ファッション
「理想の普段着シャツ」をオーダーで作ってみる。Vol.1
オーダーシャツ/オーダー編
2023年8月3日
普段からよく着ている、お気に入りのシャツ。こんなイイ感じのシャツがもう一着あったら絶対買うのに……なんて思うことがときどきある。廃番だったり古着だったりして、もう二度と手に入らない、そんなシャツ。どこにも売ってないなら、作ればいいんじゃないか? 何ならそのシャツをベースに、さらなる「理想のシャツ」をイチからオーダーで作ってみるというのはどうだろう? てな話が、POPEYE Webのポッドキャスト「POP-EYE MEETING編集会議」内で飛び交った。
しかし、オーダーシャツと聞くといわゆる「ワイシャツ」(スーツの下に着るドレスシャツ)のイメージが強い。普段着のカジュアルなシャツ(たとえばプルオーバーや、ネルシャツ、ミリタリーシャツなど)をオーダーで作ることは可能なのだろうか?
ひとまずオーダーシャツについてネットで調べてみたところ、サイズや生地、襟の形、カフス、テールなどのパーツを数種のパターンから選択し、システマティックかつリーズナブルに作ることができる「セミオーダー」が市民権を得ているよう。オンライン上でクリックしていきながら簡単に注文できる店もあったりするが、やはりワイシャツが主軸の様子で、なかなか僕たちが思い描いているカジュアルシャツが作れそうな店に辿り着くことができない……ということで、身近な専門店を直接訪ねて聞いてみよう!という結論に至った。
カジュアルシャツを手に、「山本ワイシャツ店」へ
POPEYE Webチーム4名がさっそく向かったのは、以前から気になっていた世田谷区松陰神社通り商店街の一角にひっそりと佇む「山本ワイシャツ店」。軒先テントに堂々と書かれた「註文ワイシャツ」の看板もシブい、まさしく絵に描いたような「職人の店」。中に入るとガラスショーケース、ミシン、裁断台があるだけの小さな店内に、今年80歳になる店主・伊川孝次さんがひとりシャツ作りに励んでいた(ちなみに店の名前が「山本」なのは、かつて伊川さんが修行していた目黒のシャツ店の名を引き継いだから、とのこと)。
「すみません、こういうシャツを作りたいんですけど……」と恐る恐るカバンの中から持参したシャツを取り出して見せると、「はいはい」と伊川さんは特に動じる様子もない。僕たちが持ち込んだのは、以下の4着のシャツ。
宮本:イギリス軍のミリタリーシャツ
トロ松:70sの半袖プルオーバーシャツ
国分:おそらくオーダーメイドで作られたコットンシャツ
井出:60sのオープンカラーシャツ
*すべて古着で購入したもの
考えてみれば、今では世界中で着られている服のほとんどが既製服だが、ここ日本でも高度経済成長が進んだ1960年代半ば頃までは、服を自ら洋裁で作ったりオーダーして手に入れるという文化があったはず。理想のシャツをイチから作ることは何ら不思議なことではないのかもしれない。それに60年代、とまではいかずともこの「山本ワイシャツ店」も1973年から一代で営まれてきた老舗だ。映画衣裳なども数多く手掛けているというし、いくつもの無理難題を聞いてきたはず。
4枚のシャツ作りはもちろん受託された。すべてのパーツで新たにパターンを起こし、希望の色や形で作る「フルオーダー」だ。当日に店で行うのは主にヒアリングで、採寸し、使用するシャツ生地や、ボタンなどを選びすり合わせをしていく。生地の持ち込みも可能だが、店に生地見本が1000ほどストックされているので、せっかくだからと僕たちはその中からチョイスすることにした。
難しそうな要望も、ひとまず相談してみる!
トップバッターは宮本さん。気に入って着ていたイギリス軍のミリタリーシャツが乾燥機で縮んでしまい、着丈はむしろ良い感じになったけど、袖丈が極端に短くなってしまったので、同じスタイルで良いサイズ感のものが欲しくなったそう。「小襟のディテールとか全体のシルエットはそのままに、袖丈をジャストサイズにして、肩周りをもう少しゆったりとさせたい。せっかくだから生地も新しい色にしてみたいのですが」と伝えると、伊川さんは手慣れた様子で、採寸込み10分ほどでヒアリングが完了。生地はイギリスの老舗〈トーマスメイソン〉のサックスブルーをセレクト。とにかく思いのほかスムーズに事が運ぶのにも驚かされた。
続いては僕(トロ松)の番。プリントの主張が激し過ぎ、近年では少し着づらく感じていた70年代のプルオーバーシャツ(サーフポロ)を無地で作ってみたい。「シルエットとかディテールはそのままで、生地だけ変えたい」と伝えると、持ち込んだものに近いヤシのボタンが店になく、ボタンホールの大きさにも限界があるとのこと。少し悩んだが、違う印象のウッドボタンになるのもかえって面白いかもと思い、無事着地。生地は夏に快適に着られそうな麻100%の白にしてみた。
井出さんは、襟先がほんの少し丸くなっているのがお気に入りという50~60年代のオープンカラーシャツを持参。「以前、リペアに出した際にカフスを折り返して短くしてしまったんですが、その短さも気に入っているから、襟や袖、オープンカラー、ボックスシルエットもすべてそのままに、生地だけ変わるイメージで作ってみたい」と説明。所要時間は5分くらいで、こちらも問題なくスムーズにオーダーを終えた。生地はオーストリアの老舗〈ゲッツナー〉から赤×グレーの50sライクなチェックを選んだ。
古着で見つけた誰かのオーダーシャツ(しかも色違いで二枚所有)を勝手に引き継いでみようと考えた国分さん。「前身頃のちょっと変わった位置に所有者のイニシャルが刺繍されているのが良くて、同じようなテンションで作ってみたい。自分の身体に合うように適度にサイズダウンして、イニシャルは同じものを刺繍した上で、その横に自分のイニシャルも足せれば嬉しいです」と説明。少々難しい要求かと思いきや、要らぬ心配だったようで、手慣れた様子で肩や腕の長さなどが採寸されると、すべての要望がすんなり通っていた。生地はイギリス〈トーマスメイソン〉の少しだけ青みのある白にし、イニシャルの刺繍はまた少し違う白でオーダー。果たしてどんなものが出来上がるのか。
製作期間は通常2~3週間ほどとのこと。早い! 気になる金額はいずれも生地代、製作費すべて込みで25000円前後(当然、生地の価格やオプションによって左右される)だった。オーダーに行ったその日に前金で支払い、お店を後に。
Vol.2の記事は、どんな風にシャツができあがるのかをレポート。待ち遠しい完成品はVol.3で、お楽しみに!
インフォメーション
山本ワイシャツ店
かつて目黒にあった親戚のシャツ店「山本ワイシャツ店」で修業し、独立。1973年に名を借りるかたちで、松陰神社通り商店街の現店舗にて「山本ワイシャツ店」を創業。以来、オーダーメイドシャツ一筋、お客さんのほとんどはリピーター。 ◎東京都世田谷区若林4-27-15 ☎03-3413-9304 営業時間:9:30~18:00 定休日:日
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