カルチャー
【#4】ザ・ルートビアジャーニー
執筆: 高田ユウ(THE ROOT BEER JOURNEY)
2022年1月29日
text & photo: Yu Takada / THE ROOT BEER JOURNEY
edit: Yukako Kazuno
みぞおちの近くまでズボンを上げた屈強な男が机越しにぼくを睨んでいる。その男の顔は遅刻してやってくるバンクーバーの21時の夕日に煌々と照らされ朱色に染まっていた。男はぼくに対して英語で何かを質問するが、語学スキルの無いぼくには彼が何を言っているのかわからない。ディスコミュニケーションを繰り返し、男の顔は益々燃え盛る。どうしてこんなことになってしまったのか……
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これまでぼくは個人でルートビアを輸入したり、米軍基地の解放日に出向いて買い付けたり、海外に住む知人やCAの元カノ、海外渡航する友人達にお土産としてせがんだり、時には友人の友人にお金を握らせ、人様のスーツケースの隙間を拝借してルートビアを収集してきた。
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そうして100種類以上のルートビアを飲み比べ、生のオリジナルルートビアを作るという野望が沸き始めた頃、ルートビアフェスティバルなるものがバンクーバーで開催されるという情報を見つけ、英語も喋れず海外に1度も行った事もないのに“いっぱいルートビアが飲みたい“という想いだけでルートビアの為だけの北米縦断旅が決まってしまったのだった。
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冒頭の話に戻そう。旅の2日目、ぼくはアメリカのシアトルからカナダの国境にバスで到着し、カナダ人の入国審査官に睨まれていた。空のトランクを3つも持って入国しようとしているアジア人を怪しんでいるのだ。当然このトランクはルートビアを大量に持ち帰る為のものである。それくらいの気概を持って海を越えて来たのだ。シアトルの街での飲料店調査でルートビアを溺れるほど飲んだせいで、今にも膀胱がはち切れそうな汗ばむぼくを入国審査官は更に怪しむ。
そもそも限られた英単語しか聞き取れない為、会話はほぼ成り立たない。全く埒があかないので自作した旅のしおりを机に叩きつけ、ルートビア飲みに行くんだよ! と適当な英語を気迫で伝えると、入国審査官の表情が変わった。彼は真っ直ぐにぼくの目を見て優しく「You love root beer…?」と訊いてきたので「I love root beer!!!」と返すと笑顔でパスポートに力強くスタンプを押してくれた。さすがはルートビア大国カナダ。入国審査官はルートビアラバーだったのだ。情熱は国境を越えてゆく。
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ルートビアの本場北米を旅するという感慨もそこそこに、見かけた商店全てに入店してどの銘柄のルートビアが卸されているかという調査メモをとりながら、その後の日程もせわしない旅だった。ジャンキーのたむろする危険地区でのルートビア調査や、土砂降りの雨の中開催されたルートビアフェスティバルで1日50杯飲み干したり、列車で国境を超えてシアトルに戻り、スターバックス1号店を尻目にルートビア専門店を訪問したりと最高の旅ができた。詳細を書きたいところだがボリュームが多すぎる…。
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この旅を終えてから屋号をTHE ROOT BEER JOURNEYに決めた。今はコロナで海外に行けなくなったので、ルートビアに使える日本のハーブを山で収穫、栽培したりと、ルートビアの素材を探訪するジャーニーもしている。
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旅をするようにルートビアを探究することはもはやライフワークだ。世界中の知られざるルートビアがぼくを待っている。ちなみに直近でぼくが気になっているのは、電気も自動車も使わないアメリカ開拓時代の自給自足の暮らしを未だに守って生活している宗教集団アーミッシュのオールドスタイルな自家製ルートビア、漢方天国台湾に8つもあるとされる塩入りの地ルートビア、ワイン醸造所が作るUMA(未確認生物)の名を冠した珍ルートビアなど…どれも味を想像するだけで興奮して体温が上がってしまう。
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この奥深くてヘンな飲み物を根掘り葉掘り追い求める“ザ・ルートビアジャーニー”という遊びは果てしない。また世界中を自由に行き来できる日がきたら、何処かの国で旅をしているだろう。まだ見ぬルートビアへの熱望を空のトランクに詰めて。
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プロフィール
高田ユウ / THE ROOT BEER JOURNEY
https://www.instagram.com/therootbeerjourney/?hl=ja
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