TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】近くて遠い国、中国

執筆:奥村忍

2025年8月3日

 中国は近くて遠い国だな、とつくづく思うことがたまにある。最終回の今日はそんな話。

 数十回渡航していても、ああ、日本人ってこんなふうに思われているのかと思うことがあって、さすがに中国では現代日本にサムライや忍者がいるとは思われていないけれど、高齢の方の娯楽の一つに抗日ドラマ(戦争時代を舞台にしたドラマで、多くが野蛮に描かれた日本兵を中国兵が打ち負かすシナリオ)があって、かつて知り合ったおじいちゃんに「トツゲキー(突撃)」などと言われたりすることもあった。悪気は無く、知っている言葉を発しただけなのだけど、ちょっと複雑な気持ちになる。

 若い人はさすがにそうじゃないだろう、と思うでしょう。日本贔屓の若者もものすごくたくさんいるけれど、一方関心が無い人もいる。去年、雲南省のあるホテルでサインが必要な場面になって、漢字でサインをしたら、「え?日本人って漢字書けるの?」と若い従業員に驚かれた。いや、僕の方がビックリですけど。日本に興味が無ければ日本人がどんな文字で生活しているかも興味がないか。いやしかし。

 中国人は喋り声が大きいと日本人には言われる。確かに多くの場面でそうだ。思っていることをはっきり伝える必要があるからとも言われるが、中国人にとってみると、感情を崩さず一定のリズムで喋る日本人は時折怒っていたり、気分を害しているのではないかと思うことがあるそうだ。ひとまず自分の感情は強く外に出さないというのも、そんな風に思われているのだ。

 大きいと言えば、声だけでなく音もある。移動中(飛行機や電車やバス)にイヤホンをする人がまだまだ限られていて、爆音を垂れ流し続ける人が割と目に付く。多くの場合高齢者や子供だったりするけれど中高年や若者にもいる。なんでこんな大きな音で動画を垂れ流すのか、とびっくりする。3時間の移動中なんかに、近くの席でずっと爆音で動画を流されるとグッタリする。これはスマホ普及以降、一番嫌なことかもしれない。

 しかし北京オリンピックなどを契機に、パジャマで外出する人は本当に減ったし、コロナ以降、痰吐き散らしおじさんも極端に減った。以前は毎日足元にタンやツバが飛んできてビクビクしたものだ。かつては中国名物と言えば駅などさまざまな場面での割り込みだった。列に並んでしまった自分が悪かったのではないかというぐらい列が進まない場面に遭遇したことがある人は、最近はすっかり整列が当たり前になってきて、割り込みする人が怒られたり、民度が低いと陰口を言われていたりもする場面を目にすると、きっと驚きを隠せないだろう。

 そんな時は近くて遠い国も、結構近くになってきたかな、なんて思ったりする。

 ところが暑い時期、男たちがTシャツの腹だけめくって、たっぷりとした腹を出してご飯を食べたりしている(通称北京ビキニと言うらしい)姿を見ると、やっぱり近くて遠いか、とも思う。

 今や14億人と呼ばれる人間が十人十色、それぞれ個性を主張するのだから、そりゃいろんなことが見えてきます。でも、出会う笑顔が良いんだな。

 よく初めて中国に行く友達には、見た目が似ているのに文化がいちいち違うからイライラしがちだけれども、そこを大らかに楽しむ気持ちで行くと中国は楽しいよ、と伝える。

 X(旧Twitter)を見ていると、よく来日した中国人のマナーの悪さみたいなものをアップしている人がいるが、多くのものが極端な例を切り取っているように感じるし、おそらくアップしている本人は中国に行ったことが無いのだろうなと思う。お互い”常識”に感じていることにズレがあり、私たち日本人にとっての”常識”が時に世界の”常識”ではないことも想像できれば、もう少し優しい世界になるような気がする。

 そうそう、この連載を書きながら、実は「中国手仕事紀行」の続編を書いています。次作はエリアを変えて中国沿岸部の広東省と福建省。手仕事も美味しいものもたっぷり詰まったエリアになる。来年出版になります。どうぞちらっと覚えていてくださいね。

プロフィール

奥村忍

おくむら・しのぶ|1980年、千葉県生まれ。大学卒業後、放浪。WEBショップ『みんげい おくむら』を2010年オープン。国内外から手仕事による生活道具を提案する。作り手や産地を巡り、選ぶことをモットーとし、月の2/3は手仕事に触れる旅をする。近年では中国民藝に特に力を入れており、消えつつある中国の手仕事を
探し歩く旅を『中国手仕事紀行』として2020年に出版(青幻舎)。2024年末にはコロナ後の様子を加筆した増補版が新たに出版されたばかり。