TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#1】人肌の菓子
執筆:鶴見昂
2026年1月13日
こんにちは。
お菓子作りを生業にしているツルミです。普段は東京でお菓子教室をしたり、喫茶店や菓子屋のメニューを考えたり、気まぐれにZINEを作ったりしています。もうすぐ40歳、魚座、A型です。
POPEYEのタウントークでは、「人と人を繋ぐお菓子」というお題をいただき、1月を担当することになりました。
そこで今回は、2025年にお菓子を求めて訪れた国々での旅の思い出とともに、とくに印象に残ったお菓子と人との出会いについて書いてみたいと思います。
しばしお付き合いください。
2025年最初に訪れたのは、韓国・ソウルでした。
1月のソウルは氷点下18℃。まつ毛も凍る極寒の地で、韓国の若者たちに混ざってアイスアメリカーノを啜り、冷麺まで食べて、正直調子に乗っていました。するとみるみる唇が紫色になり、奥歯がガタガタと震え始め、到底お菓子どころではなくなりました。
それでも食い意地だけが取り柄ですから、這いつくばるようにして餅を買い、2秒で冷えて消しゴムのように固くなったそれを泣きながらいただきました。
「いい年して私は一体何をしているんだ…」と身も心もズタボロになり、フラフラと縋るように入った甘味処で、一杯の善哉に出会いました。
真鍮の器はほの温かく、中にはトロリと柔らかく炊かれた小豆あん。そこに、ゆで栗、なつめ、松の実、桔梗の根(喉に良いらしく、甘露煮にしてお菓子に使われるそうです)、ニッキ、そしてふたきれの餅がのっています。
うっすらとした甘さとコタツのような温かさが、芯まで冷えた身体をじんわりと癒し、みるみる生気が戻ってくるのを感じました。ふと、割烹着のおばさんの姿が頭に浮かび、「オンマ〜!」と叫びそうになって厨房を覗くと、こちらを不審そうに見つめる若者が睨みをきかせてつっ立っていました。
冬のソウルで、自分の衰えた代謝と不安定な中年の情緒に対峙する旅となったのです。
次に訪れたのは、2月のインド。
インド通い30年のカレー屋の店主「アミのえみ」と、菓子屋の主人「しょーちゃん」との三人旅でした。
普段から仲の良い三人。といっても、せいぜいお互いの家でご飯を食べるくらいで、共に旅行をするのは初めて。お菓子を求めてヨーロッパへ行くことはあっても、インドへ行くのも初めてです。良くも悪くも、きっと何か面白いことがあるだろうと、一回り年上のインド厨を頼りに旅立ちました。
デリーから入国し、アーグラ、ジャイプール、ジャイサルメールを寝台列車で巡り、ムンバイから出国する二週間の長旅。
「スーツケース?そんなもの運んでられないから、リュック一個で来て」というアミのえみの忠告を素直に聞き入れ、戦地へ赴く衛生兵のように、リュックに衛生用品を詰め込んで臨みました。
羽田空港から夜のニューデリーに到着し、ホテルの部屋に入ると、そこにはキングサイズのベッドがぽつねんとひとつ。
「私は簡易ベッドで寝るから、デカいベッドはあんたたち二人で使って」とアミのえみ。
しょーちゃんと私は鳩が豆鉄砲を食らったような顔を見合わせ、「我々もうすぐ40代を迎える中年なんだけど」と笑い飛ばしました。半分冗談で、半分本気です。
とはいえ、菓子屋はちょっとした潔癖症が多いもの。この先の旅に一抹の不安を覚えつつも、旅の手配はすべてアミのえみ任せ。ボスの仰せのままに従います。案の定、翌朝目が覚めると、寝相の悪い私はしょーちゃんの顔面にパンチを喰らわせていました。
そんな小さな杞憂を差し置いて、目まぐるしい旅のスケジュールとインドの人々の波に揉まれ、気づけば私はすっかりインドにかぶれ、自然食品店のパートさんよろしく頭にバンダナを巻き、寺院の床にどかっと座ってチャパティを伸ばしていました。
そこはオールドデリーにある、シーク教徒の寺院「グルドワラ」。参拝すると、カレーやチャイなどの施しを受けることができます。寺院のあちこちで信者たちが豆を剥き、野菜を切り、チャパティを伸ばしているので、私たちもその輪に加わって手伝いました。
手伝いたければ手伝い、やめたければいつでもやめていい。
皮剥きやチャパティ作りに飽きた私たちは、シーク教徒に混ざってカレーをいただき、シナモンリーフの効いたチャイを飲み、寺院を後にしました。
寺院を出るとき、門に立っているおじさんが、ほの温かいハルワを手渡してくれます。素手から素手へと、ぬらっとしたハルワ——ここではセモリナ粉をギーと砂糖で煮詰めた、ペースト状の菓子——が渡されるのです。
