カルチャー
クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書。Vol.5
紹介書籍 『ビリー・リンの永遠の一日』
2022年5月15日
text: Densuke Onodera
edit: Yu Kokubu
誰のヒーローにもなりたくない
幼い頃の夢は「ウルトラマンタロウ」だった。正義のヒーローになりたかった。20年後、私はサラリーマンになった。クソみたいな世間に揉まれ、クソみたいな世界を知った。そして今、ようやく正義のヒーローになれる方法がわかってきたので、当時の私にこうアドバイスしたい。
「ヒーローになりたきゃ戦場に行け」
私たちが暮らす社会では、人に暴力をふるえば暴行罪で捕まるし、人を殺せば殺人罪で捕まる。それなのに、戦場において戦闘員は暴力をふるうことが容認され、敵を殺すと犯罪者ではなくヒーローになる。なぜかといえば、暴力の理由が”正義”だからで、”悪”に対してふるう暴力は世界を救うとされているからだ。そして、そんな理由の元、ウルトラマンの世界だけでなく、今日もこの世界のどこかで暴力が行使され、戦争状態が続いている。
それ故にNO WARを基本スタンスとするパンクスは、昔から正義を疑い、ヒーローを嫌ってきた。例えば77年結成のパンクバンドSTIFF LITTLE FINGERSは「Don’t wanna be nobody’s hero(誰のヒーローにもなりたくない)」と歌い、「be what you are(自分自身であれ)」と叫んだ。英雄になることを否定し、そのままの自分であることを肯定したパンクスは、私にとってのヒーローだった。
アメリカの小説『ビリー・リンの永遠の一日』を読んで感じるのは、そんなパンクスに通ずる反戦、反英雄のスタンスだ。
本書の主人公はイラク戦争に派遣された兵士で、激しい銃撃戦の中で味方を助けるべく果敢に行動した姿をたまたま居合わせた報道カメラに捉えられ、彼が所属する分隊は本国で一躍ヒーローになる。国は彼等を戦意高揚のために利用すべく、戦闘真っ只中のイラクから一時帰国させ、勲章を与え、全米各地で凱旋ツアーをさせたのち、アメフトのハーフタイムショーに駆り出して、ビヨンセが歌い踊る横で行進させる。その顛末をユーモアと皮肉たっぷりに描いたフィクションというのが本書の筋書きだ。
スタジアムのVIPルームでは金持ちのおっさんおばさん連中にアナタ達は国の誇りだと称えられる。ハリウッド関係者は彼らを題材にした映画製作の話を進めている。ヒーローは大衆の愛国心を満たすために利用され、資本家のビジネスに消費されていく。
で、意図せずヒーローにされた主人公の中身はといえば、愛国心と正義感に満ち溢れた兵士という訳ではなく、犯した罪の訴追を免れるために軍隊に入隊した19歳の童貞であって、そこら辺にいそうな普通の兄ちゃんだ。それ故に彼は戸惑う。ニュースで切りとられた映像では、敵の攻撃から仲間を守る勇敢なヒーローに見えても、カメラが写さない所では彼もまた敵に攻撃を仕掛けている。
たくさんの人達から称賛を受けまくる中で、主人公は不安を抱きこう思う。
「誰かが自分のことを”赤ん坊殺し”と呼ばないものかと思う。だが、赤ん坊も殺されていることは誰も思いつかないようだ。」(P.287)
そんなことは口に出さず、彼は大衆が求めるヒーロー像を演じる。そしてハーフタイムショーでは花火がバンバンうち上がり、ド派手な演出でビヨンセが歌い踊るステージ上で、主人公は立ち尽くす。銃弾が飛び交い、殺すか殺されるかの戦場における日常と、本国における大衆の熱狂と非日常。そのどちらにおいても、人間らしさは行き場を失う。
いかなる暴力行為にも正当な理由などなく、暴力を容認する正義は欺瞞にすぎない。現実世界におけるヒーローは、戦時において大衆の愛国心と熱狂が生み出した幻影にすぎない。本書を読んでそう痛感した。
STIFF LITTLE FINGERSが歌う通り、誰のヒーローにもならずに自分は自分のままでいたいし、それが可能な社会であってほしい。読後にそんなことを考えつつ、ふと彼らは今も活動しているのだろうかとユーチューブで検索してみると、すっかりおじさんになって太ったボーカルが普段着のまま小さなステージに上がり、アコギ一本で弾き語りをしている映像が出てきた。40年経って歳を取り、見た目は随分と変わっても「誰のヒーローにもなりたくない」と変わらず歌い続けていた。なんだか泣けてきた。正義のヒーローやロックスターと違い、人間くさくて最高だ。
紹介書籍
ビリー・リンの永遠の一日
著:ベン・ファウンテン
訳:上岡伸雄
出版社:新潮社
発行年月:2017年1月
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