カルチャー
シティボーイの額装術。Vol.1
額装オーダー/シルクスクリーン版画編
2022年7月12日
photo: Koh Akazawa
text: Toromatsu
edit: Kosuke Ide
cooperation: Yu Kokubu
絵画や写真などの作品やポスターを手に入れたとき、そのまま壁に貼ったりして飾っておくのも良いけれど、せっかくならそれに合う額に入れて、より楽しみたい。もちろん既製品で間に合わせるのも手だが、作品サイズがうまく合わない場合もあるし、スタイルも選択肢が限られていて、作品の雰囲気に合わせて好みのものを自由に選ぶってわけにもいかない。できれば大好きな作品にぴたりと合った、最高の額を手に入れて、自分だけの特別な存在にしてみたい! そんな思いから、額装を知る長い旅に出た。
まずは額装について知るべく、額縁を扱うショッピングサイトで調べてみる。水彩画や版画などを入れる「水彩・デッサン額」や、キャンバスなど厚みのあるものを入れる「油彩額」、その他にも「写真額」に「ポスターフレーム」、「和額」などさまざまある。例えばポスターフレームひとつとって見てみても、額縁にはアルミタイプ、木製タイプ、加えて無数のカラーパネル他、シンプルなものもあれば彫りなどのデザインが入ったものもあるし、とにかく種類がやたらに多い。額というものが思っていたより奥深いということはわかっても、どうしてもサイトを見るだけでは、自分の目指す粋な額装を知るには至らなかった。
思い切って、専門店へ行ってみよう。
作品画像やフレーム写真などを使って画面上で額装のシミュレーションができるサイトなんかもあったりするけど、微妙な素材感もよくわからないし、なかなかピンと来ない。やはり「額装のABC」を知るには専門店に行くのが一番だろうという結論に至り、〈POPEYE Web〉チーム3名でそれぞれ額装したいものを持ち寄り、目黒区八雲の老舗額装店『ニュートン』でオーダーしてみようということに。店のホームページを確認すると「油彩・水彩・写真・版画・ポスター・現代アート(立体・コラージュ)・水墨・書・刺繍など、額装のことなら何でもご相談ください」と書いてあるから、どんなものでも額装できるんじゃない?と勝手に妄想した僕らが用意したのは、以下の4点。果たしてこんなものでもすべて額装は可能なのか? さっそく予約をして、これらを持ち込んで店を訪れた。
井出:シルクスクリーン版画
トロ松:Tシャツ
コクブ:写真、カセットテープ(2本)
『ニュートン』で出迎えてくれたのは、店主の鷹箸廉(たかのはし・れん)さん。半世紀以上も続く額装店を受け継ぐ二代目だ。鷹箸さんによれば、この店では基本的にすべて額装する作品を実際に見た上で、お客さんと一緒に話し合いながら額装の方法を決めていくそう。「やはり写真などでは細部のディテールが伝わりづらいので、できる限り実物を見せていただくようにしています。」ということで、まずは額装したい作品を机上に広げて、話し合いが始まる。
無数にあるフレーム素材を決める。
井出さんが持ち込んだシルクスクリーン版画は、数年前にキューバを訪れた際に蚤の市でたまたま見つけた版画作品。陽に焼けた紙が折れたり破れたりしている無名アーティストの作品だけど、額装すればまた違った表情になるはずと井出さん。「そう、路上で見かける何てことない花なんかも、額に入れるだけで物凄く素敵に見えたりするんですよ」と店主の鷹箸さんも共感を得ている様子。店に飾られていたそれを拝見させてもらうと、まさにその言葉通りハイセンスなものに見えた。
ここでは初めに、お客さんがどんなフレームをイメージしているかを探るという。大まかに、金縁なのか木製なのか、色はヴィヴィッドなものか落ち着いたものか……試しにL字型の金縁のサンプルを作品に当ててもらうと、重厚な印象でより絵画的な雰囲気が生まれているのが見て取れる。今回のシルクスクリーン版画には主張が強すぎるように思え、木枠にすることにしたのだが、それでハイ終了、というほど単純でもないのがこの過程。
木材にもチーク、ウォールナット、マホガニー、ブラックチェリー、メープルなど多数の種類があり、色や木目などの表情もそれぞれ違う。またそれらにオイルド加工が施されていれば、色が濃くなって少し重めに映る。選択肢が膨大すぎてこれだけでも目が回りそうだが、「ニュートン」ではスタッフがお客さんの求める方向性を汲みつつ、適切なサンプルを選びつつ見せてくれるので決めやすい。
フレームの細さも重要。1mmで大違いだ!
