
トリップ
「MIDNIGHT PIZZA CLUB」座談会【前編】
仲野太賀×上出遼平×阿部裕介
photo: Kanta Torihata
text: Ryoma Uchida
2025年4月26日
俳優の仲野太賀、TVディレクターの上出遼平、写真家の阿部裕介。3人の旅サークル「MIDNIGHT PIZZA CLUB」による前代未聞の旅本が発売された。真冬のニューヨークに始まり、“世界で最も美しい谷のひとつ”と言われる、ネパールのランタン谷を目指し歩く一週間の旅の模様を文章と写真に収めた『MIDNIGHT PIZZA CLUB 1st BLAZE LANGTANG VALLEY』。この日は『ネパリコ駒沢店』にて、旅を振り返ります。
「上出さんはDr.Dreなんです。」

POPEYE
本日はよろしくお願いいたします。上出さんはPOPEYE Webの連載『妻のこと』の続きの原稿もお待ちしております。

上出遼平
しまった! POPEYE Webさんか。やべー!

POPEYE
このお店(『ネパリコ』)のセレクトはどなたが?

阿部裕介
僕がよく通っていて、せっかくならここでと。3人ともチャイが好きですし、旅行中もみんなずっと飲んでいましたからね。

POPEYE
3人の最初の出会いはいつですか?

仲野太賀
それぞれ別なんですよね。僕と上出さんは昨年の夏に番組でアラスカに旅に出たんですけど、そこで意気投合しました。で、僕らの共通の友人でもあり長い付き合いだったのが阿部ちゃんでした。本に書かれている冒頭、12月のニューヨークで3人としては初めて出会ったんですよ。

仲野太賀(なかの・たいが)|1993年、東京都生まれ。2006年に俳優デビュー。『すばらしき世界』(2021年)で第45回日本アカデミー賞優秀助演男優賞、第64回ブルーリボン助演男優賞などを受賞。2022年にはエランドール賞新人賞も受賞。今年は連続テレビ小説「虎に翼」でのヒロインの夫・佐田優三役や「新宿野戦病院」で主演の高峰亨役を演じたことも話題に。近年の出演作に映画『本心』、『十一人の賊軍』、『笑いのカイブツ』、『熱のあとに』など。2026年の大河ドラマ「豊臣兄弟!」では主演を務める。

POPEYE
お互いの最初の印象はどうでした?

仲野太賀
阿部ちゃんとは10年くらい前に出会いました。当時の僕は、バックパックで1人旅をすることに憧れがあって、インドに行きたいと思っていたんですよ。阿部ちゃんはインドでたくさん写真を撮っていて、そのインド旅行の背中を後押ししてくれたんです。だから自分が旅を好きになったきっかけを作ってくれた人というか。

上出遼平
僕と太賀くんは、スタイリストの伊賀大介さんが引き合わせてくれたんです。一年前の夏の代々木上原の居酒屋でしたね。温泉に行った後のツルツルの状態で登場してきたのですが、そのときの印象はなくて。ほら、良くも悪くも普通の人じゃないですか。

仲野太賀
失礼!

上出遼平
その日の内に、お酒が進んでしまって、翌日、路上で目覚めたのですが、おぼろげながらに、山がいかに面白いかという話と、アラスカに行こうぜって話をした記憶があって。結局その1ヶ月後には行きましたね。

仲野太賀
というか、初めて会うその場で僕の名前が入った企画書を渡されましたからね。

POPEYE
めちゃくちゃ狙ってたじゃないですか!

仲野太賀
で、まんまとアラスカに誘われたんです。元々『ハイパーハードボイルドグルメリポート』も見ていて、上出さんの作品が大好きだったので、このタイミングを逃したらもう行けないかもしれないと思い、事務所にもスケジュールを無理やりこじ開けてもらったんです。

上出遼平
いっつもこじ開けてくれるんですけど、こんなに一緒に過ごせるってことは普通に空いているんじゃないかと疑っています。

仲野太賀
あのね上出さん、ニューヨークに引っ越して知らないのかもしれないけど、俺、めちゃくちゃ忙しいから!

