カルチャー
二十歳のとき、何をしていたか?/あいみょん
2024年10月21日
photo: Naoto Date
styling: Masataka Hattori
hair & make: Masaki Sugaya
text: Neo Iida
2024年11月 931号初出
たった1本の動画が運命を変えた。
西宮からトラックで上京し、
曲を書き続けた夜明け前の上町。
学校の先生がくれたアコギで、
作詞作曲を始めた。
「二十歳の誕生日、全く覚えてないです。早生まれで成人式も19歳でしたし、遅れて二十歳になりました、みたいな感じ。それよりアーティストとしてこれからどうしていくか、考えることが盛りだくさん過ぎて」
2015年3月6日、あいみょんさんは二十歳になった。わずか2日前に「貴方解剖純愛歌 ~死ね~」でインディーズデビュー。人生の一大局面を迎えていたわけで、成人したことを覚えてないのも当然かも。
「18歳の夏に声をかけていただいて、そこから徐々に徐々にっていう感じでした」
デビューまでを辿ると、生まれは甲子園のお膝元、兵庫県の西宮。民謡やロックを好む若い両親のもと、6人きょうだいの上から2番目の次女として育ったという。
「小さい頃、お父さんは楽器が演奏できるバーを経営してたんです。沖縄の家系で、演奏するのは沖縄民謡が多め。両親とも歌がうまくて、しょっちゅうギターや三線を弾いてセッションしてました。『満月の夕』という曲をよく歌うから、てっきりお父さんが作ったと思ってたけど、のちにソウル・フラワー・ユニオンの曲だと知ったり」
さらに、祖母の夢も歌手だったのだそう。
「おばあちゃんは鹿児島の喜界島育ち。兄弟が多くて貧乏で夢を追いかけられず、よく孫の私たちに『誰か歌手になってくれたらなあ』って言ってました。それもあってか、中学生の頃にはうっすら歌手になりたいなって思うようになってましたね」
父親のギターを勝手に使ったら嫌がられ、渡されたのが、象の形をしたフェルナンデスのZO-3。電源さえ繋げばどこでも弾けるアンプ内蔵型のエレキギターだ。でもあいみょんさんが欲しかったのはアコースティックギターだったから、すぐ弾くのをやめてしまった。しかし中2のある日、思いがけずアコギを手にすることに。
「海外から来てた英語の先生が、授業の始まりと終わりにバックストリート・ボーイズを弾き語りしてたんですよ。まじなんなんこの時間と思ってたんですけど、先生が帰国するときに、『持って帰ると送料がかかるからあげるよ』って、使ってたヤマハのアコギをくれたんです。そこから本格的にギターを弾くようになりました」
習いに行きたかったが、父親に「独学でやるもんや」と言われ却下。教則本を渡されたものの、読んで覚えるのが苦手で、コード付きの歌本で練習を始めた。そのうち「作詞作曲をしたほうが覚えられるかもな」と曲を作り始める。さらっと言うけれど、いきなり曲なんて作れるものだろうか。
「弾いてるうちに自然と言葉を付けたくなったんですよね。作文は得意で、読書感想文で褒められた経験もあったから、やってみようかなって。もともと父方のおばあちゃんが保育園の先生で、大きくなるまで誕生日とクリスマスのプレゼントは絵本だったんです。最近は文学っぽいほうが好きですけど、今も絵日記は付けてます」
高校時代にバンドを組んだこともあった。が、みんな大学受験で集まらなくなり解散。それからは一人で弾き語りをし、時々友達に聞かせる程度だったという。そんなある日、他校の高校生が「YouTube番組に出てほしい」とオファーをしてきた。
AT THE AGE OF 20
地元にいる頃はフィルムカメラや一眼レフに夢中になり、鞄に何台も詰めて出かけていたんだそう。これは大好きな太陽の塔にしょっちゅう会いに行っていた頃の一枚。上町に住んでからはホームシックになりつつ、密かに嬉しかったことも。「実家ではシャワーを使うことが厳禁で、溜めた湯船の湯を使わないといけなかったので、一人暮らしをしてからシャワーを高頻度で使えるようになったのがちょっと嬉しかったです。でも、大家族で養ったもったいない精神は今でも健在です!」