加えてフレームの縁幅の大きさを決めることもできる。「たった1mm違うだけでも、印象がすいぶん変わるんです」と話す鷹箸さんが作品の周りに1mm違いのL字サンプルを置いてみると、確かに作品の見え方がまったく違うので驚かされた。当然ながら太ければフレームに存在感が出て、細ければ繊細でシャープな印象になる。全体の大きさにもよるが、細さは9mm程度が限界だという。フレームの縁幅が決まったら、奥行きの幅も決めることができるのだが、それは額装方法によって異なるのでひとまずお預けに。井出さんが最終的に選んだのは、「オイルドのウォールナット素材、縁幅10mm」となった。
作品を立体的に見せ、モノ感を高めるワザ。
次に額装の方法を決める。水彩画や版画などの平面作品は、一般的に「マット」とセットで額装されることが多い。マットとは、作品と額縁の間に位置する台紙のことで、余白の体裁を整えて見栄えを良くするだけでなく、ガラスと作品の接触を防いで保存性を高めるという役割もある。ポスターの場合には、マットを用いず作品ぴったりのサイズの額に納められ、カジュアルに額装することも多い。
やはり今回はマットを使用したいと話したところ、マット幅を決める段階で、鷹箸さんが「この作品なら、“フロート”と呼ばれる技法を用いてもいいかもしれません」と提案してくれた。このフロートとは、作品をひと回り小さい土台の上に置き、浮いて見えるように額縁にセットするというもの。これを施すことで、作品そのものに立体感が生まれ、より物質性=“モノ感”が際立って見えてくるという。古紙の持つ雰囲気が気に入っていた井出さんは、すぐにその提案を受け入れた。ただ、今回持ち込んだこのシルクスクリーン版画は、水分を含んでしまっているためか、紙全体がふにゃふにゃと歪んでしまっていているのが気がかり。しかし、「裏打ちするので問題ありません」とのこと。作品の裏に和紙を貼ることで皺を伸ばし、また強度も高める方法で、しっかりピンと伸びてくれるという。
最後にマット幅、つまりは余白の設定もかなり大事だ。マットの面積を大きくとるとより絵画的に見えてきたりと、これもまたかなり奥が深い……。紙色もさまざまで、台紙にも布素材などもあったりする。今回はフロート技法により作品が少し浮くことで、マット部分に影ができるため、少しだけ余白を大きめに。素材、カラーの選択は経験値の高い鷹箸さんにお任せすることとした。
無数にあるフレームの素材から選定し、サイズ、幅、額装方法、マットの種類やサイズも決定。作品を引き立てるためにこれだけ多くの工夫を凝らしていくのだと思うと、かなり感動。鷹箸さん曰く「出来上がったときに、既製品フレームとは明らかに異なるのがわかりますよ」、今から楽しみでならない。
額装は今回の場合は3週間ほどで完成するよう。今回持ち込んだシルクスクリーン版画のサイズは535mm×430mmで、金額はおよそ3万円ほど。結果的に作品そのものの購入額より高価になったわけだけど、ぴったり合うものを店主と相談していく時間は、まるでオーダーメイドのスーツを注文したような気分だった。完成記事はVol.3までお預けに。続いては、Tシャツや、カセットテープなど立体物を額装オーダーへ!
インフォメーション
額縁・額装店 newton
Official Website
http://newton-frames.com
Instagram
@newton_frames
@noie.cc
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