カルチャー
【#2】猫のおっぱい
2022年11月18日
photo & text: Shungirl
edit: Yukako Kazuno
![](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2022/11/image1-1.jpeg)
「昔は三味線の胴の部分に、猫の皮を使っていたんだよ」と教えてもらったのは何年前だったでしょうか。「マジか、あの可愛い猫の皮を…」と思った反面、なんと言いますか、あまりにも実感が湧かない事実に「ふーん」と呑気な返事をした記憶があります。
それから何年経ったでしょうか。たまたま浮世絵に詳しい友人と一緒にTwitterのスペースで、月斎峨眉丸(げっさい がびまる)の春本『艶本 為久春(えほん いくはる)』(1803年頃)を鑑賞しているときに、三味線が描かれている図を見つけました。
「三味線に猫のお乳が6個描かれているね」という友人の指摘で図をよく見ると、三味線の胴に6個の黒点がポツポツを描かれていました。その頃から春画に三味線が描かれていると、猫の乳首探しをするようになりました。
神保町にある五拾画廊さんで連載に使う春画を何にするか考えているときに、磯田湖龍斎の作品にも乳首が描かれていることに気が付きました。
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朝日が昇らない早朝の冬でしょうか。音曲を習う二人は静かな闇で稽古をしています。向こうの屋根には雪が積もり、薄着の二人の鼻や手足はキンキンに冷え、口からは白い息が出ていることでしょう。辺りはきっと静かで、音曲の稽古にはもってこいの時間です。しかし気のある者同士の二人の時間は次第に色になだれ込んでいったようです。
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黒点4つが乳首。
三味線には4つの乳首。娘は右手に三味線の竿、左手で少年の竿を握り、せわしない色の稽古にいそしみます。向こう側に見える鬼瓦は二人の稽古のさぼりを見て睨んでいるのか、笑っているのかどちらでしょうか。
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笑っているようにも見える鬼瓦。
次に紹介するのは先の図と異なり温かな春らしい陽気の卯月です。
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三味線のお師匠さんと生徒の関係でしょうか。
娘「エ、いっそ どうしようのう」
師匠「俺も、もういくぞ、いくぞ」
図中の二人の会話や娘の慣れた仕草を見て、わたしにはどうしても二人の交わりが今回初めてのようには見えません。確信犯…そしてテクニシャンです。
きっと二人は稽古を言い訳に身体を重ね合う関係です。そしてここでも三味線には猫の乳首が描かれています。
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ここで一句、「猫乳首 指でなぞって 点4つ」。
わたしが探せていないだけかもしれませんが、江戸期の絵で三味線の皮の部分に乳首が描かれるのは春画だけの気がします。様々な浮世絵に描かれる三味線を見てみましたが、乳首が見つかりません。
先ほどから「猫の乳首」と連呼していますが、三味線の皮には犬も使用されました。以前に港区にある歴史館の特別展示で猫と犬の皮を使用した三味線の展示を見たのですが、どちらも乳首はうっすら目立つ程度の白色で、春画のような黒点ではありませんでした。
ともなると春画でわざわざ乳首を描き、彫師に乳首部分が残るように版木を彫らせるわけですから、小道具の三味線にすら、艶めいた印象をわずかにも醸し出したかったのではと考えてしまいます。
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三味線の撥は象牙から作られた。
『富士山と三味線 文化とは何か』(青土社)によると、猫皮三味線では撥(ばち)を当てるところに皮の厚い喉の部分、真ん中には薄く柔らかな乳の部分、両脇は皮の厚い部分というように変化に富んだ皮の張り方をすることで、猫皮の柔らかさも加わり独特で繊細な音色を出すことができるそうです。江戸期の三味線の皮の張り方も同様であったのか気になります。
![](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2022/11/image8.jpeg)
右に描かれれるのは三味線や琵琶を売る店。琴の前には三味線の皮の張り替え台がある。
けれども浮世絵には可愛い首輪をつけたペットの猫や犬が描かれることがあり、可愛がられる存在でもありました。きっと江戸期にも、三味線に動物の皮を使用することに疑問を抱く人々もいたはずです。「この子は飼っている猫です。三味線の皮にしないでください」そんなサインを出すためにも、リボンなどを猫や犬の首につけたのかな…なんて感じます。
みなさんも春画を鑑賞することがあれば、ぜひ三味線に注目してみてください。
画像提供: 五拾画廊
プロフィール
春画ール
しゅんがーる | 2018年より活動をスタート。江戸期の春画や性文化についてのコラムを執筆している。著書に『春画にハマりまして。』『江戸時代の女性たちはどうしてましたか?―春画と性典物からジェンダー史をゆるゆる読み解く』などがある。
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