カルチャー
【#1】2月26日、市ヶ谷のフランスはもうほとんどロサンゼルスになる
執筆: 星遼太朗
2023年2月11日
text: Ryotaro Hoshi(kenchikueigakan2023)
edit: Yukako Kazuno
時は2023年2月末、所は東京市ヶ谷のアンスティチュ・フランセ東京にて、映画祭「建築映画館」を開催する。国・時代・ジャンル不問で「建築」という切り口から選んだ映画を、いくつかのテーマに沿って見るイベントだ。
私はこの映画祭でプログラマーという立ち場で関わっている。映画畑の私と建築畑の他スタッフで何を上映するか考えてきたのだが、お互いに専門分野を教えたり教わったりするコミュニケーションはとても刺戟的だった。なかには寡聞にして知らなかった映画もある。
テーマ「都市」で上映する『ロサンゼルスによるロサンゼルス』もそのひとつ。
ロサンゼルスについてのドキュメンタリーといえる本作は、全篇のほとんどがこの都市にまつわる無茶苦茶な数の映画の引用から構成されている。その上映時間、なんと169分。
とはいえ取っ付きにくいわけではなく、「ロサンゼルスとは何か?」という問いに対して、監督のトム・アンダーセンは引用を重ねながらロジカルに答えを練り上げていく(正直そのフッテージを見るだけでも十分に楽しい)。なお本作は2003年のバンクーバー国際映画祭で最優秀長篇ドキュメンタリーに選ばれ、すでに一定の評価を受けている。
そんな映画を作ったアンダーセンも面白い。1943年生まれの御年80歳(加藤茶、ミック・ジャガーと同い年)という方で、ググれば分かるが超絶知的な爆イケ老師である。いつか本棚を見てみたい。
フィルモグラフィーには、写真家エドワード・マイブリッジに関する映画もあれば、50年代ハリウッドにおける赤狩りを扱う映画もあり、現時点での最新作は哲学者ジル・ドゥルーズの大著『シネマ』をこれまた引用しながら個人的な映画史を語るものだという。一方、批評家や俳優の顔も持つのだから、これぞまさに知の巨人。見上げるこちらの首がもげてしまう。
といった具合に、老師の関心領域は映画・文学・哲学・政治と多岐にわたるのだから、もし『ロサンゼルス』をすべて理解しようとするならば、踏まえるべき前提は決して少なくない。
が、みなさんどうか臆さずご覧いただきたい。何を隠そう私だって全部踏み切れていないのだから(これを書いている今日読み始めた参考図書もある)。むしろ『ロサンゼルス』鑑賞という幹からそれぞれの興味関心に沿って枝葉を伸ばしていく方が健やかというものだろう。
ところで、無数の引用からなる映画『ロサンゼルス』と、11プログラム、長短あわせて19本の映画からなる映画祭「建築映画館」は、不思議と相似しているように思える。
4日間の映画祭そのものも、1本の映画を見るように楽しんでいただきたい。
プロフィール
建築映画館2023
建築をテーマとした映画祭。2/23〜2/26、アンスティチュ・フランセ東京にて開催。今年度は「構造」「建築と人物」「図面」「アーカイブ」「都市」の5つのテーマで作品を紹介。上映に併せ、映画・建築双方の分野からゲストを招きトークショーも開催予定。映画館という建築物に集うことで、映画のなかの建築をフレームの外へ拡張させ、実際の都市・建築の議論へフィードバックすることを目指している。
『ロサンゼルスによるロサンゼルス』日本語字幕付き初上映
日時:2月26日(日) 15:50〜18:50 ※トークあり
チケット完売。その他の上映作品の販売状況については公式HPに記載。
Twitter
https://twitter.com/KenchikuEigakan
Official Website
http://architectureincinema.com/
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