カルチャー
9月はこんな映画を観ようかな。
太陽光から逃れて映画館で観たい3作。
2023年9月1日
text: Keisuke Kagiwada
『アステロイド・シティ』
ウェス・アンダーソン(監)
全国のシティボーイズ&ガールズ待望のウェスの新作がいよいよ。1955年、砂漠の街アステロイド・シティを舞台に、少年少女に向けた政府主催の科学コンペに参加すべく集った家族なんかが、宇宙人襲来騒動に巻き込まれる。てな物語が、『グランド・ブダペスト・ホテル』以降お馴染みになっている複雑な入れ子構造で展開するのだが、もはや様式美化されたウェスの世界観は果たしてアップデートされているのか!? その辺については9月4日公開の映画ポッドキャスト「PARAKEET CINEMA CLASS」でもたーっぷり語っているのでぜひリッスン。9月1日より公開。
『バーナデット ママは行方不明』
リチャード・リンクレイター(監)
一流IT企業に務める夫と成績優秀な娘に囲まれながら、シアトルの高級住宅街に暮らす専業主婦バーナデットは、スーパー嫌な奴として周囲から煙たがられている。若き日は前途洋々な天才建築家として注目を集めていたが、ある出来事をきっかけに表舞台から姿を消さざるを得なかったのが、今も彼女の調子を狂わせているらしい。基本的にはコメディだし、待ち受けているのはハッピーエンドなのだが、バーナデットをケイト・ブランシェットが演じているもんだから、その病みっぷりはまるで『こわれゆく女』のジーナ・ローランズに匹敵するレベルで真に迫っている。『TAR/ター』よりこっちのブランシェットの方がヤバいんじゃないか? 9月22日より公開。
『バカ塗りの娘』
鶴岡慧子(監)
バカみたいに塗っては研ぐ工程を繰り返すことから、「バカ塗り」と呼ばれる津軽塗。本作は青森県に暮らす20代の美也子が、家業である津軽塗職人として独り立ちするまでを描くビルドゥングスロマンだ。素晴らしいのは、とにかくすべての描写が繊細なこと。津軽塗の作業シーンはもちろん、親子関係はわかりやすい対立には陥らず、この手の映画にありがちなに美也子の恋愛シーンも一切描かず、ただただ真摯に美也子という人間に肉薄しようとするその姿勢には驚くしかない。とりわけ、美也子がある人物とかつて通った小学校の中に潜入し、自身の人生を決定づけるあるものと出合うまでの過程に流れる豊かな時間! よくある地方映画の一本と思ったら大間違いなので、ぜひご覧あれ。9月1日より公開。
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