カルチャー
「クリエイティブでいることに、また恋をした」。ジャパニーズ・ブレックファスト、ミシェル・ザウナーの今。
4thアルバム『Melancholy Brunettes(& Sad Women)』リリース記念! 来日中のミシェルに会ってみた!
photo: Kosei Yamauchi
movie: Arisa Ito
translation: Tsukasa Tanimoto
text: Miu Nakamura
edit: Ryoma Uchida
2025年8月8日

ジャパニーズ・ブレックファスト(Japanese Breakfast)の名を冠して活動を始めてから、今年で12年目のミシェル・ザウナー。前作『Jubilee』ではグラミー賞に2部門ノミネート。初エッセイ『Hマートで泣きながら』は、オバマ元大統領の推薦本にも選ばれるなど快進撃。そんな彼女が今年3月に4枚目のアルバム『Melancholy Brunettes(& Sad Women)』を発表。自身のルーツとなる韓国に滞在した一年間のエピソードを色濃く反映し、複雑なギターサウンドと、アルバム内に散りばめられた“メランコリー”で彩った、大人な一枚に仕上がっている。
6月に行われたジャパンツアーに合わせ、来日したミシェル。東京公演の前日にも関わらず、POPEYE Webチームのために時間をとってくれました! ということで、新作アルバムについてはもちろん、韓国滞在のことや音楽にハマったきっかけ、究極のコンフォートフードまで、気になることをいろいろ聞いてみました。それでは、ぜひ読んでみてね〜。
渋谷のレコードショップ『ウルトラシブヤ』さんでインタビュー。レコードをディグしながらお話を伺いました。ちなみにミシェルさんは、ジャケ買い派らしい!




ミシェルさん、好きな食べ物はなんですか?
ーーこんにちは。お会いできて嬉しいです! 日本に来たのは何度目ですか?
こんにちは〜。今回で7回目です! 初めてきたのが新婚旅行のときで、それからライブやフジロック、旅行などでたびたび訪れていて。来るたびに少しずつ日本の文化を理解できてきた気がして嬉しいです。毎回アルバムを出すサイクルになると、「日本に行きたいな」と思うくらい、私にとってすごく大切な場所なんですよ。
ーー今日はすごい雨ですね。今の雰囲気に合わせて、この記事ページのために新作アルバムからひとつBGMを選んでもらえますか?
『Picture Window』が良いと思います! 大きな窓から雨を眺める日に聴くとぴったりな曲なんです。記事を読みながらぜひ聴いてみて〜。
ーーお会いできた記念に、プレゼントを持ってきました!
ワオ〜! 寿司に相撲、それからシバ犬のステッカーだね。ありがとう! どれも素敵だけど、特にウニといくらがとびきり可愛いね。実は昔、日本食レストランで働いていたことがあるんだよ。あなたは何が好きなの?
ーータマゴかな?(笑)
お手頃に済むね(笑)。
ーーところで、ミシェルさんの一番好きな食べ物ってなんですか?
難しい質問ですね……。
でも、韓国料理が一番好きです。一番好きなのは、たぶんキムチチゲ。あとは卵かけごはんもすごく好きです。生卵じゃなくても、半熟の卵をごはんにかけるだけでも、私にとっては究極のコンフォートフードです。トップ3を挙げるなら、韓国料理、日本料理、そしてイタリアンですかね。でもメキシコ料理も好きなんです。
ーー幅広いですね(笑)。
けっこう幅広いです(笑)。韓国に住んでみて、私はけっこういろんな味を求めるタイプなんだなと実感しました。そういう意味では、アメリカ人っぽい味覚を持ってるのかもしれないです。