以前の私なら、きっと食べなかったでしょう。でも、ここはインド。そんなことにビビっていては野暮というものです。
ミルキーな香りを放つ温かいハルワは、軽い労働の疲れを癒し、糖と脂肪のプリミティブなエネルギーが、妙な多幸感をもたらしました。もしこれが冷たかったら、感想は180度変わっていたでしょう。人肌のような、ほの温かさにこそ、ハルワという菓子の美味しさが宿っている。そんなふうに感じました。
ソウルとデリー。
二つの異なる都市で出会い、記憶に残ったのは、どちらも「ほの温かい」お菓子でした。
ときに「キモい」に振れかねない温度帯。けれどその温もりを通して人の手を感じ、旅先での孤独がそっと癒される。そんな瞬間が、確かにあったのです。
次回も、インドの旅が続きます。
それでは、また。
プロフィール
鶴見昂
つるみ・たかし|1986年、神奈川県生まれ。菓子教室「ツルミ製菓」を主宰。石川県の『TEATON』や駒沢大学の『POPPY』など、カフェのプロデュースも手がけている。お菓子のZINE『天国行』を不定期で発行。
Instagram
https://www.instagram.com/hepopec/
ピックアップ
PROMOTION
新しい〈コロンビア〉と、長い散歩。
Columbia
2026年10月9日
PROMOTION
介護の現場はこんなに変わってきた。/介護福祉士・伊井香奈子さん
介護の仕事って、今こんなにあたらしいんだ。
2026年10月9日
PROMOTION
介護の現場はこんなに変わってきた。/介護職・中村一真さん
介護の仕事って、今こんなにあたらしいんだ。
2026年10月16日
PROMOTION
CONVERSE CHESS CLUB 〜コンバースとチェスと昼下がり〜
CONVERSE
2026年10月26日
PROMOTION
トミーさん、「PLAZA PREP」は最高です!
トミー・ヒルフィガーさんに、2027 Springコレクションとプレッピーについて9つの質問。
2026年10月9日
PROMOTION
心の探検家が、サムライに出会った。
JT
2026年10月29日
PROMOTION
〈トミー ヒルフィガー〉と「FRGMT」、ふたつのカルチャーが必然の邂逅!
プレッピーのフレッシュな進化を象徴する、「FRGMT」とのコラボレーション。
2026年10月15日
PROMOTION
トミーさんが“ザ・プラザ”に帰ってきた!
ニューヨーク・ファッションウィークで、〈トミー ヒルフィガー〉が 2027 Springコレクション「PLAZA PREP」を発表。
2026年10月9日
PROMOTION
〈トミー ヒルフィガー〉に稲妻が走る!?
藤原ヒロシさんを直撃! トミー ヒルフィガーとFRGMTのコラボレーションはいかにして生まれたか。
2026年10月14日
PROMOTION
〈SOREL〉のアンブラーと、メンテナンスデイ。
SOREL
2026年10月9日
PROMOTION
AIとともに考え、切り拓いていくこと。
Machines of Loving Grace
2026年10月15日
PROMOTION
芝生でのんびりもいい、デザインの祭典。
TOKYO MIDTOWN DESIGN LIVE 2026
2026年10月9日
PROMOTION
アートもローカルから。それがPARCO流。
PARCO ART & CULTURE DAYS
2026年10月6日
PROMOTION
フレンチな香りもワードローブに。
LACOSTE FRAGRANCE
2026年11月4日
PROMOTION
Fall In Field Coats And…
L.L.Bean
2026年10月9日
PROMOTION
WilsonとUS OPENが彩るニューヨークの晩夏。
Wilsonとテニスの深い関係を巡った夏の終わりの記録。
2026年10月9日
PROMOTION
ぼくが〈 UGG 〉を履くとき。/#1 パン・コーリー
UGG
2026年10月9日
PROMOTION
Field of Paintings
Timberland
2026年10月9日
PROMOTION
ウイスキーの学校に遊びに来ない?
WHISKY ACADEMY FOR CITY BOYS
2026年11月2日
PROMOTION
介護の現場はこんなに変わってきた。/介護職・安富ひかりさん
介護の仕事って、今こんなにあたらしいんだ。
2026年10月23日
PROMOTION
リッチモンドで出合った、Compass Boxというウイスキーについて話をしよう。
Compass Box
2026年10月8日