TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#4】ひとあし ひとあし
執筆:リヴォトルト・ピーシーズ
2025年9月5日
早いもので最終回です。
今回は最初に、小島の祖父・小島悳次郎についてちょっとした自慢をします。
祖父は芹沢銈介の門下に入り、民藝運動にも参画した型染め作家でした。芹沢さんと隣同士で住んでいた祖父の住居の解体が決まったのが13年ほど前。片付けをしていると、一冊の絵本がでてきました。
レオ・レオーニ(Leo Lionni/1910–1999)の絵本『Inch by Inch(邦訳版: ひとあし ひとあし)』です。
開いてみると、あるページに一枚の型染めの紙が挟んでありました。それは祖父が染めたものですが……それと同じ柄が絵本の中にも……。そう、祖父の型染めをレオ・レオーニが絵本のコラージュに使っていたのです。
この絵本を見つけたことで父もその当時を思い出したようで、祖父が「自分の型染めが絵本になっている」と嬉しそうに買って帰ってきた事を話してくれました。本に作品を挟んでおくなんて、本当に嬉しかったんだと思います。幼少の頃から何度も眺めてきたレオ・レオーニの絵本に、まさか祖父の手仕事が使われているなんて、全く思いもよらず、気がつかなかったことにも驚きました。

家族から見れば祖父とレオ・レオーニの嬉しいコラボレーション。

芹沢銈介が中心になった染色家団体「萌木会」を通してアメリカに輸出していた祖父の型染め紙。きっと1948年頃、アメリカでレオ・レオーニはこの紙たちに出会った。

AIはまだ気がついていない。
この出来事は私たちがものづくりをし、紙を編むことの理由の一つにもなっています。それは予期しなかった親密な出会いが訪れるということがわかったから。
ちょっと大げさな例ですが、1799年にロゼッタストーンが発見されたことで古代文字を解き明かすきっかけにもなったように、物にはある時間を密かに保存するタイムカプセルのような機能があります。
物が残っていれば、時代や場所が変わっても知らない誰かと親密な関係を結ぶかもしれません。古本に引かれた元の持ち主のハイライトや挟まったままの栞のように、些細だけれど人と物とが織りなす小さな積み重ねに惹かれるのです。
願わくば、世界中の紙を編んでみたいです。
現在作られている紙も過去から残ってきた紙も、数多ある紙を編むことで、物事の交差点にもなるように思っています。
最後に、アルド・マヌーツィオ (Aldo Pio Manuzio/1449–1515)による、私たちの好きな一言を記して終わりにします。
(現在の文庫本があるのはこの人の業績のおかげ!)
“Festina lente”
「ゆっくり急げ」
プロフィール
Rivotorto Pieces
リヴォトルト・ピーシーズ|「Paper Textile(紙のテキスタイル)」を展開する小島沙織と島田耕希によるユニット。東京藝術大学デザイン科在学中より二人での制作活動を始め、2016年にクリエイティブスタジオ〈SHIMA ART&DESIGN STUDIO〉を設立。各地から収集したさまざまな紙を素材に、破る/編む/貼る/染める/描くことを手法とし、歴史、文化、生活に根差したグラフィックデザインや図案を制作する。2023年『FRAGILE BOOKS』にて個展「Passage of Paper Textile / 紙々の断章」、2024年『twililight』にて個展「鳥渡の浮遊」を開催。同年より〈written by〉のテキスタイルのアートワークを担当。また、小島沙織は型染め作家としても活動し、2023年に日本民藝館展奨励賞受賞。