TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#2】思ってた麻酔とちがう
執筆:井原奈津子
2024年11月19日
みなさんは「全身麻酔」をしたことがありますか?
私は今年の6月、骨折の手術で初めて全身麻酔をしたのですが、半年近く経ったいまもときどき思い出しては「あれは面白かったな〜」と、フワフワした気持ちになっています。
珍しい経験だからということもありますが、想像していたものとは少し違い、それが興味深かったのです。
全身麻酔については、以前から人に聞いていました。
「直後から記憶がなくて、次に目を開けたらもう手術が終わってたんだよ」。時間がワープするんだな、面白いなーと思っていました。
そしていざ、実際に経験してみると。
たしかに麻酔がかかっている時間は全く記憶がなく、真っ暗闇の「無」そのものでした。
しかし、あると思っていた「ワープ」はなかったのです。めっっちゃ、時間の感覚がありました。しかも、ほぼ正確な。
順を追って話しますと…
私の手術が始まったのは17時。終了予定は18時でした。
手術後、名前を呼ばれて目を開けると…「え。時間経ったの、めっちゃわかるじゃん」
「1時間?もう少し長かったと思うけど…」。時計をみると、手術が長引いたとのことで19時近く。「はいはい、まさにそのくらい経った感じがするよ!」
「意識はないけど、時間の感覚はある」。これが、私の麻酔体験でした。
例えば、SF映画などに出てくる「コールドスリープ」。あれも「無」になって時間をワープできると思っていたけど、もしかして時間感覚は残るのか?起きたときに、私と同じように「めっちゃ100年経った気がするわ〜!」とか思うのだろうか。それってすごく面白い。
もうひとつ。
「無」になっていても時間の経過がわかるなんて、体って不思議。人間ってすごい。自分、すごい。と、三段論法で自己肯定感が高まっています。おめでたいかしら。
まとめ。「全身麻酔」は、興味深い体験でした。全身麻酔をするような、ある意味人生の辛い局面に立った場合は、麻酔から覚めた時にどう思うか、それを楽しみにすると、少しはラクな気持ちになるかもしれません。どうぞお大事に。
プロフィール
井原奈津子
いはら・なつこ|1973年、神奈川県生まれ。手書き文字愛好家として、習字教室の運営や手書き文字の紹介に関わる。著書に『美しい日本のくせ字』(2017年・パイ インターナショナル)、『たくさんのふしぎ 字はうつくしい』(2022年・福音館書店)。