TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#4】セプタリアと太古の海の記憶
執筆:山田英春
2025年10月1日
ニュージーランドの南島、モエラキの海岸には巨大な石の球がゴロゴロしている不思議な光景が広がっています。まるで巨大な古代獣の卵かなにかのようですが、これはセプタリアン・ノジュール(以下セプタリアと略)と呼ばれる石です。太古の海の底の堆積物の中で貝などの遺骸を核に炭酸カルシウムが濃集して成長していった石の球です。大きさは直径1センチくらいから直径1メートルを超えるサイズのものまでさまざまです。
こうした石塊にはいろんなタイプがありますが、その中でも大きくなる過程で内部に網目状の亀裂と空洞ができ、そこに方解石や黄鉄鉱などの鉱物の結晶が成長したものがセプタリアです。
聞き慣れない名前と思いますが、世界各地で採れるもので、日本でも埼玉県小鹿野町、群馬県上野村、北海道富良野市などに産地があります。石の球が風化して表面が削れ、中の網目状の構造が表に出てくると、これが亀の甲羅のように見えるというので、日本では亀甲石と呼ばれてきました。
セプタリアは切ると独特な放射状の模様が現れます。土色・砂色の地味な外見からは想像できないような、方解石やあられ石の結晶が詰まった、驚くほど派手な模様が現れるものがあります。こうしたものは「ドラゴンの卵」などと呼ばれ、鑑賞石、飾り物としても売られてきました。アメリカ・ユタ州南部産、マダガスカル島産のものは先端の尖った放射状の模様が入っていて、「ドラゴンの卵」と呼ぶにふさわしい姿です。
現在ミネラルショップなどで最も多く流通しているのはモロッコ産のものです。ピンポン玉からソフトボール大くらいの比較的小さなものですが、白い方解石の模様がさまざまな形を見せてくれる、楽しい石です。人の顔のように見えるものやまつ毛の生えた目玉のような模様のもの、象形文字のような形のものもあります。ひとつとして同じ模様のものが無いので、見ていて飽きません。
鉄がぎっしり詰まったセプタリアもあります。ペルー産のものがそのタイプです。セプタリアができる過程で、海水中の鉄分と酸素が結合して酸化鉄として球の中に沈殿したものですが、とても重いです。昔ペルーを訪れた際、土産物屋にたくさん並んでいるのを目にして買おうとしましたが、あまりに重いので諦めました。
群馬や埼玉の山中や北海道の内陸部からセプタリアが出るということは、そこがかつて浅い海の底だったことを示しています。貝やアンモナイトの化石などが入っているものも少なくありません。北米の内陸部、とくに中西部にはセプタリアの産地がたくさんありますが、ためしにその産地と約1億年前、約8500万年前の地形図を重ねてみたことがあります。その時代、現在のメキシコ湾が内陸に深く切り込んで、北米大陸は二つに大きく分かれていました。その沿岸部とセプタリアの産地がぴったり一致しました。セプタリアには太古の海の記憶が詰まっているのです。
ポーランド産のセプタリア。小金色の方解石の結晶が入っている。
スペイン産のセプタリア。細い亀裂が並ぶ形が特徴。
アメリカ、モンタナ州産のセプタリア。表面が大きく風化して中の構造が独特な模様となって現れている。
プロフィール
山田英春
やまだ・ひではる|書籍の装丁を専門にするデザイナー。石の模様の美しさ、面白さに魅かれ、メノウやジャスパーなどの石の蒐集を続けている。
本業の傍ら、世界各地の古代遺跡・先史時代の壁画の撮影をしている。
著書・編書に『巨石──イギリス・アイルランドの古代を歩く』(早川書房、2006年)、『不思議で美しい石の図鑑』(創元社、2012年)、『石の卵──たくさんのふしぎ傑作選』(福音館書店、2014年)、『インサイド・ザ・ストーン』(創元社、2015年)、『奇妙で美しい石の世界』(ちくま新書、2017年)、『ストーンヘンジ』(筑摩選書、2023年)、『増補愛蔵版 美しいアンティーク鉱物画の本』(創元社、2023年)などがある。
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