TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】持ち帰れない中国の手仕事

執筆:奥村忍

2025年7月27日

 ウンコや串焼きの話をして終わってしまうとマズいので少し自分の仕事にちなんだ話もしてみようと思います。『みんげい おくむら』の奥村です。

 拙著『中国手仕事紀行』にもいろいろと手仕事のことは書いているけれど、持ち帰れるものはうちのwebで販売しているのでそれを見てもらうとして、今日は持ち帰れないものの話。

 持ち帰れない工芸、手仕事。例えば家。民家だ。日本でも北海道と沖縄の家の作りが全く違うように、中国も土地によって、気候によって、民族によって、さまざまな家の作りがある。今や都市はタワマンだらけの中国だけれども、それでも列車やバスでちょっと郊外を走っていると、ハッとするような伝統家屋が集まったエリアに出くわすことがあって、そんな一瞬が移動の楽しみでもあったりする。

 住宅建築に携わっていたり、携わろうとしている人ならきっと中国旅は楽しいはずだ。田舎なら家の作りが気になると言えば結構入れて家の中を見せてくれたりもする。

 雲南だけでも、南は木造の家屋が多く、高床式も多いが、民族や場所によって細かな違いがあるし、少し北に行けば大理(白族)や麗江(ナシ族)、香格里拉(チベット族)、と明らかにそれぞれの伝統家屋は姿が違っている。

民族:タイ族

民族:ハニ族

民族:ペー族

 手仕事が生まれる背景には文化があり、文化は環境から生まれる。環境とは暮らす土地の自然でもある。環境そのものは当然持って帰れない。写真には写るが、写しきれないものもある。

 例えば草。野草だ。自然そのものと言っても良い。僕の本『中国手仕事紀行』の舞台である雲南省貴州省はさまざまな自然環境があり、少数民族それぞれがかつてはそれぞれの土地の薬草を用いて医療を行っていた。中医学や漢方と言われるものともちょっと違う、もっとそれぞれの民族に根ざした民間医療や民間信仰的なものだ。西洋医学や中医学が受け入れられるようになった現代でも、さまざまな形でそれは残っている。

貴州はこんな感じ。

 貴州のある村ではステイ先の苗族のお宅のお母さんが、夕方の散歩中に、僕には雑草にしか見えない草を摘んで歩いた。なんでも山には1000を超える薬草があると言う。その時に摘んだものは全て食べられるものだけで、夕飯に鍋に入れて食べたのだけれども、入れる前と後のスープの味の変化は驚くべきものであった。山の味がした。それも複雑なのに澄んだ、清らかな味だった。その鍋は貴州省で酸湯魚と呼ばれる、発酵トマトベースのスープで魚を煮込む料理で、貴州の定番郷土料理。しかしそんな野草が入るものは町の食堂やレストランでは体験したことがなかった。

 草それだけでは手仕事とは言えないだろうが、それを組み合わせたり、状態を変えたり(乾燥や粉末化)など、そうして使うのは人の手の仕事と言っても良いだろう。
 
 僕の中国旅には最近料理家がよく付いてきてくれる。違う目を持った人との旅は楽しい。初めましての人といきなり海外を旅するのは緊張するから、友人の友人ぐらいまでで建築や野草などに興味がある人はぜひ僕の旅に加わってもらいたい。その目でまたこの土地を知ることができたらますます楽しいだろう。

プロフィール

奥村忍

おくむら・しのぶ|1980年、千葉県生まれ。大学卒業後、放浪。WEBショップ『みんげい おくむら』を2010年オープン。国内外から手仕事による生活道具を提案する。作り手や産地を巡り、選ぶことをモットーとし、月の2/3は手仕事に触れる旅をする。近年では中国民藝に特に力を入れており、消えつつある中国の手仕事を
探し歩く旅を『中国手仕事紀行』として2020年に出版(青幻舎)。2024年末にはコロナ後の様子を加筆した増補版が新たに出版されたばかり。