カルチャー
苦節十年。修復痕を美としてきた、松尾英範さんがSFで個展を開催した。
2023年11月23日
photo: Allen Danze
text: Toromatsu
約5年前に閉業してしまったが、〈ムニストア〉という’50s~’70s初期のUSヴィンテージサーフボードを専門に扱うショップが浜松にあった。POPEYEでも紹介したことがあるその店を営んでいた松尾英範(まつお・ひでのり)さんは、現在神奈川の藤沢に移住。ディレクション業に加え、最近では〈モノクローム・ウエットスーツ〉を立ち上げ、バスクシャツや、カーディガンのディテールを取り入れた唯一無二なウエットスーツを考案している。
そんな型にはまらないサーフボーイの松尾さんが、兼ねてから専念していることのひとつにリペアワークがある。一般的にサーフボードリペアは、修理した箇所が目立たないように色合わせをして樹脂盛りするけど、松尾さんのリペアは逆。速乾性のある車のパテを用いて修理するカリフォルニアのビーチバムや、日本の金継ぎから着想を得て、直し痕を美しさと捉え修復するのだ。当初はこれを敬愛する時代のサーフボードにのみ施していたが、今はミッドセンチュリー期に作られたバブルランプや、シェルチェアなどにも応用。
江戸時代初期の芸術家、本阿弥光悦(ほんあみ・こうえつ)氏が、茶碗の大きな火割れを景色に見立て、金継ぎで手を加えた作品は文化財に指定されていることで知られる。そんな文化もあるにはあるが、修復された50s~70sのサーフボードや家具が、実際の物の価値を超えるようになるなんてのはいささか想像もつかない。
ところが、なんと松尾さんの作品がサンフランシスコのギャラリーの目に留まり、本場カリフォルニアサーファーや芸術に長けた人々に披露されたよう。現地のフォトグラファーも称賛し、写真を送ってきてくれたこの個展。チャイナタウンのインディーな空気も相まって、なんとも新しいカルチャーの幕開けを感じるではないか。わからないほど綺麗に直す素晴らしさはこれまで同様、修復痕を良かれと支持する人が今後じわじわと増加していきそうに思える。
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