カルチャー

【#2】ルートビアに使うハーブの話

執筆: 高田ユウ(THE ROOT BEER JOURNEY)

2022年1月15日

photo & text: Yu Takada(THE ROOT BEER JOURNEY)
edit: Yukako Kazuno

「ルートビアには何が入ってるの?」
ぼくがイベントに出て売っている時にいつも訊かれる定番の質問だ。

その質問にはもう既に数えきれないくらい答えてきた気がするが、ルートビアの事を知ってもらえる事はぼくにとって嬉しいことなので、お客さんのルートビアをグラスに注ぎながら、いつもノリノリで解説している。

簡単に言うとルートビアには名前の通り、薬草のルート(根 root)や様々なスパイス類がブチ込まれているのだが、説明を受けたお客さん達は不可思議そうに「へぇ…」と呟くか、「根っこ⁉︎」と妙に驚くかの二通りのパターンがお決まりの反応だ。

ルートビアを飲んだことがある人も、ない人も殆どの人があまり知らない根のハーブの世界。日本にはほぼ売ってないし生えてもいない未知のハーブを煮詰めて作る摩訶不思議な薬膳炭酸飲料、ルートビア…。

まず現在多くのルートビアに使用されている主だった材料を列挙してみよう。
サルサパリラ、ダンデリオン、バードック、リコリス、ジェニパーベリー、ジンジャー、ウィンターグリーン、オールスパイス…などが所謂一般的なルートビアに使用されるハーブ、スパイス達だ。

中でも根(ルート)のハーブのうち、バードック(ごぼう)やジンジャー(生姜)は日本でもお馴染みのハーブだろう。西洋タンポポのダンデリオン、世界で一番不味いお菓子といわれるサルミアッキに使われるリコリス(甘草)あたりもまだ知名度があるほうだ。スパイス類で言えばジンの香り付けに使われるジェニパーベリー、カレーに使うオールスパイスなど、ルートビアの複雑な味はこれらの多種多様なハーブ、スパイス由来のものであることがわかる。

ルートビアのあの奇天烈なテイスト、薬っぽさは何処からきているのか。まさに味の真髄とも言えるべきハーブはサルサパリラ、ウィンターグリーンの2つに代表される。

サルサパリラは南米原産のサルトリイバラ科の薬草で、16世紀頃のヨーロッパではリューマチや淋病、梅毒を治す万能薬として世界的に重用されてきた薬草界の帝王と言うべき存在である。甘いお香のような匂いがあり、その抗炎症効果から関節炎に処方したり、解熱剤、ステロイドとしても使用されてきた歴史を持つ。

ウィンターグリーンは湿布と同じ成分のサリチル酸メチルを98%も含み、天然のアスピリンとも呼ばれる北米原産の常緑低木の薬草。古くからネイティブアメリカンやイヌイットは葉を噛んで使用したり、鎮痛剤のお茶として飲用していたハーブである。

ちょっと詳しく書き過ぎてしまったが…ポピュラーなハーブだけでもこんなにも解説のしがいがある。

このようなハーブが使われている事からわかる様に、ルートビアは元祖エナジードリンクと言える飲み物でもある。時代によっては万能薬として扱われ、歴史の過程の中で新たな効能を期待して様々なハーブが使われてきた。世界の地ルートビアには漢方由来の生薬、悪霊払いの伝説を持つ西洋薬草、インドの伝統医学アーユルヴェーダに使われる古来のハーブなどを使用したものもある。ノンアルの神、ハーブ系飲料の元祖という名は伊達ではない。

根っこが入っていて発泡していれば、ルートビアと言えてしまう。その概念の広さから牛小屋のような香りを漂わせるルートビアもあればヒマワリ油味のルートビアもあり、ハーブの配合によって千差万別の個性的なルートビアがある。薬膳炭酸飲料として現在も進化を続けている融通無碍な飲み物。それがルートビアなのだ。

プロフィール

高田ユウ / THE ROOT BEER JOURNEY

たかだゆう | 1990年生まれ、石垣島出身のアイランドシティボーイ。自家製の樽生ルートビアと数種類の世界のルートビアを取扱う空前絶後のルートビア専門店 THE ROOT BEER JOURNEY代表。フードイベントよりもアート系イベントに出没しがち。世界中のルートビアを飲む事と、琉球空手がライフワーク。
Instagram
https://www.instagram.com/therootbeerjourney/?hl=ja