カルチャー

映画の中の素敵な部屋ベスト10

部屋好きの10人にセレクトしてもらいました。

2021年5月4日

illustration: Tomoya Osoegawa, Yousuke Kinoshita
text: Koji Toyoda
2020年12月 884号初出

No.1 『トゥモロー・ワールド

映画『トゥモロー・ワールド』
人類が出産能力を奪われた近未来のイギリスが舞台。奇跡的に妊娠した黒人の娘を守ろうとする一人の男の姿を描くSFアクション。長回しを多用した映像もドラマチック。

憧れの部屋は、インテリ・ミーツ・ヒッピー。
 私にとってのオールタイムベストハウスは、『トゥモロー・ワールド』の森の中のシェルター。主人公の年の離れた友達が奥さんと2人で住む一軒家ですが、そのインテリヒッピーの隠れ家といった雰囲気に憧れますね。部屋の中心に置かれた〈ラッフルズ〉に似た赤いソファも、北欧っぽい雰囲気のコーヒーテーブルも、天井からぶら下がったミッドセンチュリー期のような照明も、どれひとつとっても趣味がよくて。テイストはバラバラでも、部屋の主人の個性がしっかりと浮き彫りにされていて、何度見ても素敵な部屋だなぁと思います。

スタイリスト

岡尾美代子

おかお・みよこ|1963年、高知県生まれ。雑誌や広告などのスタイリングの他、鎌倉で友人と『DAILY by LONG TRACK FOODS』を営む。好物は、『8 Mile』などの音楽もの。


No.2 『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで

映画『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』
『タイタニック』のレオナルド・ディカプリオ&ケイト・ウィンスレットが共演。’50年代のアメリカ郊外に住む夫婦が、理想と現実の狭間で葛藤するホームドラマ。

ゴールデンエイジに恋い焦がれて。
 もともと、夫婦倦怠期モノは大好きでよく観るのですが、なかでも『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』は、’50年代アメリカの一般市民(ちょっと富裕層寄り)のインテリアを存分に楽しめる一本。サイドボードやソファの配置、ウォールシェルフ、日本人にとっては多すぎると思えるランプの数々、建て付けのキッチン、各部屋にチョイスされたカーテンの柄など、とにかく個人的に見どころが多くて、いちいちストーリーに集中させてくれない(笑)。ジェラルド・サーストンのランプやバタフライチェアも密かに置かれているんですよね。最高。

『ブルペン』共同代表

佐野彰彦

さの・あきひこ|1991年、東京都生まれ。『アクメ ファニチャー』を経て、2018年に仲間とともに『ブルペン』を開く。『ゴッドファーザーPARTⅡ』や『デッドマン・ウォーキング』の部屋にも憧れる。


No.3 『180°SOUTH/ワンエイティ・サウス

映画『180°SOUTH/ワンエイティ・サウス』の部屋
若い頃に楽園を求めて旅に出た、〈パタゴニア〉の創設者、イヴォン・シュイナードと、〈ザ・ノース・フェイス〉のファウンダー、ダグラス・トンプキンス。その足跡を冒険家ジェフ・ジョンソンが追った記録映画。

アウトドア界の“伝説”が作りし良き風景。
 大人の男として、遊びででも人生の使命としてでも、自分らしい環境を作る人たちを純粋に尊敬しますし、憧れます。この映画に登場する〈ザ・ノース・フェイス〉の創設者、ダグラス・トンプキンスや〈パタゴニア〉のファウンダー、イヴォン・シュイナードが談笑するシーンに登場する小屋はそのひとつ。特別にすごいものがあるわけでなくて、何が足りているか何が必要でないかを人生通して、仕事でも世の中に問い続けてきた人だからこその侘び寂びが詰まっている。その人たちに合った雰囲気で、良き景色だなと思える部屋はいいものですね。

〈ランドスケープ プロダクツ〉 ファウンダー

中原慎一郎

なかはら・しんいちろう|1971年、鹿児島県生まれ。1997年に〈ランドスケーププロダクツ〉を立ち上げる。生活様式が変わる前は飛行機で、今は朝や夜のウォーキングの途中に映画館に行くことも。


No.4 『キャロル』

映画『キャロル』の部屋
デパートで働く主人公のテレーズは、娘のクリスマスプレゼントを探しにきたキャロルに心を奪われてしまう。1950年代のニューヨークを舞台にした禁断のラブロマンス。

