カルチャー
『洋酒天国』を作った先輩たち。Vol.4(完)
2022年10月10日
シティボーイ、はじめて1人でバーに行く。
photo: Kazuharu Igarashi
illustration: Yosuke Kinoshita
text: Kosuke Ide
cooperation: Hidehito Isayama
2022年9月 905号初出













小玉さんの話から浮かぶのは、まさしく「伝説」と呼ぶ他ないような、“日本の青春時代”を駆け抜けた都市のサラリーマンたちの息吹だ。経済的な上昇とともにもたらされた文化的な生活、“アフターファイブ”を豊かにするための“遊び”の感覚が、『洋酒天国』には詰まっている。酒場の愉しみ方、カクテルレシピやバーテンダーとやるカードゲーム……「ヨウテン」は都会的でモダンな男の新しい「プレイ雑誌」として空前のヒットとなった。戦前のパリ社交界で華々しく活動した「バロンサツマ」こと薩摩治郎八が書く酒と女のエッセイがあると思えば、森茉莉がアラン・ドロンについて書いたり、澁澤龍彦と加賀まりこの対談があったり。執筆者は書ききれないが、吉田健一、植草甚一、淀川長治、檀一雄、田中小実昌、テディ片岡(片岡義男)……まだ「サブカルチャー」などという言葉もない時代に、かっこいい先輩たちが遊びつつ真剣に作った「ヨウテン」は、日本最初のカルチャー誌だったのかもしれない。
「編集部員が2~3人ですからね。改まって会議なんてしている暇がなくて、みんな立ち話。作業で家に帰れず会社の医務室で寝たり……今だったらいわゆる“ブラック企業”と言われてしまう環境かもしれませんけど、それでも会社の歯車になってるとか、飼われてこき使われているという気持ちはなかった。今考えても、若い時代にあの場所で彼らと一緒に仕事できたことは、自分はラッキーだったなあと思いますね」
プロフィール

小玉 武
こだま・たけし|編集者、文筆家。1938年、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、サントリー入社。宣伝部で『洋酒天国』編集を担当。著書に『「洋酒天国」とその時代』(ちくま文庫)など。本書で織田作之助賞を受賞。

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