ライフスタイル

僕の憧れの大人。/ エリオット・アーウィット

2025年6月5日

大人になるって、わるくない。


illustration: Kazuma Mikami, Makoto Wada (profile)
text: Keisuke Kagiwada
2025年6月 938号初出

生き様のスタイルサンプルを見つけることは大人への近道。
4人の先輩たちは誰の背中に大人を感じたのだろう。

ELLIOTT ERWITT

エリオット・アーウィット

写真家。1928〜2023年。フランス・パリ生まれ。21歳で活動を開始し、25歳の若さでマグナム・フォトに参加。写真集に『我われは犬である』『ふたりのあいだ』など。

どこでも自分のペースを貫き、
いたずらに先輩面しない。

 エリオット・アーウィットさんとは来日時の取材で2回ほど会ったことがあるんですが、なんかね、距離感があるんですよ。上機嫌じゃないし、割と静かに話すし、よその国に来たからって明るく握手を求めてくる感じもない。だけど、不思議と嫌な感じはしないんですよ。彼のルーツであるフランスの国民性なのかもしれないけど、どこの国にいてもこんな感じなんだろうなって雰囲気があるというか。周囲の空気に流されず、自分のペースを貫いてるその姿には、大人を感じました。

 年を取るとどうしても先輩面したくなるじゃないですか。「俺もそういう時代あったからわかるよ」って、若い人に何でもかんでも説明したくなっちゃうんですよ。自分もなんだけど(笑)。でも、アーウィットさんはたぶんそういうことをしない。「僕は僕、君は君。それぞれやりたいようにやりましょう」ってきちんと境界線を作って、それを突破してこないというか。

 ウィットや皮肉がありつつ、どこか淡々としている彼の写真にも、そういう人間性と通じるものを感じますね。例えば、ゲイリー・ウィノグランドは、僕の思うアメリカ的なものを体現するスナップ写真家ですが、とにかくどこにでも突っ込んでいって、パシャパシャ撮っているような印象があります。あるいは、スイスからアメリカに渡ったロバート・フランクは、真面目なんだけど同時に暗い。そのどちらでもなく、最終的には楽しい方向に舵を切るアーウィットさんの〝ものの見方〟に、フランス的な大人らしさを感じるんでしょうね。

 そういえば、彼は人前に出るときいつもきちんとスポーツジャケットを着て、しかも胸ポケットにペンを挿しているんですよ。そういうスタイルを持っているっていうのも大人ですよね。

profile

僕の憧れの大人。/ エリオット・アーウィット

若木信吾

写真家

わかぎ・しんご|1971年、静岡県生まれ。写真家の傍ら、映画監督、出版社「ヤングトゥリー」の主宰や、浜松の書店『BOOKS AND PRINTS』の運営など、多方面で活動する。