胸を焦がす、時代の色を宿した壁たち。
 僕にとって空間を考えるときに何よりも大切なのが“箱”。だから、映画を観るときは壁の色に注目することが多いですね。ドラマ『バンド・オブ・ブラザース』の食堂の刷毛で厚塗りされた白壁に、リメイク版『サスペリア』のドイツらしい硬質さを漂わせるジャーマングレーの壁。『キャロル』のペールトーンの壁からは、’50年代の黄金期に突入した豊かな時代の優しいムードが伝わってきます。いい家具に囲まれるよりも、まず僕は時代の色に包まれたい。だから、『キャロル』などの部屋にときめくのです。

『アンティークス タミゼ』店主

吉田昌太郎

よしだ・しょうたろう|1972年、東京都生まれ。骨董店『アンティークス タミゼ』と『タミゼクロイソ』を手掛ける。釣りが趣味で、レインボートラウトを追いかけ、北海道まで遠征することも。


No.5 『ビッグ・リボウスキ』

映画『ビッグ・リボウスキ』の部屋
冴えない中年デュードが、同姓同名の富豪と間違われたことで奇妙な事件に巻き込まれる、不思議な人間ドラマ。デュードの脇を固める演者も最高におかしい。

ダサカッコいい部屋の参考書。
 ダラダラと流して観る映画の代表。ぶっちゃけ中身はないじゃん? でも、映像の中にぼんやりと煙のように漂った、“カッコつけないカッコよさ”には憧れる。それはインテリアにも表れていて、いかにも独身おじさんの一人暮らしっぽい部屋なのに、さりげなく〈イームズ〉のシェルチェアや高そうなキリムラグが置かれる。自宅の家具を新調するときに、そういえば! と思い出して、似たようなラグを買っちゃった。何度も流し見するうちに、リボウスキ流のインテリアが刷り込まれちゃっているのかも。

『ホテル ドラッグス』店主

ナタリー・モリタ

1987年、パリ生まれ。2015年、原宿に『ホテル ドラッグス』をオープン。最近は1児の母となり、ママ業と兼任しながら、週2で店に立つ。〈オンエア〉とコラボした#母乳Tも販売中だよ。


No.6 『暗黒街のふたり』

映画『暗黒街のふたり』の部屋
刑務所から出所し、第二の人生を歩もうとする主人公。そこに更生を疑う刑事や昔の仲間の邪魔が入って……。フランス映画を代表するアラン・ドロンとジャン・ギャバンがタッグを組んだ社会派ムービー。

構造が美しいアラン・ドロンの部屋。
主人公のアラン・ドロンが働く印刷工場の造りもそうですが、フランス人ってのは鉄とガラスを上手に使いこなし、良い建物を造るなぁと。彼が暮らすアパートの玄関先にも、磨りガラスを使ったパーティションが設けてあって、半世紀たった今見ても、そのモダンな仕組みに心惹かれます。だけど、フランス社会では近代的な部屋は、社会的地位の低さを示す暗号でもあるんです。だからか、この部屋にも無味乾燥な空気が流れていて、それが僕の育ったつくばの空気にも似ている。僕の心に妙な共感が芽生えるんです。

〈レアジェム〉代表

西條 賢

にしじょう・けん|1971年、東京都生まれ。小さな金具やバッグ製作、店舗や住宅の内装を手掛ける〈レアジェム〉を主宰する。仕事が休みのときは長野の森に籠もって、山小屋を制作中。


No.7 『シークレット ウインドウ

映画『シークレット ウインドウ』の部屋
ジョニー・デップ演じる作家のモートの元に、ある日、盗作を訴える謎の男が現れて。離婚問題も重なり、スランプに陥っていた彼は徐々に憔悴していく。キング原作のサスペンス。

花で装いたくなる湖畔の邸宅。
 憧れの部屋って、どこかで幼少期の記憶が関係してくると思うんです。父とキャンプで行った湖。高冷地にある祖母の木造家屋。私にとってかけがえのない2つの要素をカバーしているのが、主人公のモートの湖畔の家なんです。森に囲まれた湖畔の家らしく、古家具で調えられたウッディな屋内も、何やら不穏なムードが漂っていて、観ているこっちはワクワクしちゃう。そして、ここにお花があったら最高なのに、と観るたびに思っちゃいます。私だったら、コニカルやジニアなど明るい花を飾るかな。

