吉添裕人/ミラノサローネと歩むデザインの旅
2022.07.22(Fri)
edit: Yumiko Urae
ミラノサローネって聞いたことありますか?今年で60周年を迎える家具の国際見本市です。第二次世界大戦が終わって、復興の意味もあった当初はイタリアの家具メーカーだけの展示会だったのが毎年、会を重ねるごとにあれよあれよと規模が拡大。ミラノ郊外にある見本市会場フィエラは今、欧州でも最大規模の753,000平米!業界人だけでなく、学生も訪れます。毎年、4月の開催が定番ですが、パンデミック明けの今年は6月の開催。173カ国から26万2608人の来場者数を記録しました。展示会開催期間の頃はミラノ・デザインウィークと呼ばれ、市内でも展示やイベントが盛りだくさん。世界中のデザインが集まるお祭りです。
そのミラノ・デザイン祭りに通い続けるのが東京在住の空間デザイナーの吉添裕人さん。展示や商業施設、インテリアとあらゆるスペースを演出するデザインの分野で活躍されています。その吉添さん、ミラノサローネが35歳以下の若手部門に与える展示エリア「サローネ・サテリテ」への出展のため、3年ぶりにミラノ入りしました。

そもそも、海外発表にはそんなに意欲的ではなかったという吉添さんのはじめてのミラノデザインウィーク訪問は2016年。レクサスのデザイン・アワードのベスト12に選ばれたのがきっかけでした。「行ってみたら感覚が全然違っていて、デザイン・ウィークのとにかく規模が大きいことに驚きました。そして、翌年もう一度この場所に来れたら、と再度アワードに挑戦することに。とても光栄なことにグランプリを頂くことができました。」そんな中、ミラノ・サローネ会場に若手にリーズナブルな出展料でブースを提供してくれるサローネ・サテリテを知ります。「自分の作品に興味を持ってくれて、向こうから声をかけてくれる人たちとこんな出会いがあるのかと実感しました。少しでもいいと思うと気軽に名刺を置いて行ってくれるのは日本と違う文化だったので新鮮でしたね。」それでまた、その翌年2019年にも出展することに。
今回発表した照明作品「Orbit」は私たちの前から姿を消しつつある蛍光灯とブラウン管へのオマージュ。光の記憶を備えた素材を溶かしリサイクルすることで、新たな未来への光を纏います。

photo: Shunsuke Watanabe

illustration: Hiroto Yoshizoe
今年で5回目のミラノ行き。日記のようにスマホで撮った写真と共に、久しぶりのミラノへの旅を振り返っていただきました。


ロンドン経由でミラノへ。久しぶりの国際線の飛行機。ロンドンのヒースロー空港に着いたら、みんなマスクしてなくてびっくり。ロンドンからミラノの便はフライトアテンダントもマスクしてなかった!一番のカルチャーショックでした。


いつも見本市会場フィエラと市内の中心の間、地下鉄の赤いライン沿線アメンドーラのあたりに宿泊するんですよ。ここのジェラート屋モンテ・ローザは必ず行きます。本場のジェラート、定番はココナッツとチョコですが、なんでも美味しいですよ。


サテリテはポートフォリオを提出して、審査があるけれど35歳以下なら誰でも応募できます。ブースは2×4メートルで20万円ほど。若手にチャンスを与えてくれて、大学がチームで出展したりもしていますね。デザイナーが600人ほど来ていて、日本からも今年は8組が参加しました。初めて行った時は、この道具があった方がいいよな、みたいなことが多々ありましたが、イタリアで什器をオーダーするまでに進歩しましたね。


期間中にサテリテの中から3人受賞者の発表があり、出展者がみんな会場の中心に集まります。残念ながら受賞はしませんでしたが、この写真は何だか皆が同じ地球に集まってきたみたいで気に入っています。


飲み屋や飲食店がたくさんあるブレラ地区。デザイン・ウィークのあいだオープンしているギャラリーや展示スペースも多いです。地下鉄モスコヴァ駅のあたりですね。陽気も良いし、週末だったこともあり、とにかく人が多くて活気がありました。


「展示会の合間には少し時間をとって必ず他のブースも見に行きます。イタリアの有名家具ブランドPorroに行ったら日本の照明メーカー、アンビエンテックのために僕がデザインしたポータブル照明「hymm」(右手)が田村奈穂さんのデザインした「Turn」と一緒にスタイリングされていて感動しました!嬉しかったなあ〜


2017年、レクサスの展示をしたミュージアム、ミラノトリエンナーレ。常にいいデザインの展示をしているので、必ず時間をとって訪れます。


サフランの入ったミラノ風リゾット。牛すね肉をトマトでじっくりとやわらかく煮込んだオッソブーコもミラノの郷土料理。現地の方のおすすめのお店に連れていってもらいました。このコンビネーションはかなり定番なので色々な店で出していますね。


展示会が終わって、くたくたなんだけれど、帰る前の最終日にはやっぱり自分のインプットのために市内に。同行してくれた映像ディレクター/フォトグラファーの渡辺俊介くんとサテリテの展示で一緒だった中森大樹さんと岩松さんと中心から少し離れたイタリアの照明会社として有名なFLOSの展示やプラダ財団の展示を見に行きました。
アンビエンテックからポータブルライト「hymm」を商品化したのも、サテリテに出展していたのが出会いだったと吉添さん。率先して海外に行くというタイプではなかったけれど、イギリスに6ヶ月短期留学をして英語を学び、その後のミラノでの人々との出会いはかけがえのないものになっているようです。
「ミラノに来ると日本では会えない日本人との出会いもあるし、デザインという共通言語を持った各国の友人や知り合いが増えます。仕事で知り合ったとは言え、気軽にあ、2年前に会ったよね!と声を掛け合いやすい空気がここにはある。それは活力になりますね。デザインだけでなく、街を歩くだけでも石畳や建築や、ここの空気が大きなインスピレーションに繋がる、インプットが増えます。ミラノの人たちもよく戻ってきたね!という気持ちにさせてくれる。この国の人たちのオープンで温かさも今回、戻ってきて、しみじみ感じましたね。」

吉添 裕人
よしぞえ・ひろと|空間デザイナー。武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科卒業。乃村工藝社勤務後、独立。東京を拠点にホテルやレストラン、ショッピングモールなどの商業環境に特化した空間デザイン業務に従事。近年は、メーカーやファッション・ブランドとのコラボなど、クライアントワークとは異なる個人制作を開始。その作品はミラノで開催される国際コンペティション「LEXUS DESIGN AWARD 2016」にて TOP12、翌年 2017 年にグランプリを受賞。2018 年、2019年、2022年、ミラノサローネの若手部門サテリテに出展。過去5年間で日本をはじめ、イタリア、アメリカ、ブラジル、中国など、各国で作品を発表している。