上京後もバイトと路上ライブ。曲を作り続けた上町の日々。
「めっちゃ急やったんですよ。『数か月後に東京だから』って言われて。え? え? って。お金もないから伯父さんにトラックを運転してもらって。出発の日は友達が見送りに来てくれて、トラックの前できょうだい揃って写真を撮りました。ずーっと泣いてた。でもすぐ関西のライブで帰ったんですけど(笑)。あの感動なんやったんくらいの感じで頻繁に帰るっていう」
ライブがあれば帰ったが、寂しさは募る。大家族育ちのあいみょんさんにとって、「一人暮らし」は微かな憧れだった。でもそれより家族がいない寂しさが上回った。
「大家族がコンプレックスやったこともあったけど、そんな自分が憎く思えるほど、家族の存在が大きいと気付かされました。でも音楽やりたいし、姪っ子たちの自慢のおばさんになりたいし、自慢の娘になりたいと思ったから、頑張らないとなあって」
住んだ町は、世田谷区の上町。漠然と梅ヶ丘と豪徳寺に憧れたが、二口コンロが諦めきれず、妥協を経て決めた町だった。デビューはしても、バイトをしないと暮らせない。関西では競馬場の飲食店でバイトをしていたので、東京競馬場や大井競馬場の系列店で働いた。路上ライブも継続し、渋谷のQFRONT前で歌った。ポジティブなあいみょんさんも、当時は悶々としたという。
「悔しかったですね。なんでこっち見いひんねやろうって。家ではバンドアレンジを覚えなきゃいけなくて、譜面見るのも嫌で床に投げつけて。前を歩く人が優越感に溢れて見えて、全員コケろと思ったこともあります。今に見てろよ、絶対売れてやるからなってメラメラして。いつか必ず音楽が自分の人生を変えてくれる! と信じる想いと執念が、私の体を簡単に西宮に帰さなかったんだと思います」
知らない町だった上町も、夜は人がいなくなり、バスは始発で渋谷まで座れる。生活を重ねるうち、じわじわと好きになった。
「全くの無名でしたから、曲を作って作って貯金していくしかないなと思ってました。20代前半で作った曲は財産です。『君はロックを聴かない』も上町産ですよ」
やがてその曲がラジオでヘビーローテーションされると、世間でふつふつと話題になり、爆発。上町での日々は、あいみょんの夜明け前だ。二十歳という怒涛の1年間を振り返り、あいみょんさんは最後に同窓会の思い出を話してくれた。
みんな大学生で、私は高校も中退して音楽をやっていて。集まった同級生や先生に『音楽やってんの?』『お前にできんの?』といじられて、ふざけんなと思いました。絶対こいつらと一緒になりたくないと思って集合写真にも入らなかった。それが甲子園球場の近くのレストランやったんです。でも、その甲子園でワンマンライブもできたし、悔しい気持ちは報われました。音楽続けててよかったって思います」
プロフィール
あいみょん
1995年、兵庫県生まれ。2015年にタワーレコード限定シングル「貴方解剖純愛歌~死ね~」でインディーズデビュー。2016年、シングル「生きていたんだよな」でメジャーデビュー。最新アルバム『猫にジェラシー』発売中。
Official Website
https://www.aimyong.net/
取材メモ
世田谷線が走るのどかな上町駅近辺で撮影。まさかこんなところにあいみょんがいると思わないのだろう、騒ぎになることもなく、風景に溶け込んだシューティングとなった。「久しぶりに来るとエモーショナルな気持ちになりますね。世田谷線にもよく乗りましたよ。当時は友達が一人もいなかったから、弟がスケボーを始めたと聞いてペニーを買い、人のいない深夜の路地裏をまっすぐ滑り続けたことも。その技術は『マリーゴールド』のMVに生きてます」
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