TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#3】修道院のむっつり菓子
執筆:鶴見昂
2026年1月27日
こんにちは。
お菓子の鶴見です。
「人と人を繋ぐお菓子」をテーマに連載しているタウントーク。
第3回目の今回は、夏に旅したシチリアで出会った修道院のお菓子をご紹介します。
シチリアのお菓子といえば、映画『ゴッドファーザー』にも登場するカンノーリ(筒状に揚げたサクサクの生地にリコッタクリームを詰めた菓子)が有名ですが、地中海文化の中心としてさまざまな民族の支配を受けてきたシチリア島には、イタリア本土とは異なる独自の菓子文化が根付いているそうです。
なかでも、学問や技術の発展の中心にあった修道院では、当時最先端の製菓技術が磨かれ、外界と隔絶された特殊な環境のなかで、数多くのユニークな菓子が生まれました。
そんなまだ見ぬシチリア菓子を求め、修道院菓子のリサーチを続けているシチリア在住の料理研究家・佐藤礼子さんを訪ねました。礼子さんに連れられて、シチリア西部のトラーパニや、小高い丘にあるエリチェ、空港のあるパレルモなどを巡り、パスティッチェリア(お菓子屋)に入っては目につくお菓子を片っ端から買って食べる、ということを繰り返します。
素朴な焼きっぱなしのお菓子から、アラブの影響を受けた色とりどりの絢爛豪華なドルチェまで。その種類の多さに圧倒されました。
「ここは私が昔修行してたお店なの。パスケア(イースター)の時期は、羊のお菓子ばっかり作ったわ」
「この店はお婆さんが怖いんだけど、お菓子はおいしいのよね」
「ここは先代が亡くなってから若い子が継いだらしいけど、味が変わってないかしら。ちょっと食べてみて、大丈夫そうなら他も買ったらいいわよ」
長年シチリアに住み、見つけてきたパスティッチェリアと人々、そしてたくさんのお菓子とその歴史。ポロポロとこぼれる思い出話と共に紹介してもらいながら、「ああ、私はいま、この人の宝箱を見せてもらっているんだ」と嬉しくなりました。
砂糖と共にペースト状にしたアーモンドや、甘いリコッタクリーム、果物の砂糖漬けを多用するシチリア菓子は、「甘すぎる」と顔をしかめる人もいますが、菓子の名前や形の由来を紐解いていくと実に面白い。味の先に、もうひとつの扉があるような印象を受けました。
「シチリアでも珍しく、修道院の中でお菓子を販売しているパスティッチェリアがパレルモにあるの。歴史のあるお菓子をたくさん作っていて面白いから、行ってきたら?」
そう教えてもらい、すぐにバスのチケットを取ってパレルモのサンタ・カテリーナ修道院へ向かいました。修道院の中には大きな中庭があり、その脇で修道女たちがせっせとお菓子を作り、販売しています。
キリスト教の聖人・聖アガタが拷問によって切り取られた乳房を模した、その名も「聖アガタの乳房」。ピスタチオを贅沢に使った「暴食の勝利」。キリスト教の伝説や教えに基づいた菓子が、多様に展開されているのも特徴的でした。
なかでも目を引いたのは、巨大なカンノーリ。筒状に揚げたサクサクの生地に向かって、シスターたちがバズーカ砲のような絞り袋でリコッタクリームを詰めています。観光客たちはその巨大なカンノーリを両手で支え、クリームが溢れないよう目を白黒させながら中庭で頬張っていました。
ここでも気になったお菓子を手当たり次第に買い込み、アパートへ戻ってから、夜中に礼子さんを呼び出して試食を手伝ってもらいました。買い込んだお菓子を一緒に食べてくれる友がいることは、何よりありがたいことです。
いくつかのお菓子を食べ終え、ふと2枚のアーモンド生地を貝合わせにした「フェッデ・デル・カンチャリエーレ」を手に取ったとき、礼子さんが「フッ」と笑って、その名前の由来を教えてくれました。
「『フェッデ』って、シチリア訛りで“尻”って意味なの。もともとは修道女たちが男性の尻の形を模して作ったらしいのよね。でね、自分の著書『イタリアの修道院菓子』(誠文堂新光社)には書けなかったんだけど、本当はそれ、女性器のオマージュだったみたいなの」
「修道院って、女性だけだったり、男性だけだったりするでしょう? その中でも、いろいろあったみたいなのよね」
暗喩にしては少し直接的すぎないだろうか。欲求不満も募りすぎると、修道女ですら男子中学生のような下ネタに走るのか、と爆笑しました。秘めているようで、どこか剥き出しのエロ。頭の中に、筆で書かれた「人間だもの」という文字が浮かびます。
ここからは私の妄想ですが、そんな話を聞いてしまったら、シチリアのすべてのお菓子の根源に下ネタがあるような気がして、つい穿った見方をしてしまいます。パスティッチェリアに大小並んだカンノーリも、まるでシヴァ神のリンガ(男根)のようです。繰り返しますが、サンタ・カテリーナ修道院のそれは、とりわけ大きなカンノーリでした。
思わぬところで受け取ってしまった、昔の修道女たちの“むっつり菓子”を齧りながら、それを連綿と受け継ぎ、いまも作り続けているシチリアの大らかさに感激した、そんなお菓子の旅となりました。
プロフィール
鶴見昂
つるみ・たかし|1986年、神奈川県生まれ。菓子教室「ツルミ製菓」を主宰。石川県の『TEATON』や駒沢大学の『POPPY』など、カフェのプロデュースも手がけている。お菓子のZINE『天国行』を不定期で発行。
Instagram
https://www.instagram.com/hepopec/
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