ライフスタイル
おしごとクエスト/小説家・町田康
一生勤め上げることも素敵だけど、一度きりの人生、冒険も大事。
2023年4月25日

声をかけられたら
やったらいい。
肩書イコール名前、みたいな人に憧れる。表現するアウトプットが違うだけですべての活動に一貫性があるような。作家の町田康さんはまさにそんな存在だ。10代で音楽を始め、INUを結成。町田町蔵の名前でロックシーンを騒がせた。1981年のデビューアルバム『メシ喰うな!』は、2023年のいま聴いても断然カッコいい。さらにデビュー翌年には映画に出演。『爆裂都市 BURST CITY』での演技は、一際異彩を放っていた。きっと当時、「あの町蔵が役者に!」なんて騒がれたに違いない。
「役者をやりたいなんて全く思ってなかったです。自分でオーディションを受けに行ったこともなくて、『やってみないか』と監督がレコード会社のほうに来られましてね。声かけていただいたんでほなやってみようかって。僕の場合、ひとつのことを決めないというか、『自分は歌手だから歌を歌うんだ』みたいなことを考えていなくて。専門的にならない、要するにオタクの逆と言いますかね。突き詰めずなんでもやってみようと。だからバンドやってるやつがなんで映画出んねん、小説書くねんとかよう言われますけど、いや別に俺そういう意味じゃミュージシャンちゃうしって」
若い頃は特に自分の進路を決め付けてしまいそうになるけれど、町田さんの考えはすごく柔らかかった。
「わからんじゃないですか、何ができるかなんて。だから『俺はこうや!』って可能性を狭めるよりも、声かけられたらやったらええやんけ、くらいのつもりでした」
1992年に詩集『供花』を出したのも、「なんでもやってみよう」の精神ということ。
「詩人と呼ばれたい、そう認めてほしいと思ってなかったんですよね。ただ表現をしたいというだけで。そういう意味では地続きなんですよね」
町田康として小説『くっすん大黒』を書いたのが1996年。このときも「書いてみませんか?」というアプローチから始まったそうだけれど、2000年には『きれぎれ』で芥川賞を受賞し、「小説を書く」という表現は町田さんにしっくり馴染んでいるように見える。そこには何か特別な思いが?
「自分は子供の頃から本を読むのが好きだったから、蓄積された語彙があるんです。実社会で知った語彙でも、大学に行って専門的に知った語彙でもない、勝手にひとりで本を読んでるだけの、オリジナルの語彙です。それを組み立てて音楽の歌詞や詩を書いてたんです。お客さんはわかってくれるんです。おもろいな、うんうんって。でも、マスコミやレコード会社の人に伝わらない。そういうとき、人は阿呆やと思うんですよ。かわいそうな人扱いされるんです。自分でも俺はかわいそうな人やと思ってたんですよ。でも、その語彙を組み立てて小説を書いたら、読者がわかってくれた。中学校のときから愛読してた筒井康隆さんが『きみ面白いね』って言ってくれたときは、生きてて良かったなって思いました」
表現活動は非常にアーティスティックだと思うけれど、「仕事」という意識が頭をもたげることは?
「納期ですね。いつまでに仕上げなあかんっていうのは仕事やなって思います。僕はどういうわけか、昔から時間に厳密なんです。でもミュージシャンっていうのはね、時間どおり来やがらんのですよ。僕ひとりでスタジオに行っても誰もいなかったり。今はそんな人はいてないみたいですけどね。小説は原稿書き終えるまではひとりですから、遊んでるいうたら遊んでるようなもんなんです。やっぱり締め切りがあって、待ってる人がおって、というのを意識するようになると、それはもう仕事ですよね」
音楽や詩という形で送り出されてきた町田さんの語彙は、小説で一層ぴちぴちと音を立てて飛び跳ねている。だからどんな重たいテーマを扱っても、読んでいる時間がすこぶる楽しい。「面白い」というのは、町田さんの中で大きな軸なんじゃないか。
「自分が面白がりたいっていうのが大きいですかね。なかにはね、こんなん書いてもおもろないねんけど人は笑うよな、と思って文章を組み立てる職人のような仕事もあるし、それは立派やなと思うんです。でも僕は向いてない。やっぱり楽しく書いてるときが一番楽しいですね。書きながら自分で笑ろたりもしてますし。金のためだけに我慢してやるのは、おもろないし、目ぇ死んでいきますよね。やっぱり生きたいから。生きて仕事したいですよね」
プロフィール

町田康
まちだ・こう|1962年、大阪府生まれ。1997年、小説『くっすん大黒』がBunkamuraドゥマゴ文学賞・野間文芸新人賞、2000年『きれぎれ』が第123回芥川賞を受賞。他にエッセイ『しらふで生きる 大酒飲みの決断』など。最新刊はエッセイ6本も収録した編著『だけどぼくらはくじけない―井上ひさし歌詞集―』。
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