上出遼平
でも、売れたのはアラスカの旅がきっかけ、ですよね。

仲野太賀
はいはい、そうですね。まぁでも本当に人の魅力を見つけるのが上手な人なので、僕としては上出さんのことをDr.Dreのような存在だと思っています。そういう関係性です。嘘です。
チーム解散の萌芽!?

POPEYE
本はニューヨークで3人が初めて集合する場面から始まりますが、阿部さんと上出さんにはニューヨーク行きを伝えていなかったんですよね。

仲野太賀
︎撮影期間中なので行けませんって2人に伝えておいて、実はサプライズで彼らより12時間前にニューヨークで指くわえて待ってたんです。

上出遼平
すごくないですか。しかもバックアップでホテルとか取ってないんですよ?

仲野太賀
確認してしまうと、やっぱり演出にキレがなくなっちゃうから(笑)。寒い中でずっと我慢して、二人がいる部屋のインターホンを押したんです。

上出遼平
ドアを開けるか迷いましたけどね。絶対に面倒くさいじゃないですか、そんな仕掛けてくる人。とはいえ、そこでテンションみんなぶち上がっちゃって、 腹減ってるなんて言うから、ピザ屋に行って。

阿部裕介
本の1ページ目の写真が、そのときのものです。

阿部裕介(あべ・ゆうすけ)|1989年、東京都生まれ。写真家。青山学院大学経営学部卒業。大学在学中よりアジア、ヨーロッパを旅する。旅で得た情報を頼りに、ネパール大地震の被災地支援(2015年)、女性強制労働問題「ライ麦畑にかこまれて」や、パキスタンの辺境に住む人々の普遍的な生活「清く美しく、そして強く」を対象に撮影している。日本での活動に、家族写真のシリーズ「ある家族」がある。

POPEYE
本のタイトルの「PIZZA」もそこから着想して?

阿部裕介
あ、ありがとうございます。

仲野太賀
ありがとうございます?!

上出遼平
そうですね。ニューヨークで朝までやっているご飯屋さんってピザ屋ぐらいしかなくて、お腹減ってすぐに何か食べようとしたら、ピザだけ。それで何度も何度もピザ食べてね。「俺たちってマジでミッドナイト・ピッツァクラブだよね」と、俺が言ったんです。

仲野太賀
これ、上出さんがずっと言い張るんですが、マジで俺が名前をつけたんです。タクシーで移動している中で。

上出遼平
阿部ちゃん、どっちだった?

阿部裕介
1番最初は、僕がミッドナイト・ピッツァのクラブっていいなと思っていたときに、ちょうど後ろにいたやつが、「ミッドナイト・ピッツァクラブ」と代弁して言ったような気がするんです。完成した本のタイトルにも付いてたので、俺のおかげだと。自分はそう思っていましたけど。

仲野太賀
チームが解散するとしたらこの話題から始まると思います。
阿部ちゃんには敵わない。

阿部裕介
最初はみんなでご飯食べて飲んで写真を撮るというのを毎晩繰り返していたんですが、そのうち、このニューヨークの写真が残ったらいいなって思い始めたんです。せっかくなら太賀を休みのタイミングにネパールに連れていきたいと思って、自分が好きだった「世界一美しい谷」に行こうと提案したら二つ返事でOKしてくれたんです。チラッと上出さんを見たら寝ていましたけど。で、太賀が帰国してから必死に企画書を書いて送ったという。

POPEYE
本にするアイディアもそこから?

