TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
LIFESTYLE

【#4】今よりも良い状態

2022.04.03(Sun)

ポパイさんのタウントーク、今週で私の担当は最終回と思うと、より一層何を書くのが良いか考え込んでしまい筆は進まずうめき声をあげている。インスタグラムの質問機能で題材を募集してみたけれど、時間もないので思い切ってシンプルに、今日の私の記録を書いていくことにした。書いていけば、何かにたどり着くであろう。最後の最後がこんなかいと自分でも思うけれど、計画的に最終回を飾る能力なんて私にはないのだ。

猫のう○ちの臭いで起床後、すぐに洗濯機を回し、続けてトイレの掃除をした。今日は午後から知人ミュージシャンたちが制作の場として我が家のリビングを使うので、ありのままで迎えるわけにはいくまい。トイレ掃除の後は洗面台を掃除する。そして目玉焼きのっけトーストと珈琲を高速で食す。
洗い終わった洗濯物を外に干し、こたつを片付け代わりにテーブルを出す。なんだかんだ1年以上床生活をしてしまった結果、腰がやられ腹筋が衰えた。テーブルに戻った今、座椅子の極楽がほんの少しだけ恋しく、結局楽なソファーをどうにか手に入れたいと今思っている。
たまの来客があると掃除をするきっかけになるので良い。今週はあまりにも忙しかったので、猫の抜け毛が部屋の隅でどんどん大きくなっていくのを見て見ぬ振りしてきた。来客があるとなるといつも以上に汚れが気になり出す。髪の毛一本、残してたまるか。排水溝も洗浄する。入念に掃除をするのが私の来客の出迎え流儀である。こういうとき、普段からちゃんとしていれば良いのにとつくづく思う。
一通り部屋中を掃除した後、前日の大雨で駐輪場に放置してきた自転車をとりに行くついで、来客用スリッパを買いに行った。ここまで時間配分はばっちりだ。私だってキビキビ動けるときもあるのだ。帰りに買ったスーパーの小さなホールピザ400円を半分、台所で立食した。
来客を出迎え珈琲を振る舞った後、私は作業部屋に籠って自分の机に座りこの記事を書きはじめた。
そのうちなんとなく大きいほうをしたい気がしてきて、「来客中にそんなことをしでかすのも……」と思い自転車で自宅から一番近いスーパーに駆け込み、トイレを借りることにした。大きいほうのスケジュールも午前中に組み込んでおくんだった。しくじった。ついでに入浴剤を買った。外に出たら意外にも寒かったので、こたつを片付けてしまって今晩が少しだけ心配になった。けれど最近の陽射しは段々と色合いが夏を帯びてきたように思う。勘違いして麦茶を沸かしてしまった。

文章を書くとき、集中して一気に書いてしまうことの方が多いのだが、今回は「今日そのときの自分の記録」だから牛歩牛歩で良い。昔はよくこんな風にそのときの自分をノートに記録し、「時記」とか「分記」呼んで(日記より細かい記録ということで)とてつもない量の文章を書いた。大学の講堂や喫茶店、枕元でも、頭の中の話口調でどんどん言葉を書いていく。脳から出まかせ。後から読み返すと日記ほど整然としておらず、気まぐれで情動があり面白いのだ。しかも思考を止めることは難しいので、そのときの自分が特別何かの行動をしていなくても、頭の中の思考の記録はいくらでも書けてしまう。
行動の記録や思考の記録でアウトプットをし続けることは、多方面に良い効果があるんじゃないかと思っている。

夕方、先日亡くなってしまった青山真治監督の『宝ヶ池の沈まぬ亀』を読んだり、ギターを触ったりしている。明日は長時間のバンドリハがある。そして来週の土曜日にはライブだ。観客の前に立つのは本当に久しぶり。あまりに久しぶりなので、何かしくじりそうな気もする。前回は貧血を起こしステージに出てすぐぶっ倒れた。そういうことは絶対に避けたい。
そうこうしている間にリビングのミュージシャンたちは作業を終え、晩御飯を食べに出て行った。私も誘われたが断り、来客の最中隠れていた猫たちと一緒に過ごすことにした。明日の練習も引き続きしたいし、この記事も書いていかねば。
昼に買ったホールピザの残った半分を温めて食べる。残りは明日の朝にでもと思っていたし寒いので本当はうどんが食べたいが、作るのがめんどくさいが勝って食べてしまった。

年始に知人の店で『10年メモ』を買った。その名の通り2022年から2032年までの記録を4月はじまりでつけられる豪華なノートだ。毎年なんやかんやで購入しそびれていたのだけれど、「今年こそは絶対だ」と思い忘れないよう早々と年始に購入しておいた。そして今日からはじまることも忘れないでいられた。ナイス。
店主の知人は「これをつけていると毎年一年のどのタイミングで体調を崩すかがわかる」と言っていた。ノートは一日のスペースが小さく数行しか書けないので、書くとしたら「朝から掃除、来客あり。楽器の練習をしたりポパイの記事を一生懸命書いた」などになりそうだ。
果たして40歳まで続けられるだろうか。どこかで忘れてしまっても良いから、なんとかして書いていきたいものだ。10年完走して一通り読んだ後、燃やしてやろうじゃないか。

あるカウンセリングの回で、カウンセラーから「過去の色々なことについて、自分が傷ついていたと今になってわかったのは、今がそのときよりも良い状態だからということもありますよ」と言われた。今そのことを改めて思い出した。
このコラムの連載をはじめて4週間、戦争は終わっていないしコロナの感染者数も減少していない。私もキラーチューンを生み出してはいないし、宝くじが当たったりもしていないし、顔がめちゃくちゃ可愛くもなっていない。素晴らしい人がいなくなり、悲しいことがたくさんあった。
ただ大きなことでなくても良いから、少しずつ今よりも良い状態を更新し続け、10年後を迎えられたら嬉しい。

プロフィール

mei ehara

めい・えはら|1991年、愛知県出身のシンガーソングライター。学生時代に宅録を開始する。2017年にキセルの辻村豪文プロデュースによる1stアルバム「Sway」を発表しカクバリズムからデビュー。翌2018年に「FUJI ROCK FESTIVAL」に出演を果たした。2020年4月に7inchアナログ「昼間から夜」、5月にセルフプロデュースした2ndアルバム「Ampersands」をCDと12inchアナログでリリース。また音楽活動の傍ら文藝誌「園」の主宰を務めており、王舟、藤森純(The Buffettment Group / 東京スプラウト法律事務所)と立ち上げたインタビュープロジェクト「DONCAMATIQ」や、他アーティストの写真撮影やデザイン制作などにも携わる。

Official Website
http://eharamei.com/

 
SHARE: