カルチャー

横溝正史とジャパニーズ・オカルト。

編集者・日下三蔵が紐解く、横溝作品の歴史。

2021年8月22日

photo: Kazuharu Igarashi
text: Neo Iida
2021年9月 893号初出

 池から2本の足、真っ白なゴムマスク、着物姿の逆さ吊り。戦慄のビジュアルに、ホラーと捉える人も多い横溝正史映画。しかし横溝作品を多く編纂する編集者の日下三蔵さんによれば、「原作は純然たる本格ミステリー。ホラー的な要素は装飾にすぎません」。紐解けば、こんな歴史が。

「戦時中、ミステリーが書けなくなった横溝は、疎開先の岡山県で『火刑法廷』で有名なジョン・ディクスン・カーの小説を読みます。装飾はオカルトだがトリックも推理も面白い。その影響を受け、岡山の山村の因習や仄暗い雰囲気を取り入れた小説を書いた。それが金田一耕助が登場する『本陣殺人事件』です」。

 シリーズは一世を風靡するが、のち松本清張などの社会派が台頭し、引退状態に。1968年に週刊少年マガジンが『八つ墓村』をマンガ化し、リバイバルの波が。’70 年代にはオカルトブームが到来。「『怖い小説が流行る!』と横溝に目をつけたのが角川春樹さんでした」。映画化の際、装飾部分である手毬唄や菊人形といった和ホラーな要素を一層際立たせた。これが横溝=ホラーの認識に繋がったのだ。一方、文学界では横溝の名を冠した文学賞が誕生。「鈴木光司さんの『リング』はオカルト過ぎて受賞には至らず。でも『面白い』と出版されベストセラーに。そこで生まれたのが角川ホラー文庫です」。横溝はホラーではない。だが源流ではあるのだ。

プロフィール

日下三蔵

くさか・さんぞう|1968年、神奈川県生まれ。編集者、ミステリー・SF研究家。編著に『横溝正史少年小説コレクション』(柏書房)、『日本ハードボイルド全集』(創元推理文庫)他多数。アニソン研究家でもある。