ーー日本にはたくさん来られていますが、中でも印象的な思い出はありますか?
私のライブのオープニングを飾ってくれた、ジンジャー・ルートに会ったことかな。去年の12月、東京に来たときに『ドーバーストリートマーケット』のイベントに来ていた友達と一緒にいて。そのときに初めて彼と会いました。彼が1st EP『Psychopomp』の大ファンで、過去にも何度もライブを観に来てくれていらしく、大学の論文にも私のことを書いたらしいんですよ。
ーーそうだったんですね! 二人にはどこか共通するスタイルがあるような気がします。
私は小さい頃、とにかくたくさんアニメを見て育ったんですよね。そのとき観たアニメのオープニングやエンディングの、キャッチーでポップなサウンドが今でもすごく印象に残っています。で、彼もアニメからすごくたくさんの影響を受けているようで。初期の音楽の原体験に共通する部分もあってか、自然と「一緒にやろう」となりました。
実は彼と出会う前から、友達が「ジンジャー・ルートはMVやビジュアルの世界観づくりにもすごく力を入れていて、あなたの音楽を思い出した。気が合いそう」と勧めてくれたんです。そのあと、ブッキングエージェントからも「彼、あなたのことが大好きで、ぜひオープニングアクトをやりたいと言ってる」と名前が出てきたんです。2回も名前が出てきたので、気になって彼の作品を観てみたら、本当にユニークで素敵で!
ーー確かに、ジンジャー・ルートさんは音楽だけじゃなく映像作品も見応えがあります。ミシェルさんもご自身で全てのMVのディレクションをとられていますね。しかも、今回のアルバムは今までよりも韓国のクルーがたくさんクレジットされている。これまでと違った点はありましたか?
いろいろ乗り越えなきゃいけない場面も多かったです。まだ存在してない何かを伝えるって、それだけで難しいじゃないですか。人によって受け取り方も違いますし、細かく説明しても誤解が生まれやすい。それをさらに別の言語でやるとなると、難しさが増しますよね。そんな中でも、今回のMVは自分の中では今までで一番いいものができたと思ってます。アルバムのカバーも、韓国で撮影したビジュアルも、すごく満足しています。
ーー2024年はまるまる1年、韓国に滞在されていたとか。ご自身の活動にはどんな影響がありましたか?
必要な休息がしっかり取れたことで、音楽をつくることやクリエイティブでいることに、また恋をしたような感覚になれました。それに、韓国語を学んだことは自分にとって大きかったです。でも、それと同時に、学べば学ぶほど自分が“流暢”にはほど遠いってことを実感しました。別の言語で仕事を進めるって、本当に一番難しいことのひとつだと思います。
ーー私も今まさに、自分の第二言語である英語でインタビューしていますが、コミュニケーションの難しさについて痛いほど共感できます……。
ちゃんと伝わってますよ! 私も韓国語でなら同じくらいのレベルで話せる気がします。感情や広いテーマについて話すのはある程度できるようになったんですけど、「こういうふうに正確にやってほしい」っていう仕事での内容になると、一気に複雑になっちゃうんですよね。
ーー韓国に住んでいた一年間は、韓国の音楽や映画にひたすら触れていたとか。ぜひおすすめを教えてください!
イ・サンウンの音楽が大好きになりました。彼女の『Secret Garden』という曲が特に好きです。映画では、イ・チャンドン監督の作品が大好きです。『シークレット・サンシャイン』(2007年)、それから『バーニング』(2018)が特に印象的でした。




