TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#3】紙は人の似姿
執筆:リヴォトルト・ピーシーズ
2025年8月29日
「どうしてこうなったのだろう。」
街で発見する紙の風変わりな景色につい足を止めてしまいます。そこには人々のユーモアや可笑しさが映し出されているようです。
イタリアの街で出会ったこの紙。
もう知っている紙の姿ではありません。どうしてもっとうまく剥がせなかったのでしょう…。意図せずに残ったシルエットは、古い壁に塗られたペンキの筆跡と呼応して、もはや絵画のよう。
古代の街を土台にして作られたイタリアの街並みは、時代ごとの人々の暮らしにあわせて積み重ねたり塗り替えたりしながら生かされてきました。
内側から外側へと層が重ねられた壁はまるで街の素肌のようです。貼られた紙は人々の心身ともっとも近くで触れ合う柔らかな表皮のような存在に感じられました。
紙と人との距離なんて普段あまり意識しないですよね。けれど私たちが住む東京と旅先のイタリアでは全く異なるように感じられて、ちょっぴり羨ましく思っています。人と物の関係はその土地によって特色を感じます。いま自分に備わっている感覚や認識はほんの一部でしかないことを再確認するのです。
観光地ではこんな紙の姿も発見しました。
奥に見えるのは古代ローマの有名な円形闘技場、コロッセオです。その手前に見える蛍光グリーンの小さな紙は一部の見学者が貼り付けた入場シール。その行為によって、こんなに風変わりな景色が生まれていました。遺跡とのコントラストは写真で見ても強烈です。
この場所に限らず、観光地を訪れる人々が生み出す現象はさまざまな問題を孕んでいることが想像できます。
他方で、上の写真に写るシールの一枚一枚が一人一人の行いなのだと思うと、貼る位置や向きなんかのちょっとした差異がつくるリズムに個々人の姿が見えてくるようでなんだか可笑しいな、とも思うのです。
スマートフォンの画面の中だけで完結するのであれば、こんな景色は生まれることはないでしょう。物によって導き出される感情が失われてしまうことに寂しさも感じます。
何かを作るということは、常に正しさから生みだすものばかりではないように思います。歴史も文化も決して綺麗で完璧で誰にとっても正しい画一的なことではないのと同じように、紙一枚もあらゆる側面を持ち合わせています。
ルーペを覗いて見た紙に繊維の複雑な重なりを発見するように、街に残された紙を観察していくと、奇跡的に今を紡いでいる人々の無意識の暮らしが見えてきます。
だからこそ、紙は愛おしいのです。
プロフィール
Rivotorto Pieces
リヴォトルト・ピーシーズ|「Paper Textile(紙のテキスタイル)」を展開する小島沙織と島田耕希によるユニット。東京藝術大学デザイン科在学中より二人での制作活動を始め、2016年にクリエイティブスタジオ〈SHIMA ART&DESIGN STUDIO〉を設立。各地から収集したさまざまな紙を素材に、破る/編む/貼る/染める/描くことを手法とし、歴史、文化、生活に根差したグラフィックデザインや図案を制作する。2023年『FRAGILE BOOKS』にて個展「Passage of Paper Textile / 紙々の断章」、2024年『twililight』にて個展「鳥渡の浮遊」を開催。同年より〈written by〉のテキスタイルのアートワークを担当。また、小島沙織は型染め作家としても活動し、2023年に日本民藝館展奨励賞受賞。
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