バンド

“バンド”という名前のバンドがいた。

ROCK

2024年10月9日

© Getty Images

長年鍛えられた演奏力に加え、3人が取るボーカルからは人生の哀歓があふれた。ロビー・ロバートソンの卓越したギター、2人のキーボードが作り出す奥行き、リズムセクションのタフネスは音楽をオーケストラより大きく見せた。

そのバンドの名は、THE BAND。

 1968年のデビュー・アルバム『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』をリリースした当時のキャピトル・レコードの頭の固い重役たちは、その名前がバンド名だとはまったく理解できなかった。

 「僕たちは、バンドです」「で、バンド名は?」「だからバンドですって!」……なんてコントみたいなやりとりがあったか知る由はない。だが、当時発売のレコードのラベルには、「リック・ダンコ、リヴォン・ヘルム、ガース・ハドソン、リチャード・マニュエル、ジェイミー・ロビー・ロバートソン」と、メンバー5人の名前だけが記された。このバンドには名前がない。それがレコード会社の判断だった。

 最初から、名無しのバンドだったわけではない。かつてはザ・ホークスを名乗って、ロニー・ホーキンスのバック・バンドとしてカナダやアメリカをどさ回りしていた。「ホーキンス」をもじって「ホークス」。誰がメンバーになろうがホークスの名は受け継がれた。野球チームみたいな感覚だ。

 ’60年代半ば、独立した彼らはドラマーのリヴォンをフロントマンとして、リヴォン&ザ・ホークスを名乗る。リーダー&バンドという名付け方も当時の流行だった。だが、ボブ・ディランが彼らを’65年からの全米とヨーロッパ・ツアーのバック・バンドに雇い、運命はまたもや一転する。彼らは「ボブ・ディラン&ザ・バンド」になった。

 ロック化したディランに対する嵐のようなブーイングも浴びた。ツアー後のオートバイ事故で隠遁したディランとともに’66年から山小屋「ビッグ・ピンク」でセッションを重ねた。そのうち、自分たちがやるべき音楽が見えてきた。彼らにとって「バンド」であることは、自分たちにとって自然であり、誇りのようなものになっていた。

 今となれば、ファースト・アルバムに印字された5人の名前は「この5人にしかできない音楽」という意味に読める。それはすなわち、バンドがバンドで音楽をやる理由そのものだ。

プロフィール

THE BAND(ザ・バンド)

1960年代に活動したカナダ・トロントの「ザ・ホークス」のメンバーだった5人がボブ・ディランと出会い、’68年に「ザ・バンド」としてデビュー。映画『ラスト・ワルツ』として記録されたコンサートを以て’76年にいったん解散後、メンバー交代を経て再始動。

YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCH3YjwH2YGZ8L1Q5Nh_7VCQ

LISTEN now!

“バンド”という名前のバンドがいた。

THE BAND(1969年/Capitol Records)

セカンド・アルバムにして、セルフ・タイトル。全米チャート9位を記録した代表作。「ラグ・ママ・ラグ」「オールド・ディキシー・ダウン」など代表曲を収録し、彼らのライブにもっとも近い雰囲気の演奏が収められている。