ライフスタイル
【#2】待ち時間の人々
2022年10月22日
text: Sakura Komaki
edit: Yukako Kazuno
先日、舞台を観劇するために大阪に出かけた。
宿泊先のホテルで荷物を広げた際に、テーブル脇の椅子に右足の小指を酷くぶつけた。一人ぼっちで騒ぐのが勿体無いぐらい痛かったので、東京の友人に小指が痛いと連絡したが、既読になるだけだった。当たり前である。
腫れた小指をさすりながら撮影の合間の待ち時間に、“足の指をぶつけた際の芝居をして、どの指をぶつけたかを当てるゲーム“というものをやっていたことを思い出した。
実にくだらないが、これが意外と盛り上がる。なんなら「監督って、やっぱり演技が上手いんですね」なんてちょっと褒められたりして、実は芝居が向いているんじゃないかという甘い幻想に駆られたりもした。しばらく痛みを忘れられたが、おかげで今度は壁にぶつけて悶絶した。
こんなことを言うと顰蹙を買うかもしれないが、私は“待ち時間”というものが、嫌いではない。

雨待ち、人待ち、セッティング待ち…。
言葉を聞くだけでしんどくなる待ち時間も勿論存在するし、なんなら“待たせてる時間“というプレッシャーに潰されそうになったこともごまんとある。しかしその瞬間に生まれる会話や景色が、時たまに愛しいものになることがあるのだ。

いわゆるそれは、無駄が生んだ無駄、と言うものであり、なんなら裏でお金が嵩むものなのかもしれないが、人は、こういう無駄な時間にこそ、人らしくなる気がしている。こと忙しなく働く日本のドラマ作りの中で、こんなに贅沢なものはない。
最近どんなことをしていたの? へぇ。たまには実家にも帰りなよ。
餃子にマヨネーズ? 酢胡椒じゃないのかぁ、それは仲良くなれないな。
どうでもいい時間にする、どうでもいい会話や、その時その時の過ごし方。
そこにこそ、その人自身が見えるし、在り方が見える。
普段の私たちはお互いのことを深くは知らないまま一期一会に仕事するが、それだけだと少し勿体無いんじゃないかと、この贅沢な無駄を過ごしながら思う。

そんなことを考える頃には、贅沢な“待ち時間”は終わりを告げ、また忙しない撮影へと皆戻っていく。が、ごくたまにその待ち時間によって完璧なゴールを迎えられた時の幸せはたまらない。
「なんだかいい時間でしたよね。何を話していたのかは忘れましたけど」
やはり、“待ち時間”は好きだ。
さて、足の指をぶつけたゲームには続きがある。神尾さんと倉さんという素晴らしき俳優部のお二人は、お互いにどの指をぶつけたかを見事に当てられたが、二人がどの指をぶつけたかについては、私は全く当てることができなかった。
「俺たち、ちゃんと伝えられてるんですかね」
あの日の二人の笑顔を思い出しながら、洞察力を鍛えなければと、まだ痛む小指に加え、頭までちょっと痛くなった。
プロフィール
小牧桜
こまき・さくら | 1989年4月14日、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒業。TBSテレビコンテンツ制作局ドラマ制作部所属。TBS系ドラマ『この恋あたためますか』『リコカツ』『持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜』などの演出を手掛ける。現在火曜深夜放送のドラマストリーム『階段下のゴッホ』で、演出(全8話)とプロデュースを担当している。
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