カルチャー

【#3】全裸の男女が描かれる春画が少ないって本当なのか?

2022年11月26日

photo & text: Shungirl
edit: Yukako Kazuno

磯田湖龍斎『風流十二季の栄花』(1773年)

春画の話をしていると時々「春画は全裸の男女が描かれることは珍しく、多くは着物を着たまま交わっている」と言われることがあります。まあ確かに浮気の現場や全裸になるには寒い季節の男女なら、着物を着たまま尻をまくって交わっています。しかし春画をたくさん見すぎると、正直なところ全裸の絵が多いのか少ないのかよくわかりません。

例えば真夏に蚊帳のなかで交わる夫婦は全裸で汗をかきながら交わっていますし、今回紹介する風呂場での春画も、もちろん全裸です。

磯田湖龍斎『風流十二季の栄花』(1773年)

磯田湖竜斎『風流十二季の栄花』は菖蒲湯の前でイチャつく男女が描かれています。菖蒲湯は五月五日の端午の節句の日に菖蒲の根や葉を湯に入れてる風呂のことです。江戸時代になり、武家社会で菖蒲と尚武をかけて、端午の節句に菖蒲湯に入る風習が生まれました。それから庶民にも菖蒲湯に入る習慣が広まりました。

図に戻りますと、この日はきっと端午の節句。女がゆっくり湯に浸かろうとしていたところに、ムラついた男が来たようでスケベな目つきで女を誘います。

女「これ何するの。馬鹿らしい」

女は冷めた目つきで濡れた手拭いでを男の顔に叩きつけそうですが、男は「馬鹿らしいとは愛想ない。それそれどうだ」と一物の先っちょがすでに入っています。たしかにゆっくりお風呂に入りたいところに、こんなことされたらムカつきますよね。

江戸時代には「湯ぼぼ酒まら」という言葉がありました。お湯に浸かったホカホカのお饅頭のようなもっちりした玉門(ぼぼ・女性器のこと)と、酒を呑んでいきりたった一物の男女と交わると格別に良いという意味です。

今回紹介した彼も湯ぼぼを狙ってきたハンターかもしれません。しかし湯ぼぼが整うまで待てなかったせっかちなのでしょう。この「湯ぼぼ酒まら」ですが、江戸期では先ほど説明した意味が広く浸透していましたが、「それは違った認識だ!」と異論を書いている人もいました。

渓斎英泉の『閨中紀聞 枕文庫』によると、「湯ぼぼ」とは温かで水だくさんのよく濡れる女陰であり、「酒まら」は酒を一物に塗りつけて交わると女性が喜ぶという意味で説明されています。酒を塗った一物なんか絶対いやだ(笑)

「湯ぼぼ」の他には、炬燵でホカホカに温まった女陰も格別に良いなんて言われることがありました。江戸時代は今よりもうんと屋内でも寒さを感じたでしょうから、より一層にひと肌の温もりを求めたのでしょうね。

画像提供: 五拾画廊

プロフィール

春画ール

しゅんがーる | 2018年より活動をスタート。江戸期の春画や性文化についてのコラムを執筆している。著書に『春画にハマりまして。』『江戸時代の女性たちはどうしてましたか?―春画と性典物からジェンダー史をゆるゆる読み解く』などがある。

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