カルチャー

小さな店のはじめ方。Vol.6

編集者、タコス屋になる。

2022年10月22日

photo & text: Taichi Abe
cover design: Bob Foundation

 あっという間に秋。エディターとして仕事をしながら、隙があればタコスを食べる。取材や打ち合わせの合間に、出張のついでに、もちろん休日にも。外出する機会があれば、目的地周辺のタコス情報を調べてから出かける習慣もついた。渋谷で、代々木で、横浜で、沖縄で、京都で…うまいと評判の店があれば、とにかく足を運ぶ。まさに「タコスの秋」の到来だ。ときにはレシピ考案をお願いしている〈and recipe〉の山田英季さんに報告をしながら、各店の味やプレゼンテーションに驚いたり、がっかりしたり、タコスの秋は意外と忙しくて楽しい。同時に、自宅でもつくってみる。まずは山田さんのレシピ通りに。次に具材やサルサにアレンジを加えて。五反田にある〈南米市場キョウダイマーケット〉にも通ってみたり、トルティーヤのプレス機の大きさも変えてみたり。知れば知るほど、タコスは自由で正解がないことがわかる。「これぞ、みよし屋のタコス!」と膝を打つのはもう少しだけ先になりそうだ。

タコス

 タコスリサーチと同時に店舗のプランニングも進んでいく。僕は5年ほど前に、古いマンションの一室を購入してリノベーションをしたのだけど、そのときとは違う難題が現れた。厨房設備のプランニングだ。自宅のキッチンとはワケが違う。連載のタイトル通り、僕が営むのは小さな店。無限に選択肢のある厨房機器から本当に必要なものを選んでいかなくてはならない。フライヤーってあったほうがいいの? 冷蔵庫ってどれくらいの容量が必要? シンクや作業台のポジションって? 雑誌の1ページに必要な写真のカット数や、適正だと思われる小見出しの文字数はわかるけれど、厨房のあれこれはまったくわからない。「わからないこと」がわからないレベルだ。途方に暮れた僕は、すぐさま山田さんに相談する。僕の要望を聞いてもらいながら、必要な機材とそのレイアウトを的確にアドバイスしてもらう。「これくらいの設備だと月商〇〇円くらいまでならいけますね」なんて言葉を聞いて思う。経験に勝るものはないのだ。さらには、厨房設備の代理店があるようで、必要な条件のもとで数社に見積もりを出してもらう。世の中は知らないことばかりだ。

エキスパートならではの発想に感心。僕ひとりだったら、ここまでにどれくらいの時間を費やしたのか。編集者でよかった(笑)。

 設計士の内山章さん率いる〈スタジオA建築設計事務所〉には、区の保健所にアプローチしてもらう。食品衛生責任者や防火管理者の免許があっても、店舗が必要な要件を満たしていないと営業は許可されない。キッチンにはしっかりと天井を張らないとダメだとか、シンクの数の規定とか、現状のプランがすべての条件に適合しているかヒアリングしてもらった。その結果を「ほぉ」とか「へぇ」とか聞きながら、一方で僕が好きなテイストを伝えるべく、インテリアや店の写真をはじめウェブ上で集めた「好きなもの」の資料を内山さんに共有した(これは得意)。こんなやりとりを経て、内山さんから最初のイメージスケッチを提案してもらう。ここまで平面図ばかりを見ていたので、立体的なイメージに思わず「おぉ!」と声を漏らしてしまう。いいね、なかなか悪くない。この先は提案してもらったアイデアをブラッシュアップをしていく作業や、予算との闘いも待っているのだけど、ひとまず僕は頼れる仲間の力を借りて、素敵に前進している。2022年タコスの秋は、こうして深まっていくのだ。

スケッチ
内山カントクから提案してもらったイメージスケッチ。僕が知っている〈みよし屋〉ではない。新しい一歩を踏み出したことを実感。

プロフィール

阿部太一

阿部太一

あべ・たいち | 1979年、香川県小豆島に生まれて東京で育つ。大学卒業後、2002年にマガジンハウスに入社。anan、BRUTUS、Hanakoの3部署で編集者として活動した後、2022年4月に退社。両親で3代目となる「みよし屋」の屋号を継いで、フリーランスとしてエディターを続けながら、タコス屋オープンに向けて準備中。2022年末のオープンを目指していましたが、着工が遅れてごめんなさい! どうやら来年はじめのオープンになりそうですが、そろそろ店舗スタッフも募集します。興味がある方、DMください!

■スタッフ募集/DMアドレス
info@miyoshiya-tacos.shop