TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】風力発電は地球に優しい『かざくるま』ではない?!

執筆:齊藤慶輔(猛禽類医学研究所 代表)

2025年1月29日

列状に建てられた大型風車(北海道北部)

面的に建てられた大型風車(北海道北部)

青空をバックにゆっくりと回る白い風車。そんな映像が流れるテレビCMを観て、なんだかエコだな~って感じた方も多いのではないでしょうか?

エコはエコロジー(生態学)やエコシステム(生態系)からくる、自然環境に優しいという意味の言葉です。一方、同じエコでもエコノミーは経済を表す言葉ですが、節約という意味もあります。最近、2つのエコに関わる生活様式として、環境に配慮しつつ経済の発展や節約にも繋がる暮らし方が“エコ生活”と呼ばれ、人々の関心を集めつつあります。

火力発電などと違って温室効果ガスを出さない自然エネルギー(クリーンエネルギー)を活用した発電施設は、政府主導で全国に次々と建設されています。再生可能エネルギーの一部である自然エネルギーの代表格に風力発電があります。はたしてこれは本当に“地球に優しい”と言えるのでしょうか?

小型風車に衝突して死亡したオジロワシ(根室市)

風力発電による野生動物への影響として、回転する風車のブレードに鳥が衝突するバードストライクがあります。バードストライクは主に猛禽類や水鳥などで発生しており、以前より世界各国で問題になっています。絶滅の危機に瀕した大型猛禽類が事故に遭うことも多く、北海道だけでもこれまで90羽以上のオジロワシ、オオワシ、クマタカなどが死傷したことがわかっています。

一見ゆっくり回っているように見える大型風車のブレードは、回転速度が最大で時速300kmにもなります。また、あまりにも大きすぎるため飛んでいる鳥の視界から外れ、上からギロチンのように降ってくるブレードに気付かず衝突していることが野生動物法医学の検査から判明しています。ブレードへの着彩や音・光による警鐘によって衝突を防ごうという試みが世界各国で行われていますが、いまだ根本策を見出せていないのが実状です。

小型風車と衝突死したオジロワシ(青丸がオジロワシの位置)

バードストライクで翼の先を失ったオジロワシの収容

小型風車と衝突したオジロワシ(治療の推移)

風発反対!と声高に叫ぶのは簡単です。しかしながら、私を含め由来のはっきりしない電力を毎日使って生活しているのも事実。そうであれば自然環境や野生生物にできるだけ悪影響を与えない形で風や太陽光をエネルギー源として使う方法を模索することが大切ではないでしょうか? 私たちは今、ブレードが無く衝突しにくい新型風車をベンチャー企業と一緒に開発しており、環境省の協力を得て後遺症で野生に帰れないオオワシやオジロワシの飼育ケージ内で実証実験をしています。近い将来、プロペラ型風車に代わる電力源となり、野生生物とのより良い共生を実現する一助となることを期待しています。

野鳥が衝突しにくい垂直軸型マグナス式風車の開発(説明)

マグナス風車の視認性向上加工

プロフィール

【#3】風力発電は地球に優しい『かざくるま』ではない?!

齊藤慶輔

さいとう・けいすけ|1994年より環境省釧路湿原野生生物保護センターで野生動物専門の獣医師として活動を開始。2005年に同センターを拠点とする猛禽類医学研究所を設立、その代表を務める。『プロフェッショナル仕事の流儀(NHK)』、『情熱大陸(MBS/TBS系列)』、『ダーウィンが来た!(NHK)』などに出演。
昨年10月に、著書『僕は猛禽類のお医者さん(KADOKAWA)』が発売された。

Official Website
http://www.irbj.net/index.html

Instagram
https://www.instagram.com/keisuke.saito.irbj/

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https://x.com/raptor_biomed/

インフォメーション

野生猛禽類を救うためのクラウドファンディングを開催中。(〜2月28日まで!)

人間の生活を豊かにするための活動により、傷ついたり死亡したりする猛禽類が後を絶たない。ここで集めた資金は、医療機器の更新・拡充や後遺症などで自然界に帰ることのできない40羽以上のオオワシとオジロワシの飼育費用などに使用される。返礼品の猛禽類グッズも要チェックだ。

Official Website
https://readyfor.jp/projects/IRBJ4