上出遼平
どう始まったかはあんまり覚えていないのですが、ただ、仕事じゃない旅をしたいよねっていうのがあったんです。でも僕らは本当にお金にがめつくて(笑)。せっかくなら何かにアウトプットしようと考えたときに、それぞれやりたい放題できるのが本だと思ったんです。我々は本が好きだし、本に誘われて旅に行きたいと思って生きてきたという原体験もあったので、自分たちが作った本を見て、旅に行ってくれる人とかがいたら、もうそれが1番嬉しいなと思いまして。
あと、山の夜は結構時間があるんです。だから毎晩ネパールの山小屋で、3、4時間くらいはどんな本にしようか企画会議をしていました。そして、お金をどう稼ぐかというのも。

阿部裕介
自分はネパール行ったらもう次の国行けないぐらいカツカツだったんですよ(笑)。だからパワポも覚えて、ジャケット着て企業に売り込みに行ったり、色々と努力しました。

仲野太賀
我々が憧れていた旅のバイブルでもある『地球の歩き方』と『深夜特急』のちょうど間ぐらいの1冊にならないかなとか、お互いのヴィジョンを話す打ち合わせは楽しかったですよね。

上出遼平
すごくストイックな写真集とかも目指せるわけじゃないですか。でも、まずはそうじゃなくて、いろんな人が手に取れて、読んだら旅に行きたくなるような本を作りたかったんです。作ってみたら本当にいいものができたと思います。

阿部裕介
写真集ってあんまり持ち歩かないもんね。でもこういう書籍だったら、電車の中とかでも読めるし。今回、「Audible」という音声メディアでも発信するのですが、旅に出ることができない方たちでも、その旅に連れ出すことができるんじゃないかと考えていたんです。とにかく旅って、そんなに頑張らなくてもよくて、高尾山に行くことでも旅になる可能性もあるし、そういう1歩をみんなに踏み出してほしいなって思うんです。

POPEYE
たしかに、本書の冒頭でも書かれる阿部さんの赤裸々な金銭事情やバリカンを共有する話などにも、旅のワクワク感を思い出しました。

阿部裕介
そうそう! お金でいうと、物価が上がっていまして。

上出遼平
山に入った時にも、ビールが飲めないとか、現金の持ち合わせがちょっと少ないことに気づきましたね。ずーっとお金のことが頭にあったんですけど、でもその不自由さも面白いと思うようになって。お金のことを考えずにできる旅って、あんまり旅じゃないっていうかね。

上出遼平(かみで・りょうへい)|1989年、東京都生まれ。テレビディレクター、プロデューサー、作家。2011年にテレビ東京に入社。ドキュメンタリー番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズの企画・演出から撮影、編集と、制作の全工程を手掛ける。2019年に同番組7月15日放送分が第57回ギャラクシー賞優秀賞を受賞。幅広いジャンルで才能を発揮している。著書に『ハイパーハードボイルドグルメリポート』『歩山録』『ありえない仕事術 正しい“正義”の使い方』がある。

POPEYE
観光地化されていない場所が多く登場しますよね。

阿部裕介
ガイドブックに書いていないことを自分たちで発見して、帰国してから、こんなところがあったんだよって友達に伝えられる。そんな楽しみがありましたね。

仲野太賀
現地の人とコミュニケーションを取れば、やっぱりそこには小さなドラマがあるんです。劇的なことってどんな状況でも起こりうるし、自分次第なんですよね。刺激的で分かりやすいものってそんなにないからこそ、コミュニケーション次第で、旅はどんどん豊かになっていくことを感じました。

阿部裕介
たしかにね。

仲野太賀
今回ランタン谷に行って、現地のラッパーのパサンくんとの出会いだったり、 耳が聞こえないパン職人のお姉さんが作ってくれた「アップルモモ」が死ぬほどうまかったり、なんかそういうことがすごく旅を豊かにしてくれたなって思いつつ。でも俺、すごくショックな……印象的な出来事があって。
5日間ほどかけて、標高4000メートル近くのキャンジンゴンパのような観光地じゃないところにわざわざに行くわけです。電波があったので、そこで2人がインスタライブを始めたんですよ。「最奥の村の最果てに5日目でようやく着いています」と。そしたら阿部ちゃんが「窓の外を見てください、観光地みたいでしょ」って。

