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福祉とケアに目を向ける、一味違う読書。
Riverside Reading Clubが選ぶ、SF小説やZINEで知るケアの視点。
2023年10月25日
photo: Naoto Date, Jun Nakagawa
illustration: ZUCK
text: Neo Iida
福祉と聞いて思い浮かぶのは、高齢者の介護、障害者の支援、児童養護……ナドナド。自分とは遠いものと思いがちだったけれど、今ってもうそんなことない。現場で働く若者たちや、ワクワクするトピック、ケアを感じる選書を通じて、福祉について考えてみました。
ikm(以下i) SF小説は、その時々の社会の状況を反映するものだと思っていて。
Lil Mercy(以下M) フィクショナルに社会を描くことで、翻って現実が見えてくることは多い気がします。
i 『残像』もそんなSF小説で、’60 年代に麻疹のパンデミックによって視覚と聴覚に障害のある子供が大勢生まれたその後のアメリカが舞台。彼女たちが作ったコミューンに健常者の男が入り込むと、目が見えず、耳が聞こえない人々の社会に順応できない。
M 男ははじめコミュニケーションのとり方もわからないんですよね。発話ではなく体に触れ合う方法だから。
i 何度か読むうちにこれは社会モデルの話だと気づきました。障害は個人にあるんじゃなくて、社会のほうにあるという考え方。立場が逆転すると、健常者は社会に順応できなくなるんです。その状況は、現実に置き換えると警鐘だとも受け取れる。
M 結末がまた興味深くて、「みんなが同じ境遇じゃないと社会は成り立たないのか」と考えさせられるんですよね。
i 高齢者介護を描いた作品だと『三体』で有名な劉慈欣のSF短編『老神介護』。話は、突然宇宙から20億人の神様が降りてきて、「この世界を創造した労に報いて食べ物を少し分けてくれんか」と言うところから始まります。つまり「お前たちを創ったんだから面倒を見てくれ」と。
M 神様だけど、先祖とかおじいちゃんみたいなイメージですよね。各家庭で1人の神様を扶養して、国も手当を出して。
i かわりに神様は自分たちの技術を教えてあげると言うんですが、地球の人々には高度過ぎてほとんど意味がない。だから養う見返りがなくて、神様への虐待も始まってしまう。神様も家出して。
M 極端な描写ですが、家庭における介護の問題が凝縮されている気がします。
i 特に中国は子供が親の世話をする「扶養扶助」の思想が根強く、社会を批判的に描いた側面もあるのかなと。福祉の考え方では、介護は家族だけが負うのではなく、社会で取り組む問題ですから。
M もっと国家や自治体といった大きな単位の社会が、家族と被介護者との接続点になってケアすべきですもんね。
i 続いては写真家の金川晋吾さんが父親との関わりを書いたドキュメンタリーノベル『いなくなっていない父』。ひとり暮らしで、仕事もできず借金もある、という父を見かねて、当時大学院生の金川さんは介入を始める。これ、ある意味介護だなと。助けを求められてケアする介助と異なり、介護は保護の側面もあるわけで。そのなかの金川さんの「父親でも他人」というような言葉に「そういうことも書いていいんだ」と驚きました。
M でもそういう生の言葉を届けないと変わることはないですよね。のみ込んじゃったら今の状態は変えられないから。
i そう、そのリアルな言葉に救われる人がいると思うんです。自分がその立場でも、きっと思ってしまう。思い詰めるくらいなら仕事に対するのと同じトーンで愚痴りながらやってもいいと思う。
M 個人的な思いを共有するって大事ですよね。自分も、「お母さんが認知症になった」と地元に帰った友達と連絡が取れなくなったことがあって。介護の大変さは、近しい人間にも共有されない。それぞれが特殊な環境だからこそ、自分の言葉で伝えてくれるとありがたいなあと。
i 植本一子さんの『愛は時間がかかる』は、トラウマ治療を受けた3か月の記録を綴ったもの。書くことでトラウマを持っている人、治療を受けようと思っている人をケアしようという本です。自分の状況を取り繕わずに書いていて、快方に向かう姿に元気が出る。この本自体がケアになっているんです。救われる過程を読むことで救われることもあるんだなと。
M 親との関係って一律に一緒であることはない。一方で同じ部分もあるから、気づかされることは多いですよね。
i 障害者の声が読める本では『マイノリティ先生』をぜひ。きっかけは言語障害と脳性まひがある実方裕二さんが、津久井やまゆり園のニュースを見たこと。犯人の極端な言動が繰り返し報道されるなか、障害者と接する機会の少ない子供たちがこれを聞いたら信じ込んでしまうだろうと危惧し、訪問授業を企画するんです。
M 自傷行為や発達障害、幻聴、視覚障害など、それぞれ異なる状況に置かれた人たちが、それぞれの言葉で話していく。
i 実方さんは小さい頃、言語障害に気づいてなかったらしくて。それは周りが遠慮して「聞き取りづらい」と指摘しなかったから。その状況に自分は人間として扱われてないんじゃないかと思ったそうです。これも本人の声を読まなかったら遠慮したままになって、逆に傷つけてしまっていたかもしれない。
M 例えば目が見えず道端で困っていそうな人に声をかけて「大丈夫です」と突っぱねられると、次に動きづらくなってしまう。でも視覚障害の人がみんなそうじゃないし、いろんな性格、状態の人がいるってだけなんですよね。全盲の人は外を歩くのに慣れているけど、視覚を失ったばかりの人は困ることも多いはず。めげずに声をかけるべきなんです。
i 「障がい者」と大きく括ってしまいがちですけど、みんな違うし、逆に同じところもある。とある人は発達障害があって、別の用事が気になって連絡を先延ばしにしてしまうと。その感じ自分にもあるなと思ったり。まずは個人があるんですよね。その人と社会の間に障害がある。
M 最後は小岩のライブハウス『BUSHBASH』が発行するZINE『LOST BUT NOT FORGOTTEN #2』。クラブでの性被害者の支援活動をするなか、運営などへの対応や外部からの心ない言葉に対する思いが綴られる。被害者を純粋にケアすることができない今の社会のことが書かれているように感じました。
i SNSで告発するとバックラッシュも起こるし、リスクが大きい。手にとった人に自分のことだと思って読んでほしくて、ZINEにした意味もあると思います。
M 本やZINEのいいところですよね。考えをオンタイムでまとめて、モノとして手元に残す。それが人に伝わり、ケアに繋がっていくんじゃないかなと思います。
ananの記事はこちら。
https://ananweb.jp/anan/509213/
こここの記事はこちら。
https://co-coco.jp/series/nursing/aoicare/
本プロジェクトは厚生労働省補助事業 令和5年度介護のしごと魅力発信等事業(情報発信事業)として実施しています。
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