ファッション

シャツを選ぶには、シャツをよく知ることから。

City Boy's Essential

2021年4月22日

illustration: Hitoshi Kuroki
photo: Kazufumi Shimoyashiki
text: Tamio Ogasawara
2020年10月 882号初出

ディテールの組み合わせでシャツは作られている。

 すごく簡単に言ってしまうと、〈サンリミット〉のシャツには、知りうるシャツの全部がある。2012年の立ち上げ当初に作られた、この6型のシャツを中心に、その派生で作られるありとあらゆる様々なシャツがお店には並んでいる。一見すると同じように見えるシャツだが、作りがちゃんとわかっていないと、その違いがわからないという、いい意味で地味で玄人好みなアプローチを好んで、デザイナーの門田雄介さんは作り続けている。

「基本の6型については、僕がよいと思う仕様の組み合わせがあって、最初に決めてから、以後変えていません。1番はレギュラーカラー、2番はボタンダウン、3番は大開襟、4番がワイドスプレッド、5番が小開襟で、6番がスタンドカラー。身幅、背肩幅、裄丈は共通で、1番、2番、4番、5番の裾はラウンドさせていて、3番は横一線のストレートヘム、6番は丈長め。

他にもタック位置やステッチ幅など細かい仕様を自分がこれと思うものに集約し、6型同時に出しました。お客さんに選んでもらいたかったんです。生地は普通のブロードを使っています。オリジナルを作ってもいいのですが、いわゆる既製品の硬派さがなくなってしまうような気がして、あえてそうしています。初めに6型を作ったときは、自分でパターンを引き、実際に使うブロードの生地を縫ってトワル(仮縫い)を作りました。パターンに関しては、CADがそんなに普及していなかった手引きの最後の世代なので、新型を作るときは手でパターンを引くこともあります。もちろん今は基本CADを使っているんですけどね」

 そう、門田さんのすごさは、自分で作れてしまうこと。通常、役割は分かれていて、デザイナーと呼ばれる人ってここまでしないし、できない人が多い。逆にできる人はモードになりがち。「うちは人数が少ないので、単純にやるしかないんです(笑)」なんて言うけど、この硬派でクラシックなものづくりこそが〈サンリミット〉に信頼を寄せることのできる一番の理由である。

「実際に自分たちで縫製すると安心して工場に出せるんです。全部を作らずとも、本番の生地で部分縫いをしたりすることで、細かな違いもわかります。昨季初めて0番の太い糸を縫製に使ったシャツを作りました。一般的なミシン糸って50〜60番くらいのものを使うのですが、0番はトートバッグを縫うような糸で、シャツを縫うのは難しい番手です。でも、0番に近い番手で部分縫いなどをした実物を持って工場と相談すれば、無下にはされませんし、逆にアイデアも出してくれたりしてスムーズに進められます。上がったサンプルを見て、縫い子さんによってはかわいい縫い方するなと思ったり。手間ですが、手探りでも手を動かしてみることが本当に大切なんです」

〈サンリミット〉は門田さん、奥さん、店長の津雲くんの3人でやっている。上野と北参道にお店はあり、デザインから生産、出荷、販売とあらゆる作業をこの3人で賄っている。足りていないものだらけと言うが、不便だから差は生まれるんじゃないかとも思った。本当にシャツのことをよく知っている人が作るシャツを手に取り、着てみることで、だんだんとその細かな違いにも気付けるようになってくる。硬派なドレスシャツから手刺繍のシャツまで作るブランドの名前はフランス語で〈サンリミット〉。まさに“ノーリミット”な服を作り続けている。

インフォメーション

Sans limite

2012年設立。デザイナーは門田雄介さん。2014年に『サンリミット 上野店』、2019年に『サンリミット 北参道店』をオープン。服のサイズは−3(XXS)からものによっては3(XXL)まであり、女性も着ることができる。お客さんも硬派な人が多い。