TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】みんなで野に出よう、手仕事しよう

執筆:向井知(『CIMI restorant』シェフ)

2025年4月30日

CIMI restorant はレストランであり、「これから私たちは何を食べていくべきか」を、生産者、料理人、ゲストといった垣根を超えてともに考えていくための場でもあります。レストランとしては、ちょっと実験的ではあるけれど、私たちはCIMIをひとつのプロジェクトと考えて活動しています。

なので、このTOWN TALKの最終回は、CIMIのレストラン以外の活動について書いてみたいと思います!

まず一つ目は、Field work。
私たちは、できる限り生産者のもとを訪ねて、食材を仕入れています。“顔の見える”ことだけではなくて、その土地の気候風土を肌身で感じて、生産者の方たちの日常に触れ、他愛のない会話をすることもあれば、ときには気候変動の影響で農作物が被害を受けているという苦しい思いを伺うこともあります。そうしたField workを通じて得た、言葉にならない感情や経験を東京に持ち帰って、日々の料理へと活かして伝えていくことを大切にしています。

昨年は、長野の軽井沢〜佐久市春日のエリアへ、1週間ほどのField workに出かけました。軽井沢のグローサリー&カフェ〈Horse and the sun〉のサポートで、Popup dinnerまで開けることになって、訪ねた生産者さんから直接仕入をさせていただいた地域の食材だけで、料理をさせてもらうことになりました。

長野に暮らす方たちにとって、東京の店はふらっと立ち寄っていただけるような距離感ではない中で、生産者の方たちに料理を食べていただく機会はさらに少ないのが正直なところ。だから、Field workに出向いた先でCIMIの料理を食べていただけるなんて、私にとってはすごくスペシャルなことでした。
生産者の方たちも交え、みんなで食卓を囲む光景が胸に沁みて、風土の豊さを改めて感じる時間になりました。

長野県軽井沢 〈Horse and the sun〉 で開催したPopup dinner。 
photo: Manami Takahashi

photo: Manami Takahashi

そして、このField workでは、もうひとつやってみたいことがありました。〈the Blind Donkey〉の頃から仕入れをさせてもらっている佐久市春日の〈長谷川治療院農業部〉長谷川純恵さんの畑で、純恵さんと一緒に時間を過ごすこと。CIMIのことをよく知っていただいている近しい方たちを東京からもお誘いして、純恵さんの畑で一緒に芋掘りを行い、佐久市春日の食材を使ったお昼ご飯をみんなで食べるという小さな会を開きました。

佐久市春日でも鹿の問題はかなり深刻です。純恵さんひとりでは太刀打ちできないこの問題に、地域の方たちが支え合いながらどう取り組まれているのかを、直に聞かせてもらいました。深刻な内容で、簡単には解決できないことばかりだけれど、青空の下、この土地を感じながら、みんなでお話しが聞けたことは、純恵さんだけでなくそこにいたみんなとも深い繋がりが生まれたような気がします。

長谷川治療院農業部 長谷川純恵さん 
photo: Manami Takahashi

純恵さんの畑で収穫させていただいたジャガイモ。
photo: Manami Takahashi

もう一つ、今年は、みんなで集まって季節の手仕事をするクラブ活動を始めました。その名も「CIMI CLUB」。昔のよりあいや、生活クラブのように、いい生産者さんからみんなで共同購入した食材で、ひとりでやるにはちょっと億劫な手間暇かかる手仕事をお喋りしながらやって、ご飯を食べて帰る、というクラブ活動です。クラブ活動なので、ワークショップのような先生はいません。写真の味噌作りでも、いろんな話が飛び交っていたけれど、全員の共通項は「おいしいものが大好き」なことでした。手を動かしながらだと、はじめましての人同士でもすぐ仲良くなれるんだという発見もあり。こうして人の輪を広げていけるのも、〈スキーマ建築計画〉さんにつくっていただいた、このレッドシダーの大きなテーブルのおかげだなと思っています。

CIMI CLUB 味噌づくりの会

家族とも、友だちとも、職場の同僚ともまたちょっと違う仲間ができたような感じ。手仕事を通して繋がって、その先に、たまに日常を助けあえるような集まりになるといいなと思います。私の母も近くにあったら参加したい!と言っていました(笑)。

〈スキーマ建築計画〉制作のレッドシダーのテーブル 
photo: Tetsuya Ito

そんなこんなで、CIMIはこの3月で1周年を迎えました。振り返るといろんな人に関わっていただき、新しい出会いもあり、たくさんの人に助けていただきながら、当初は想像もしていなかったことがたくさん生まれた1年でした。

生産者のみなさん、ゲストのみなさん、CIMIのチームメンバーと一緒につくり続けていくお店です。いろんな人たちが、家のように立ち寄ってくれる場所になれたらいいな。そして、日々、生産者さんの素晴らしい食材を活かす料理をつくり、“おいしい”を通じてたくさんの人と地球に元気になってもらいたいと思っています。
毎日、CIMIでおいしい料理をつくってお待ちしています!

オープン時の写真、オーナーシェフと支配人と。

プロフィール

向井知

むかい・とも|大阪府生まれ。茨城県にある環境NPOで勤務したのち、東日本大震災でのボランティア活動を機に飲食の世界へ。〈DEAN & DELUCA〉をはじめ、複数の飲食店を経て、自身が大きく影響を受けた〈シェ・パニース〉でのインターンが叶う。帰国後、ジェローム・ワーグと出会い、〈theBlindDonkey〉の立ち上げから参加。「RichSoil & Co.」の新プロジェクトとしてオープンした『CIMI restorant』のシェフを務めている。

CIMI restorant Website
https://cimi.jp

Instagram
https://www.instagram.com/cimi_restorant/