物語をつくることは、自分をよく理解すること
ーー新作のアルバムについて教えてください! アルバムタイトルの「Sad Women(悲しい女性たち)」とは、誰のことでしょうか?
このタイトルは、アメリカの短編小説家、ジョン・チーヴァーの作品『World of Apples(りんごの世界)』からの引用なんです。ある男性が妻以外の女性との恋愛を空想していて、その中でいろんなタイプの女性を挙げていて。「Melancholy Brunettes(憂鬱な茶髪の女性)」という表現が出てくるんです。前作『Jubilee』とはまったく異なる作品になることを伝えるには、ぴったりのタイトルだと思いました。「Jubilee(祝祭)」と「Melancholy(憂鬱)」って、それぞれまったく反対の言葉ですよね。今回は、あえてそういう違いを明確にしたかったんです。それに、『Melancholy Brunettes(& Sad Women)』というのは、特定のタイプのリスナーへのサインでもあります。ロマンチックで物思いにふけるようなタイプの人だったり、少し内向的でダークな気質を持った人に向けている。そんな人たちに届くように、という思いを込めました。
ーーまさに刺さりました! ご自身の著書『Hマートで泣きながら』では、食に関するエピソードが多く扱われていましたが、今回のアルバムにも数々の食べ物が登場していました。楽曲制作する上で食からインスパイアされたことはありますか?
今回のアルバムの『Orlando in Love』という曲では「ミルキーなスープ」について歌っていて、これは韓国のソルロンタン(牛骨スープ)のことなんです。他にも「ハチミツ水」が出てきたり、アルバムジャケットにもいろんな食べ物が登場します。少しずつ食にまつわるキーワードが歌詞の世界観を象徴するような存在になっていますね。
ーー韓国の食べ物もアルバムの緻密な世界観に組み込まれているのですね。メランコリーな雰囲気との相性がユニークで面白いです。
食にまつわる思い出は、物語のバランスをとってくれるように思います。『Hマートで泣きながら』では重いテーマを扱いましたが、食を通して少し温かさややわらかさを加えようとしたんです。
ーー執筆活動もするミシェルさんですが、今回のアルバムで、小説から影響を受けることはありましたか?
そうですね。今回のタイトルだけでなく、創作において、文や文体からかなり影響を受けます。アルバム内の『Orlando in Love』も、チーヴァーの『World of Apples(りんごの世界)』から学んだところが多いです。トーマス・マンの『魔の山』からも大きく影響を受けました。
ーーミシェルさんのクリエイティブから、いつも物語的な視点を強く感じます。大学で映画を学ばれたことも関係しているのでしょうか。
大学ではクリエイティブ・ライティングと映画を学んでいたんですが、それも関係ありそうです! それに、私は一人っ子で、森の中みたいな田舎で育ったんです。近くに同年代の子もいなかったので、ひとりで過ごす時間がすごく多くて。本や映画の世界に入り込むことで孤独を紛らわせていたんだと思います。だからこそ、アートの中に居場所を見つけたような感じがあったんです。
ーーそもそも音楽に興味を持ち始めたのはいつ頃から?
どこから話そうかな……。私の家族はあまり音楽が好きというタイプではなかったので、家の中で音楽が流れているような環境ではなかったんです。でも、たぶん15〜16歳くらい、もしかしたら13〜14歳くらいだったかな。アメリカのオレゴン州、パシフィック・ノースウェストという地域で育ったんですけど、そこには独特のインディーロック文化があるんです。エリオット・スミスやデス・キャブ・フォー・キューティーのようなアーティストみたいに、繊細な歌詞とダイナミックで感情豊かなサウンドを持つバンドに出会いました。初めて、自分自身で家族とは別に「好き」と思える対象に出会った瞬間でした。
ーーそういう瞬間って忘れられないですよね。
そうなんです。他にも、キミヤ・ドーソンやマウント・イアリー、ジョアンナ・ニューサムのような、ちょっと変わった声や、シンプルな演奏のアーティストにもすごく惹かれました。親密でパーソナルな世界観がすごく好きで。自分もその中に入りたくて、曲を書きたいと思ったんです。
ーー子供の頃はどんな遊びをしていたのでしょうか?
本を読んだり、映画やアニメを観たり。それから、自分の生活で起きた小さな事件から、物語を作ったりもしていました。想像力を自由に働かせたり、物語を作ったりすることは、子供のころ森の中で静かに過ごしていたときに編み出した一種の遊びだったんです。
ーーそういったプロセスは今の活動に大きく関係していそうですね。
そうかもしれないです。曲を書くときも、そのときの生活や状況にかなり影響を受けます。やっぱり、自分で物語を作ることの強みって、自分自身や自分の感情、他の人や世界のことを理解する助けになることですね。自分のことをもっとよく理解しようとしているんです。とにかく、楽器でも言葉でも、何かを使って自由に表現してみるっていうのが、自分や世界を理解する上でも大事だと思います。
ーー新しいアルバムの活動で忙しいと思いますが、落ち着いたらまず何がしたいですか?
また仕事に戻りたいです!(笑) 働くのが好きなんです。本も書かないといけないし、静かな場所で過ごしたくて。ニューヨーク州北部の田舎に家があるんですけど、大きな窓があって、自然を眺めながら執筆できるんです。執筆だけじゃなくて、音楽づくりもまた楽しみです。今回は、これまでより早く新しい作品ができそうな気がしています。それからまた韓国に戻って、勉強にも励みたいと思っています。とにかくやりたいことがたくさんあるんですよ。
インフォメーション

Michelle Zaunner
みしぇる・ざうなー|1989年、アメリカ合衆国オレゴン州生まれ。シンガーソングライター、作家、アメリカのインディポップバンドJapanese Breakfastのリードボーカル、ギターとして知られている。同バンドから2021年に発表された3rdアルバム『Jubilee』は、第64回グラミー賞で2部門にノミネート。2025年3月に新アルバム『Melancholy Brunettes(& Sad Women)』をリリースした。また、自身初となる著書『Hマートで泣きながら』は、ニューヨーク・タイムズをはじめとする10以上の媒体でベストブックに選出された。
Instagram
https://www.instagram.com/jbrekkie/
Official Website
https://japanesebreakfast.rocks/

FOR MELANCHOLY BRUNETTES (& SAD WOMEN)
発売日:3月21日
品番:DOC425JCD(CD)DOC425JLP-C5(LP)
定価:¥2,500 +税(CD)、¥5,800 +税(LP)
その他:世界同時発売、解説/歌詞/対訳付、日本盤ボーナス・トラック収録(CD)
世界同時発売、解説/歌詞/対訳付、ボーナス・トラック「Young Gun」のダウンロード・カード封入、限定カラー盤(LP)
発売元:ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ
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