TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】樹木の石、草花の石

執筆:山田英春

2025年9月24日

プルーム・アゲート。アメリカ、テキサス州産。

 第一回で縞模様のあるメノウについて紹介しましたが、メノウには全く違うタイプのものもあります。透明なメノウの中に木の枝、草や花のような形、または鳥の羽毛のような形が入っているものがあり、デンドリティック・アゲート(樹状メノウ)、モス・アゲート(苔メノウ)、プルーム・アゲート(羽毛メノウ)などと呼ばれています。

 これらの石はまるで精巧な工芸品のようで、初めて見る人は自然にできたものとは思わないかもしれません。どうして石の中に木や草のような形が入っているのか、本当に植物が石化して入っているのではないかと考えられていた時代もありました。石の中に閉じこめられることで枯れることなく残っているのではないかと。日本でもこうしたタイプのものは「草入りメノウ」と呼ばれていました。

プルーム・アゲート。アメリカ、テキサス州産。

プルーム・アゲート。アメリカ、オレゴン州産。サンダーエッグと呼ばれる丸い流紋岩の塊の中に入っている。

プルーム・アゲート。アメリカ、テキサス州産。アクセサリー用にカボッション・カットされたもの。このように複数の色が入ったプルーム・アゲートは「ブーケ・アゲート」と呼ばれる。

 これらの形は植物などではなく、主に鉄などの金属の結晶です。メノウは地下の岩の空洞などにメノウの成分を多くふくむ熱水が入ることで少しずつ出来ていくのですが、そのときに鉄などの金属の結晶もいっしょに成長し、最終的にメノウに包まれてひとつの塊になったのです。こうした、主な鉱物の中に入っている他の鉱物の結晶を「インクルージョン(含有物)」と呼びます。

 アメリカでは20世紀半ばからメノウやジャスパーなどの半貴石を使ったアクセサリー作りの趣味が盛んになりましたが、小さな花や羽根のような形の入ったこれらのメノウは手作りのアクセサリーに最適でした。インクルージョンのあるメノウは薄く切って磨くとその美しさが際立つので、カボッションカットといって、楕円形の薄い板状に加工されたものがたくさん作られました。

 こうしたアクセサリー作りのブームを支えたのが、アメリカのオレゴン州やテキサス州などで次々に発見された美しいメノウの産地です。産地によってインクルージョンの色や形に特徴があります。自然のものですので、採り尽くされてしまった所も少なくありませんが、今も新しい産地が見つかり、古いストックも市場に出てくるのです。

インド、ウッタル・プラデーシュ州産のデンドリティック・アゲート。薄い縞メノウの層の間に二酸化マンガンの結晶が成長したもの。

カザフスタン、プスタン産のデンドリティック・アゲート。カボッション・カットされたもの。木立のある風景画のように見える。

日本、青森産のモス・アゲート。日本では「草入りメノウ」と呼ばれている。

プロフィール

山田英春

やまだ・ひではる|書籍の装丁を専門にするデザイナー。石の模様の美しさ、面白さに魅かれ、メノウやジャスパーなどの石の蒐集を続けている。
本業の傍ら、世界各地の古代遺跡・先史時代の壁画の撮影をしている。
著書・編書に『巨石──イギリス・アイルランドの古代を歩く』(早川書房、2006年)、『不思議で美しい石の図鑑』(創元社、2012年)、『石の卵──たくさんのふしぎ傑作選』(福音館書店、2014年)、『インサイド・ザ・ストーン』(創元社、2015年)、『奇妙で美しい石の世界』(ちくま新書、2017年)、『ストーンヘンジ』(筑摩選書、2023年)、『増補愛蔵版 美しいアンティーク鉱物画の本』(創元社、2023年)などがある。

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