ファッション
他人の目で自分を見て、己を知る。
客観的自己把握のための6つの方法。
2024年2月18日
HOW TO BE A MAN
illustration: Masaki Takahashi
text: Satoshi Taguchi
edit: Tamio Ogasawara
2015年12月 824号初出
自分を完全に客観視できれば、最適なスタイルを見つけられる。言うのは簡単だけれど、やってみると難しい。事実、池波正太郎センセイも「訓練なしでただやってるだけじゃだめ」と語る。必要なのは「映画を観るとか、小説を読むとか、いろんなものを若いうちに摂取」すること。そうやって他人の目という感覚を養うのだとか。
なるほど。教養は他人の目を育てるものなんだ。でもちょっと時間がかかりそうだから、ここは一計。プロの目を借りてみたい。
例えばテーラーでスーツを誂える。そうすれば、全身の寸法も詳しくわかるし、自分の雰囲気に合った色や生地感も教えてくれるだろう。あるいはバーバーで「おまかせ」と言ってみて、本当に似合う髪型を探る。「仕立て屋と床屋は一生変えるな」という格言があるらしいけど、昔から男はそうやって他人の目を養っていたんだろうな。ポパイは自分を客観的に見つめ直す、6つの方法を考えてみた。
1. オーダースーツで自分のサイズを知る。
スーツを誂える。これぞ大人の男たるもの。お金も時間もかかるけれど、それだけの価値がある。長く愛用できる自分だけの一着を作りながら、体の寸法や、自分に合った生地や色、シルエットを知る。さらに池波正太郎を愛する『テーラーケイド』の山本祐平さんならば、もっといろんなことを教えてくれそうだ。「テーラーがスーツを仕立てるときに考えるのは、サイズや生地のことだけではありません。その人がどんな仕事をして、どんなシーンでスーツを必要として、どんな年の取り方をしてきたか。その人の生き方に寄り添ったスーツを作るのが、テーラーの仕事」。オーダースーツは男の生き方や理想をまるごと反映するものなのだ。だからこそ、そのスーツを身にまとうと「景色に馴染むように自然で、なおかつチャーミング」になるという。だからテーラーでは、照れることなく“なりたい大人”についても話すことだ。
インフォメーション
テーラーケイド
◯東京都渋谷区宇田川町42-15 中島ビル2F ☎03・6685・1101
2. バーバーに行き、「おまかせ」でカットする。
髪型を定めるのは難しい。憧れや理想があっても、似合うかどうかは別。だからこそプロの目を借りる。「おまかせ」と伝えて、すべてを委ねてみてはどうか。「そうですね『おまかせで』って言われても、勝手に切ったりはしません(笑)。話しながらお客さんの理想を探り、似合うスタイルをつくっていきます」。こう話すのは、およそ30年の歴史がある下北沢の理髪店『バッドナイス』の新井錠二さん。頭の中で何となくあったイメージを、会話によって引き出していく。「その会話術こそが、理容師の腕前だと思いますね。大切なのはその人の性格や生活を知ること。面倒くさがりなら、スタイリングをしなくてもある程度キマるようにしたり、忙しい人なら頻繁に来なくてもまとまるようにしたり。理容師もテーラーと一緒で、個人オーダーを受けているので」。仕上がった髪型はきっと発見に近い。
インフォメーション
バッドナイス
◯東京都世田谷区北沢2-37-16 林ビル1F ☎03・3465・5004
3. 定期的にプールで泳ぐ。
水泳でバランスよく体を鍛えれば、正しい姿勢につながる。そして25mを何秒で泳げるかを記録しておくと、自分の体力を数値として把握できる。水着になった体が他人の目にさらされることも大きい。鏡に映った自分の肉体から目をそらしてはいけない。加えて「競泳は自己との戦い」というように、ひとりで黙々と泳げば、自身の内面と向き合うことにもなる。つまりプールは自分の外も内も見つめる場所なのだ。己を知るうえで、これほど最適な場所はない。
4. 常に靴の手入れをする。
『男の作法』では、靴は女房が磨くのが当然で、それを嫌がり亭主を追い出すような女房なんて「さっさと別れちゃったほうがいい」と書かれているけど、それはそれ。シティボーイは自分で手入れをしよう。靴がピカピカになって気分がいいだけじゃない。チェックすべきは靴底だ。どんなふうに削れているかを見れば、自分自身の歩き方にも察しがつく。いびつな削れ方をしていたら、姿勢の悪い歩き方をしている証拠。靴底は正しい姿勢のための他人の目なのだ。
5. ガールフレンドにパジャマを選んでもらう。
どんなデザインや色のパジャマがいいかを選ぶのは、自分じゃなくてガールフレンドに頼んでみたい。それは、おノロケでもないし、女の子のほうがパジャマ選びのセンスがいいということでもない。自分の部屋の雰囲気、器や置物などの趣味を、きっと彼女は客観的かつ冷静に見ている。さらに言うならば、寝相さえも知っているのだ。だからこそ、彼女が選んだパジャマは、“知られざる自分”を象徴するものになる。たかがパジャマ、されどパジャマである。
6. 友人との会話を録音して聞く。
普段、自分が聞いている自分の声と、他人が聞いている自分の声はけっこう違う。思いのほか甲高い声と知って、以来ちょっとトーンを低めにして話しています。というような経験があるはず。でもそれは声色の問題だけではない。友達との会話を録音してみるといい。相槌の仕方やタイミング、笑い声のボリューム、間の取り方。自分ばかり一方的に喋っているということもあるかもしれない。何げない会話に、自分の知らなかったクセが現れてくるに違いない。
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