TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#1】ジャズ喫茶辞めました!

執筆:加藤寛之(レコード店『Donato』店主)

2025年3月13日

ジャズ喫茶から中古レコード屋に鞍替えして約5か月。
喫茶店はお客さんが入ってきた瞬間ほぼ利益が確定するけど、レコード屋はそうはいかない。
仕事を変える時はそのストレスが心配だったけど、今のところ無問題だ。

看板は引き続き使ってます。ロゴデザインは加瀬透さん。

すごーくじっくり見て何も買わない人もいるし、5分くらいでササっと選んで3万円くらい買ってくれる人もいる。入店時にはその人がいくら使ってくれるのか分からないワクワク感が、案外心地良い。今のところは。

その人の第一印象(年齢や服装、来店した時に他の店のレコード袋を持ってるか)がまったく当てにならないのも良いし、この世にはレコードを日常的に買う人がこんなに居るんだなと毎日感動している。

新『ドナート』契約時はこんな感じでした。

喫茶時代の一番人気、ドナポリタン。

ただ、今現在レコードを買ってる人が10年後も同じペースで買い続けてることは殆どないんじゃ無いかと最近は思う。仕事が忙しくなったり結婚したり子供が産まれたりで、段々レコード収集を辞めていくなんてよくある話だ。20年、30年と中古レコードを買い続けてるのは人口の0.001%くらいなんじゃ無いかと思う。十万分の一、立派な変わり者だ。

とはいえ、中古レコード屋の最大の顧客はそういう「変わり者」であり、なんなら仕入れ先も「変わり者」であることが多い。そういう意味ではレコード屋とは、変わり者の間に挟まってレコードを移動させる仲介業者とも言えるのかもしれない。

先日買取でお邪魔した某コレクターのレコード部屋。

TV番組『家、ついて行ってイイですか?』に出ていた素晴らしい時計のコレクターも「自分のコレクションに愛着はあるけど、全て“今たまたま自分のところにいるだけ”だと思ってる」と言っていた。本当に金言だと思う。

僕も自分が集めてきたレコードを売るのにはそこまで抵抗はない。それよりも今は聴いたことないレコードをもっと買いたい。そのためには沢山レコードを売らなきゃいけない。そうやって巡っていくものなんだと日々感じてる。

出来ることなら一生レコードを買い続けたいと今は思ってるけど、いつかまた喫茶店やりたいなともたまに思う。牛丼屋の夢も捨てきれない。バーとかも良いかもなとか時々考える、歳の離れた友人にはビットコインを勧められてる。こうして迷いながら生きていくのも普通のことなのだと思う。

僕は今30歳。中古レコードを買い始めてから10年くらい経った。僕が十万分の一の変わり者になれるかは、神のみぞ知るなのだ。 

プロフィール

加藤寛之

かとう・ひろゆき|1994年、神奈川県生まれ。2021年11月に御茶ノ水のジャズ喫茶『ドナート』をオープン。2024年11月には、洋食店『キッチン南海 神保町店』が入るビルの2階へ移転し、レコード店として営業を始める。好きなレーベルはデンマークの「STEEPLE CHASE」。

Instagram
https://www.instagram.com/donato_records/