From Editors

旅を終わらせてたまるか。

NO.940

2025年7月8日

5月に香港に取材に行ったのに、いまだに旅ボケ中です。

飲茶で浮かれています。このときから旅ボケは始まっていた。

POPEYE最新号は昨年に続き、アジアの一人旅がテーマ。一人旅ってワクワクしません? フライトに乗り遅れても気まずくなる相手もいないし、寝坊して朝食を諦めても誰にも怒られない。ご飯だけはちょっと困るけど、海外に来てまで人の目を気にするなんて!と、夜景の見えるレストランなんかはお一人様の貫禄の見せ所です。そういうのも全部ひっくるめて一人旅なんですけど。

今回の旅先はバンコク、香港、バリ、ホーチミン、ルアンパバーン。5つのチームに分かれて、それぞれの街を取材してきました。街ごとに景色も空気感も違っていて、まさにアジアの多様性。どこも魅力的です。そして、まだまだ旅は続くぞ!という思いを込めたBook in Book付き。旅好きたちが最近行ったアジアの話、ローカルの人に聞いた自国のニッチな旅、いつか行ってみたい旅まで。旅の予定がない人でも、読んだらきっと計画を立てたくなる保存版です。

私自身は編集3年目にして、初の海外出張。しかもずっと行きたかった香港。それはもう、ドッキドキのワックワクでした。街の景色は本誌でご覧いただくとして、香港映画好きの自分にはたまらない世界で。坂道も、2階建てトラムも、ネオンの看板も、何もかもがスクリーン越しに見た憧れの風景。映画を見た頃の自分に「今ここ歩いてるよ!」って教えてあげたい瞬間の連続で、それは浮かれていました。とはいえ、香港も異国。英語で取材だー!と意気込んでたのに、広東語しか通じないお店ではご飯すら頼めない。タクシーでは行き先を伝えられず、ひたすらGoogle Mapを指差して滝汗。ぼけーっと歩いてたらトラムに轢かれそうになって冷や汗。でも1週間もいると街に愛着も湧いて、そのうち帰りたくないな、なんて考え始めるのです。

香港の街中では、私たちは常に急かされている。挨拶以外で唯一覚えた広東語は「快啲啦!」(早くしろ)。
歩行者信号の音がトラウマ。早く渡るから!

そして思うのが、Book in Bookのテーマにもなっている「MY JOURNEY NEVER ENDS」。子供の頃は旅が終わるのがとにかく寂しくて、帰りは泣きそうになってたっけ。でも大人になって気付きました。家に帰って荷解きをして、お土産を整理して、写真を眺めて、人に話して。帰ってきても旅は終わらないのです(原稿はもっと終わらない)。

特集で話を聞いていても、インドに行っても別に人生観は変わらなかったという猛者もいれば、バンコクに行って「俺、変わったかも」と言い出す人もいて。旅の感じ方は人それぞれだけど、10年後もふと思い出すような瞬間的な体験があるはずです。何かを変えるとか、自分を見つけるとか、そういう壮大なテーマがなくてもいい。ローカルのコンビニで買ったペットボトルのデザインが妙にかわいかったり、駅の表示がやたらカッコよかったり。

今回現地取材したスタッフたちも、そんな話ばかり熱量高く語ってくれました。旅って帰ってきてからが意外と長い。振り返るたびに楽しいし、話すたびにちょっと盛られていく(笑)。だから旅ってコスパがいいんです。たぶん「思い返したくなる瞬間」がひとつでもあれば、それでもう十分!

ビアガーデンのような夜の競馬場にも浮かれまくり。日本じゃありえないくらいの超至近距離で見たナイトレース、いつまでも忘れられない瞬間になりそうだな〜。

この特集には、そんな旅の余韻まで詰まっています。ページを眺めて「あー、旅したいかも」って思ってくれたら、それが旅の始まりです。夏の航空券は迷ってる間に値上げされます。さあ検索。かく言う私は、校了中にロンドン行きのチケットを買いました。旅ボケ、まだまだ終わりそうにないんですけど!

(本誌担当編集)大塚すみれ