カルチャー

気分はいつだって、ニューヨーク。

白川青史 『New York Älways, Älmost』発売を祝って。

2025年9月26日

text: POPEYE

6,500円(税別)『New York Älways, Älmost』 (Union Publishing)

ニューヨークの日常をスナップした名作写真集というのは数々ある。マイロウィッツの『Wild Flowers』しかり、ソール・ライターの『Early Color』しかり、マンハッタンの街角はいつもドラマに溢れていて、ページをめくると雑踏の音や路上の会話、屋台の匂いすら漂ってくる。この本もまさにニューヨークだなあ、白川くんの写真集を手にとってそう思った。

孤高のファッションスナイパーこと、写真家の白川青史が今年の6月にニューヨークで過ごした10日間を1冊の写真集としてまとめたのが『New York Älways, Älmost』だ。ほほう、日本を代表するファッション・フォトグラファーが撮るとニューヨークはこうなるのか。

もはや知らない人もいるかもしれないので一応書いておくと、いまの『POPEYE』が読者に持たれているファッションイメージのひとつは、この白川くんが作ったと言っても過言ではない。長玉の望遠レンズを使い、モデルから遠く離れた位置で撮影される写真のスタイルは、綿密にセットアップされたものであるにも関わらず、まるで日常を切り抜いたとしか思えない臨場感を放っていた。

極端なトリミング、不自然なほど端に配置された人物、まるで会話が聞こえてきそうな遠くて近い距離感、その一瞬を切り取るタイミングはその後に続くであろう物語を豊かに読者に想起させてきた。そのすべてがこの写真集には詰まっている。積まれた空き缶の脇を通り過ぎる赤い髪の女、緑色のベンチで携帯をじっと見つめる男、渋滞の車をすり抜けイエローキャブに滑り込んでいくニューヨーカーたち。

そうだった、ニューヨークは色に溢れている。意図してか、していないのか、写真集には赤いモチーフが多く写り込んでいる。先ほどの「赤い髪」はじめ、「パラソル」「店員のエプロン」「看板の文字」「赤いパンツの女」「マクドナルド」「赤信号」「赤い車体」「赤パプリカ」「清掃員の赤い手袋」など、いろいろ出てくる。そして最後のページに写っているのは「赤い傘」で、ニューヨークの赤い傘といえばソール・ライターだ。

この写真集を作る上で何かテーマがあったわけではないのかもしれない。歴史を記録するような決定的瞬間があるわけでもなく、ただただ街の風景が写っていると言っていい。けれどそこには、僕らが頭の中で思い描いている憧れのニューヨークの姿が、どの写真集よりも描かれているんじゃないかと思う。コロナ以降はなかなか行けなくなったけれど、僕は久しぶりにニューヨークを旅した気分になったし、往年の『POPEYE』のファッション号を眺めているようで嬉しくもあり懐かしくもあった。

10/7(火) まで学芸大学の『BOOK AND SONS』にて写真展が開催中。白川くんがフィルムで撮ったプリントを見る機会はなかなかないと思うので、ぜひ展覧会にも足を運んでみてください。写真は購入することもできるそうです(60,000円〜)。

インフォメーション

『New York Älways, Älmost』展

写真集の発売を記念し、10/7(火) まで学芸大学の『BOOK AND SONS』にて写真展を開催中。ファッションの分野でも幅広く活躍する写真家・白川青史によるニューヨークを舞台としたストーリー。1Fと2Fのスペースを用いて約40点の作品を展示。いずれも銀塩プリントで豊かな階調と独特の質感を楽しめます。

◯BOOK AND SONS 東京都目黒区鷹番2-13-3 ☎︎03・6451・0845 12:00〜19:00 水休 入場無料

Official Website
https://bookandsons.com/blog/new-york-always-almost.php