TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】リネン日和り

執筆:勝見充男

2024年11月28日

勝見充男


photo: Yuki Sonoyama
text: Mitsuo Katsumi
edit: Eri Machida

 真冬にリネン、とは、今までの私の概念にはなかった事だ。リネン素材は春、夏限定で、洗濯すればシワが寄るし、肌触りはザラザラゴワゴワして、扱いにくく、着にくい印象がつきまとう。

 ところが、このところフランスの古着にこだわるようになってから、私の中でリネンは特別の存在に変わっていった。まず、フランスではコットンに代わる庶民の衣服の素材として、冬服でもリネンが使われる事がある。また、フランス古着の世界では、同じアイテムであっても、相場は、リネンはコットンの倍以上である。それほどまで評価が高い理由は、着古していくと、独特なアタリがでてきて、デニムのような味わいが男ゴコロを刺激するのである。

 さて、今回紹介する一点は、”フィッシャーマンスモック”といって、主に、フランス、イギリスの漁師たちの作業服である。型は海軍の軍服である”セーラーシャツ”を民間用に着やすくアレンジされた形で、胸のポケットはフランス物は内側に、イギリス物は外側に付いているのが約束だ。実は、この数ヶ月、この”フィッシャーマンスモック”捜しに明け暮れて、巷の古着屋、オークションサイトなどで100%コットンより、メティスと呼ばれるリネン、コットン混紡の物を捜して値段が許す限り手に入れてきた。メティスはこの手の服では、古手にしかなく、年代は、1940年から50年代までの物だろう。従って、コンディションは完璧な物は少なく、どこかしら穴があいていたり糸がほつれていたりする。それらを手に入れるや否や、私は、最近の古着狂いに乗じて親しくなった近所の洋服のお直し屋さんに持っていく。すると、店の女主人から「ねえ、どうして同じような服ばかり買うの?」と不思議がられる。我ながら説明に窮するが、物にこだわる、という事は、小さな違いが大きな違い。細かいディテールや生地の差は、私にとっては全く別物なのである。しかしながら狭い部屋のクローゼットにはフランス古着で溢れかえり、扉も閉まらない有様を見ると「そろそろ自重しないと」と思い悩むばかりであった。そのような矢先、某サイトで、メティスではなく100%リネン素材の”フィッシャーマンスモック”が出品されているのを見つけてしまった。初見のものだ。値段だってそこそこである。つい今しがたの自己反省は、どこかに飛んでいって、まずは買う事にした。

 品物が届くと、その重さに驚いた。リネンは糸の太さや織り方にも依るけれど、えてして、軍服、ワークに用いる素材は、荒く、重々しい。ゴワゴワ感も満載である。

 実は、この原稿を書き終えるまで、これを着て出るのを控えていた。ちょっとした自分への褒美にしたかったのである。

 さて、今日は晴れているが気温は低い。リネン日和りである。ゴワゴワをワクワクに変えて、どこか散歩に出かけよう。

プロフィール

勝見充男

かつみ・みつお|1958年、東京、新橋に、骨董家の次男として生まれる。学生時代に西洋骨董に惹かれ、やがてやきものをはじめとする和骨董の世界に魅せられていった。西洋骨董家で10年修行の後、祖父からの屋号、自在屋を継いで四代目となった。自在屋に相応しく、和洋の枠を超えた自由な、発想と、柔らかく洒落たセンスで新しい潮流を作り続けている。テレビ東京「開運!なんでも鑑定団」鑑定士。著書に「骨董自在ナリ」(筑摩書房)「そう、これも骨董なのです」(バジリコ)「骨董屋の盃手帳」(淡交社)「勝見充男大全」(目の眼) 他に雑誌などで監修、寄稿も多数。