阿部裕介
ああ俺だ……。

仲野太賀
信じられないこと言うんですよ、この人。せっかくの雪景色をみんなに見せようとしている中「キャンジンゴンパのカラフルなホテルの街並みを見てください!」と言うんです。

阿部裕介
ちょっと待ってください。これだけ弁解させて。僕はネパール大地震の直後の家が全くない状況から見てるんですよ。ベニヤ板ですごく簡単に立てられたキャンジンゴンパの村と、そこからちょっとずつちょっとずつ大きくなっていく様子を見ていたんです。で、今回5年ぶりぐらいに行ったんですけど、ネパールがちゃんと観光地化してると感じるほどに完成されていたんですよ。そういう意味なんです。

上出遼平
その前段を言わないから伝わらないんだよ。

仲野太賀
そう言ってくれれば、わかるけどね。これは余談なんですけど、予約で2年待ちの超美味しいと言われている焼肉屋さんに、阿部ちゃんを連れて行ったことがあったんです。とても美味しいからどうしても食べさせたくて。彼はその焼肉を食べて、「わ、美味しい。マグロみたい」って。魚で例えます? そういう人なんです。

阿部裕介
大トロぐらい溶けたんです。

仲野太賀
説明がなさすぎて、唐突に不条理演劇が始まるみたいな(笑)

POPEYE
本書では阿部さんの「実際」という口癖がよく登場しましたが、旅を通して気づいた、お互いの癖はありますか?

上出遼平
めちゃめちゃあります。でも悲しいかな、やっぱり阿部ちゃんだけが目立つんです。僕は当然ながら主役を太賀くんにしたいんですよ。けれど、どうしても阿部ちゃんが出てきちゃう。彼を簡単に言うと本当にピュアなんです。衝動と欲望が生じたらそのままアウトプットされるので、もう想像もつかないことが起こるんです。

POPEYE
というと?

上出遼平
例えば歩きながら「今日全然疲れないな」と言った次の瞬間に「疲れた」と。このスピード感ですね。たしかに、感情の変化に素直に従えばそうなのかもしれないけど。

仲野太賀
「疲れてない」と「疲れた」の行間にあるのって、「すごく俯瞰してみたら疲れてないが、今この瞬間は疲れてる」っていうミクロとマクロの感情で、阿部ちゃんはそれを感じているんですよ。

上出遼平
感情に対する解像度の高さね。すごく勉強になります。

仲野太賀
いざ旅に出てみたら阿部ちゃんの面白さには敵わないし、とにかくこの逸材を出さなきゃと。正直、見つかってほしくもない気持ちもあるのですが。

上出遼平
どうしても主役に躍り出ちゃうんだよね。魅力に溢れているんです。

阿部裕介
この本が売れなかったら俺のせいだよ!
インフォメーション

MIDNIGHT PIZZA CLUB 1st BLAZE LANGTANG VALLEY
「ミッドナイト・ピッツァ・クラブ(MPC)」――真冬のニューヨークで天啓がごとく授かった名に導かれるようにして旅立った3人。ネパールはランタン谷を歩く一週間がはじまった。カトマンズを爆走する四輪駆動車、激痛を生む毒の葉、標高2440mにあるホットシャワー、地震で一度壊滅した村で韻を踏み続ける青年、ヒマラヤの甘露「アップルモモ」、回転するマニ車、見え隠れする陰謀の影(!?)数々の危機を乗り越え、出会いと別れを繰り返した先、3人を待ち受けていた光景とは――?
食って歩いて歌って寝て、泣いて笑って怒り狂う男たちの、汗と泥と愛にまみれた旅物語。
発売日:2024年12月12日(木)
価格:2,750円
著者:仲野太賀、上出遼平、阿部裕介
出版社 : 講談社
判型:四六変型・仮製
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