鳥 (M-A):最初はテンジンの経歴の話から始めたいけど、なんで芸術の道を進んだの?
テンジン (T):高校生の時、特撮の化粧を勉強したくてね。
M-A:へー、知らなかった。
T:その為にはコスチューム、ファッション科に入っていなければ駄目だったんだ。高校のファッション・ショーにも作品を出したりして、ファッション自体に興味を持ち始めたんだ。だけど明確に何をしたいのか分からなくて、ファッション・コミュニケーションのファンデーショ ン・コースに入ったのは好きな写真とファッションを兼ね備えていたから。
M-A:テンジンが撮る写真はエネルギーがあって綺麗。デザインした衣服の写真も全て自分で撮るんでしょう?
T:デザイナーとして、イラストだったり、写真だったり、自分の作品を何らかの形で捉えるこ とは大切だと思う。ファンデーションにいた頃、ファッション・コミュニケーションに入ってから本当に学びたい事がファッション・デザインだと気付いて、結構焦燥が溜まっていたんだ。だけどファッション・コミュニケーション課で受講していたお蔭で写真の技術と理解が高まって、今はそれが有難い事だと感じている。その後ファッション・デザインの学部生になれたのはセントラル・セント・マーチンズが学祭的だから。学生達はそれぞれ異なる強みを持っているからね。
M-A:セントラル・セント・マーチンズは他と違うアプローチを好むよね。
T:そう。ユニークな物を欲しがっている。
M-A:なんでメンズウェアにしたの?そして、ノン・バイナリーやジェンダー・フルイッド等、比較的新しい性別名称から分かる様に、ジェンダーの理解が開放的になる中、メンズウェアとウィメンズウェア(Womenswear)の隔たりはなくなると思う?(今日では社会的性別が男性と女性の二つから成り立っているのではなく、流動性のある物だとの見解が高まっています)
T:実は学部出願した時はメンズウェアが何だったのか良く理解していなかったんだ。だけど分かった事は、メンズウェアは西洋のテーラリングが基盤で、ウィメンズウェアはコルセットだってこと。
M-A:手法であって、性別特有の服を指している訳では無いんだね。
T: そう。テーラリングは体の上にのっかている物の中で体を形作り、コルセットの場合体を押し込みながら体の形状を変えるんだ。そんな衣服の技術を男性、女性と定義する事が興味深いいよ。女性がおされて男性が比較的解放されているという側面は社会の比喩になっているからね。
M-A: 男性と女性の社会的プレッシャーを反映しているんだね。
T:ウィメンズウェアとメンズウェアの隔離は益々無意義な物だと思う。今の時代、服を着る人のジェンダーを表していないからね。
M-A:セントラル・セント・マーチンズのデザイナーもそんなジェンダー性がある措辞に制限されている訳では無いよね。先生もメンズウェア課に在籍していても、生徒が望むならコルセットの技術を教えてくれるよね。
T:勿論。何をしても良いんだ。ただ一つの術をもっと充実的に学ぶだけ。
M-A:テンジンの作品はアジアの文化の影響が大きいよね。
T:自分の原点について熟考する事は大事。なぜなら自分のアイデンティティを成す二つの主要な面はセクシュアリティと民族性だから。最近はフューチャーリズムにはまっていて、未来を創造するには過去を見つめ直す事が大切だと尚更思う。計算でも同じだけど、式の中で何が何になるのか考える事が面白い。
M-A:なるほど。その通りだね。
M-A:テンジンのウェブサイトに載った作品のメモを読んだのだけど、コンセプトが本当に様々な物から来ているよね。作業工程はどんな感じなの?
T:アイデアを思い付く事は本当に魔法の様で、これだからアートは大好きだよ。一つ例を挙げると、ホワイト・ショー*の作品は遠藤周作の『沈黙』を基にしているんだ。本当に美しい本で、気に入っている書籍の一つでもある。制作を始めた時、具体的な案は無く、キリスト教徒の聖職者の服に注目していたんだ。その後日本の封建主義に興味が湧いてきて、武士のシルエット、特に突出した肩を模範にしたんだ。立体裁断が好きだからキャラコを色々な風に止めて、面白い形を見出して、その試作品を写真に納めてからアドビのフォトショップを使って更に新しい物を探したんだ。
M-A:フォトショップを使用するんだ。面白い方法だね。
T:フォトショップは良く使うよ。衣服を再構成出来る為にデジタルで修正するんだ。
M-A:可視化するのが簡単になるでしょう?
T:特に衣服の様な物理的な物はね。テーラリングでない限りあまりスケッチはしないんだ。抽象的で観念的な作品は服として捉えない様にしているからね。ホワイト・ショーに戻るけど、 良く牧師が纏っているストラを起立させ、鎧の肩部分を真似る事を思い浮かべたんだ。一つの物体が二つの要素を物語っている様子は美しいよね。そのアイデアを実行した時、周りの人が 「虫みたいだ」と言い始めて、『沈黙』で描かれている蝉達に繋がったんだ。
M-A:私も小説(梶井基次郎の『檸檬』)を軸に、作品を展開した事があったけど非常に難しかった。先生達は知らない著書だったし、作業するにつれ本と課題から遠ざかって行く感じがして、課題の範囲内で制作するのは本当に難題な作品だったよ。
T:お題に沿って創造するのは大変だよね。
M-A:本当にそう。
M-A:ファンデーション・コースではテンジンは自分の性的指向をテーマにする作品が多かったよね。東洋では精神衛生やセクシュアリティ、フェミニズムなんかは余り話題に上がらない、タブーが入り組んでいる社会だという印象が強い。だからアジア圏出身の LGBTQ+の芸術家はとても貴重だと思う。
T:そうだね。青春期の最も須要な人物の一人がレン・ハン(任航)だった。自分の写真スタイ ルに関しては強い影響力があって、芸術の意味を教えてくれた人でもあるんだ。彼の功績を讃えたいと思うよ。昔は自分のセクシュアリティを受け入れてなくて、抑圧していた。ゲイ特有のメディアにもあまり共感が持てなくて、そんな中、レン・ハンの写真は感応出来る物の一つだったんだ。彼の作品からは主張されなくても良い、クィアな雰囲気が醸し出されている。そんな超越したクィアな存在を再現するのが目的なんだ。
M-A:レン・ハンは私が初めて感銘を受けた写真家だったよ。彼のお蔭で写真という一つの芸術に興味を持てたし、写真術で何を達成出来るか見せてくれた。彼の展示会のパンフレットを見て「何て生々しく詩的なものだろう」って思ったよ。
T:レン・ハン、そしてフランシス・ベーコンは自分の芸術表現に重要な者達。二人共奇妙で色情的な肉体の本質を表しているよね。交差する肢体と人、シュールだけど本能的に真な姿。
*セントラル・セント・マーチンズの名物の一つ、ファッション・デザイン課の一年生が参加するファション・ショー
テンジン・シア
tenzinsia.com
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