『フォレジャー』店主

上野智枝子

うえの・ちえこ|1978年、東京都生まれ。2015年に下北沢に花の小屋『Forager』を、2018年には幡ヶ谷に『Forager西原店』をオープン。『マイ プライベート アイダホ』の回想で出てくる木造小屋も好み。


No.8 『ロケッティア』

映画『ロケッティア』の部屋
舞台は、1938年のアメリカ。愛機を失った飛行機乗りの青年が、偶然発見したランドセル型のロケットを手に、スーパーヒーロー、ロケッティアとして活躍する姿を描いた、’90年代の隠れたヒーロームービー。

ロイドの遺跡を根城にできたら。
 映画の中の空間に求めるのは、僕の場合はロマンなんです。そういう意味では、この映画の悪役、ネヴィル・シンクレアが根城にする大邸宅が理想的。謎の文様が刻まれた石のタイルが壁に敷き詰められていて、まるでインカの遺跡を彷彿とさせるスケールのデカさ。表の顔はハリウッドスターで、裏の顔はナチスのスパイという設定にもぴったりですよね。しかもこれ、フランク・ロイド・ライトが1923年に設計したエニス邸をモチーフにしたものといわれているんです。実は子供の頃に見学したことがあって。幼き日の記憶も込みで憧れがあるのかも。

ギャラリスト

佐藤 拓

さとう・たく|1982年、ロサンゼルス生まれ。建築家の父の転勤で12歳までLAで過ごす。ギャラリー『クリア エディション』のディレクターを経て、2019年より馬喰町の『パーセル』を運営。


No.9 『ショート・カッツ』

映画『ショート・カッツ』の部屋
レイモンド・カーヴァーの短編小説をもとに、10組の人々の日常と非日常を淡々と描いた3時間9分! に及ぶ群像劇。アンディ・マクダウェル、ジャック・レモン、それにジュリアン・ムーアなど、俳優陣も超豪華。

色や配置の完璧さは、絵画のごとし。
この企画をもらったときに、ポーンと頭に思い浮かんだのが、『ショート・カッツ』のジュリアン・ムーア演じる画家の部屋。ロサンゼルスらしく窓が大きくて開放的な雰囲気も好きですが、実は置かれる家具には興味をそそられません……。どちらかといえば、俯瞰したときの“部屋”としての存在感の強さに惹かれるというか。だから、チェッカー柄のフローリングに、レトロストライプのソファ、壁に立てかけられた絵画などは、どのピースも外せないんです。まるで完成された絵画のようで、彼女のキャラにぴったりですよね。僕もこんな部屋で絵を描きたい。

〈コンフォータブルリーズン〉デザイナー

100

ひゃく|1985年、佐賀県生まれ。〈コンフォータブルリーズン〉のデザインの他、自らが買い付けた家具や雑貨を扱うオンラインショップ『フィクショナルストア』も手掛ける。日常的に絵も描く。


No.10 『シングルマン』

映画『シングルマン』の部屋
ファッションデザイナーのトム・フォードが初めてメガホンを取ったデビュー作。恋人を不慮の事故で亡くした、ゲイの大学教授ジョージの愛と葛藤を美しい映像で紡ぐ。

ジェントルマンの流儀に惚れ込む。
 コリン・ファースが演じた主人公のジョージ・ファルコナーが住む一軒家は、フランク・ロイド・ライトの弟子、ジョン・ロートナーが設計した「シェーファー・レジデンス」なんですよね。劇中では、“ガラスハウス”と呼ばれるように、常に優しい光が差し込んでいてかくも優雅。タンスの中にクリーニングされた白いシャツが何枚もピシッと整列された様子も、ジャン・プルーヴェのチェアに足を載せて靴をささっと磨く仕草も、程よい緊張感に溢れた男の美学を感じさせます。彼の立ち振る舞いも含めて、贅沢な暮らしとはまさしくこのことかと。

〈オールドジョー〉デザイナー

髙木雄介

たかぎ・ゆうすけ|1979年、香川県生まれ。2008年に自身のブランド〈オールドジョー〉をスタート。ジャン・ヌレやジャン・プルーヴェなど、デザイナーズヴィンテージ家具にも造詣が深い。