TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】フレスコのこと。

執筆:大野彩

2025年6月30日

 フレスコ画のある地域を日本から東へ辿(たど)ってみると、朝鮮半島から中国の敦煌、キジル、そして東欧ルーマニア東北部のモルドバ地方。ここは、冬-30℃にもなりますが、フレスコ画に覆われた修道院群が見られます。美しいフレスコ画は北壁に積もる雪の凍結にも耐える強靭なものです。ルーマニア正教のひさしの長い修道院は魅力的でユネスコの世界遺産にもなっています。

ヴォロネッツ教会
wikimedia commonsより(public domain)

 イタリア中部のエトルリアの墳墓の壁にはローマ支配以前の伸び伸びとした表現が見られます。そして、ヨーロッパ、イタリアへとつながります。ルネサンス発祥の地トスカーナ地方、その中心のフィレンツェ、もっと古い南イタリアのポンペイの町。栄えていたこの町は紀元79年のヴェスヴィオ火山の噴火により、町中が火山灰に埋もれました。この時代の豪邸は美しく彩られていました。18世紀になって発掘が始まります。皮肉なことに降り積もった火山灰のおかげで保存状態は極めて良好でした。赤く磨かれた光る秘儀荘秘儀の間は有名です。

赤い秘儀荘「秘儀の間」
wikimedia commonsより(public domain)

 また、インド、アジャンタの石窟寺院にも仏教美術が隆盛だった5~7世紀のフレスコ画を見ることができます。

 歴史の時間と空間を超え、その土地とその時代の表現を見ることができるのです。大陸を走るフレスコのシルクロードです。

 これらの技法にエジプトの壁画を加えて、私たちは「歴史的8技法」として下地から再現を試みました。

イタリアのポンペイ

ブオン・フレスコ

ルーマニア

エトルリア

キジル、敦煌

高松塚

エジプト

ズグラフィート

 制作工程動画もご覧ください。(※註:歴史的技法としてエジプトを取り上げていますが、技法はテンペラの仲間です。)

 ズグラフィートは現代も使われる、2層以上の層を削って作る方法で外壁にも使えます。

『コンディトライなかがめ』ドイツ・スイス菓子(小田急線生田駅そば)制作:壁画LABO

 このような長いながい歴史を持つフレスコに興味を持った現代の画家たちは、石灰と関わる方法で、今も絵を描いています。歴代のフレスコ画家は、左官をしなければならない少々厄介なこの技法が大好きです。紙の上のフレスコも研究されています。

 私たち「フレスコ普及協会」は2年に1度「フレスコ展」を開いています。今年2025年のフレスコ展は7回目、40人ほどの作家たちが集まって展示をしました。これからもビエンナーレで展示を続けていきたいと思います。フレスコ画家の個展やグループ展、ワークショップについてもフレスコ普及協会のHPでお知らせします。どうぞ覧ください。

参考:岩波アクティブ新書「フレスコ画への招待」大野彩 絶版(amazonで見つかります)

プロフィール

大野彩(勝山彩)

おおの・みさお|1953年、東京都出身。フレスコ画家。フレスコ普及協会代表、壁画LABO主催。多摩美術大学油絵科卒業 東京芸術大学大学院壁画科修了(フレスコ専攻)。東京芸術大学大学院非常勤講師、武蔵野美術大学非常勤講師、早稲田大学客員研究員、東京文化財研究所協力研究員、多摩美術大学講師などを務める。著書に『フレスコ画への招待』(岩波アクティブ新書/2003年)。2008、09年には多摩美術大学共同研究「時を航(ルビ:わた)るフレスコ」展Ⅰ・Ⅱを開催。『ジブリ美術館エントランスホール制作』(壁画LABO/2001年)を手がけるほか、医療施設、寺院、図書館、商業施設など、屋内外壁にフレスコ壁画制作する。その他個展多数。

フレスコ普及協会 Official Website
https://fresco-net.jp/

壁画LABO Official Website(フレスコ画の描き方や、制作した作品について見られます。)
http://www.hekigalabo.com/