TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】君を幻になんてしないよ

執筆:大竹笙子

2025年5月11日

初めて版画体験をしたのは2000年の暮れ、翌年2001年の年賀状用に作ったゴム版だった。2001年が21世紀の始まる⺒年ということで、2と1の形になっている2匹のヘビを彫った。送った分だけ年賀状が届いていたのも春や昔十五万石の城下かな、今では片手で数えられるほどしか来ない。寂しさも感じるが、単純に年賀状という習わしが好きなので、今も一方的に送りたい人には送り続けている。

デンマークでは今年の年末から400年続いた郵便配達がなくなるというニュースを見た。 もし今デンマークに住んでいたら、年賀状作りも今年で終わりということだ。 日常から郵便物が消えるという、私にとってはフィクションのような現実がデンマークに迫っていると思うと、遠い未来に来たもんだという気持ちになる。

学生時代の膨大な手紙交換のおかげか、私はそもそも手紙という物質が好きだ。 毎日会うくせに何をあんなに交換していたんだろうと、学生時代を思い返すと不思議で仕方ないが、1日に何往復も交わすこともあった。あれは⻘春を交換していたのか!
LINEが当たり前の今の学生の間でも、手紙交換はまだ当たり前として存在しているんだろうか?
H/K(話変わるの略)ももう伝わ、、らないですよね?(AI調べによると、「2000年代の女子中高生間で流行したもので、現代のようなLINEではなく、手紙というのがほほえましくなっちゃいますよね」とのこと。AIのほほえみによってもう伝わらないことを察した)

とにかく私は手紙が好きだ。
2年前、韓国に住むソユンと、展覧会グッズで 100 枚ハガキセットを一緒に購入した。 手放すのが惜しいと思うハガキも、お互いが送り合えば結果手元に残ると言うことで、不定期ではあるが今でも同じ柄のハガキを送り合っている。 近所のポストに入れたハガキを、近所の郵便屋がピックアップし愛媛を離れる。ソウルの郵便局に着いたハガキは、ソウルの郵便屋によってソユンの家に届く。
国を越えた hand to hand の人間による手渡し道中のおかげで、たった 1 枚のハガキが、愛媛にいる私からソウルにいるソユンに届くまでの時間を想うと、毎回大げさでなく感動する。
せめてこの日韓友愛100ラリーが終わるまでは、日本郵便の安寧を祈る。

ソユンの仕事が忙しそうだった頃、私から送った手紙。ちょうどコラージュ作業をしていた時期だったので、コラージュで手紙を送った。手紙はもらうも送るもどっちも嬉しい。

今も年賀状は、初めて版画体験をした2000 年以降も変わらずゴム版画で作り続けている。今年で干支が丁度2周した。 「メールで良くない?手紙とか時間と紙と人件費の無駄でしかなくない?」という意見にノーを突き付け、拳を突き上げながら今後は郵便物復興活動の一端として、より一層年賀状作りに精を出したい。デンマーク人の分までも!

初めて彫った年賀状。2と1のヘビの下に、メッセージが書けるように3匹目の極短極太ヘビも彫ったことは全く覚えていなかった。

年賀状作りが私の制作活動の原点で〜という話をしたかったのに、こんな展開になってしまった。
残り3回、何卒宜しくお願いいたします。

プロフィール

大竹笙子

おおたけ・しょうこ|1993年生まれ。2017年ロンドン芸術大学テキスタイル学科卒業。
日常で目にした情景を版画に落とし込み、版を反復したり様々な素材を用いて唯一性のある版画を制作。

近年では、展示の他に本の表紙や挿画、テキスタイル、レコードジャケットなど幅広いジャンルを通して作品を発表している。

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