孤高のウェザーリポーターを訪ねて。

空を読み、雨と遊ぶ。

2026年10月25日

WHOLE CITY BOY CATALOG


photo: Hiroshi Nakamura
illustration: Dean Aizawa
text: Fuya Uto
2026年7月 951号初出

気圧・風速

「高精度ながらも、あえて答えを言わない気象予報士でありたいと思っています」。茨城県を拠点に、インディペンデントな天気予報サイト「SCW」を運営する戸塚真義さんは言う。言葉どおり、利用者は天文学者からアウトドアに精通した人まで、その信頼性は折り紙付き。にもかかわらず、サイトを見ても素人目には正直さっぱりわからなくて実に興味深い。画面にあるのは雨量、気圧、風速、気温などのデータが緻密に色分けされた天気図で、お馴染みの「晴れ」や「雨」のマークは一つもないのだ。この〝答えがない〟真意はいかに。聞けば、気象予報を始めたのは2008年という。

雨量・雲量

波浪

気温・湿度

「きっかけは趣味のマリンスポーツです。というのも、風速をチェックしようと予報を見ても、当時は内陸の主要都市の情報ばかり。実際の海はもっと風が強いのに、ピンポイントの情報がなかったんです。そこで『各地の気圧と風の関係を正確に把握できる方法はないか』と調べ始め、スーパーコンピューターによる気象庁のデータを解析する今のやり方になりました。高性能なデータを専門家だけが使っているのはもったいない。もっと多くの人に届けるために『SCW』を立ち上げたんです」

 一般的な天気予報が「最終的な答え」を教えてくれるのに対し、「SCW」は空で何が起きているかという過程を映し出す。

「風が吹いて雨や雲がどのようにできるのか、その仕組みを絵で読み取れるようにしたいと思っています。そもそも雨雲発生は上昇気流が起きるかどうかですので、天気図で例えば『前線』、つまり暖かい空気と冷たい空気がぶつかる境界線を探してみる。上昇気流をイメージしながら、その勢力バランスを見れば、『発生しそうとか、予測より少しズレそうだな』と自分で判断ができるようになります。サイト内に詳しい使い方の説明を書いていないのも、そんな『自分で考えてみようよ』という思いがあるからです。上昇気流が起きるパターンも他にいくつかありますが、難しい理論を覚えなくても、実際の空と『SCW』を照らし合わせる体験を繰り返せば、自ずとわかるようになるはず。季節ごとのパターンを掴むためにも、まずは2シーズンほど眺めてみれば、きっとできますよ」

 誰かに与えられた答えを鵜呑みにするのではなく、自分の目でその過程を観察し、考えてみる。自然を読み解く術を身につけることは、きっと毎日の洒落た遊びになるはず。自分なりの気象感覚を育てて、いつか友達にさらりとこう答えてみたいものだ。「今日はこのまま晴れるかって? いや、後30分もすればあっちの山から雨雲がくるよ」

気象を読み解く
3つの道具。

基本的な業務は予測モデルを考えたり、プログラミングやメンテナンスの他、実際の気象観測すること。例えば雲の場合、海上保安庁が刊行する航海用海図、三角定規、〈SUUNTO〉の精密コンパスを使って測位し、“ズレ”を読み解く。さらに、地形の標高を見たり、気象関係の本を読んだりも。

天気の予測には
計算式を使って。

毎年、気象庁が発行する「気象予測技術」がまとめられた専門書。中身を覗いても1ミリもわからない高度な内容だが、「SCW」を運営する上で欠かせないそう。「要は計算モデルの解説書です。データは気象庁の『数値予報』をもとに、スーパーコンピューターで計算した予測値を表しているので、これが必要に」

プロフィール

孤高のウェザーリポーターを訪ねて。

戸塚真義

とつか・まさよし|東京都生まれ。大学で物理学を学び、大学院では素粒子物理実験に関わる。2008年より、本業の傍ら、利用者が気象現象を理解し、予測できるようになることを目指す天気予報サイト「SCW」を運営する。

Official Website
https://supercweather.com