カルチャー
『ジョンジョン』50年。ホンモノが営む、ホットドッグ店の草分け。
2021年12月29日
photo: Kazuharu Igarashi
text: Toromatsu
edit: Yu Kokubu
横浜にある、ホットドッグの名店が今年で50周年を迎えた。ひとつの店舗を半世紀も営むなんて、誰しもにできることではない。しかも一代で続けてきたうえに、看板メニューは“ホットドッグ”である。そもそもホットドッグは僕たちにとって、ごくごく当たり前に身近にあるものだけど、ここ『ジョンジョン』ができた1971年には、それが食べられる店なんて皆無に等しかったという。


店に向かうために歩いていた、伊勢佐木町のアーケード街を逸れると、突如として現れる『ジョンジョン』。定番のホットドッグから、ハンバーグドッグなど10種類ほどがショーウインドウに並ぶ外観は、完全にアメリカさながら。韓国系の店や、ピンク系の店が見られるちょっと怪しげな路地柄も相まってか、一瞬にして異国ムードに誘われる(店はカフェ & バーとしても営業しているから夜に行くのがおすすめ)。


一目にして感じられる、老舗の佇まいの扉を開けると、すでに馴染みの客らが数人。ブラウン管テレビに映る、1994年のイーグルス再結成時のライブ映像に浸りながらビールや、バーボンを飲んでいた。例えアメリカンダイナーや、ミュージックバー慣れしている人であろうと、ここはこれまでに訪れたそれらと、似ているようで非なることがすぐにわかるはず。『ジョンジョン』は、ありがちなアメリカかぶれの店主が営む“それ風のお店”とはかけ離れた“ホンモノが始めた店”なのだ。







今年で73歳を迎えた、なぜか外国人のような顔立ちのオーナー・安藤光一さんは、この店のある伊勢佐木町で生まれ育った生粋の地元民。昔の伊勢佐木町は、第二次世界大戦後に戦災を免れた建物を中心に米軍に接収され、焼け野原を整地し、進駐軍の兵舎や、飛行場へと変化を遂げた特殊な町。安藤さんはそんな時代背景を引きずっていた頃からこの地で暮らしてきた。

「この店のあたりは米軍兵舎だった。僕はそのメインゲート付近で生まれ育ったから、周りも外国人ばかりで小さい頃から洋楽しか耳にしていなかった。学校もハーフの子なんかは当たり前にいて、あるとき小学生の友達が歌う歌謡曲を聴いて、初めて日本の曲を知ったくらい。朝食も毎日パン。その頃では珍しいアイスクリームも、カメラ屋の親父が、ホテルニューグランドに仕事で行くときについていっては、都度食べさせてもらっていた。23歳になって何か店をやろうと考えたとき、自分にとっては当たり前だったホットドッグの店が日本になかったから、コーヒーとそれを出す店をやることにしたんだよね。いつも家で作っていたし、作るのも簡単だし(笑)。店の名前は、ジョン・レノンが好きで、あとは『アンアン』とか『ノンノ』みたいに繰り返しただけ」。


創業当初からマイヤーズのラム酒を仕入れて、ホットコーヒーと割って提供していたという安藤さん。カクテルひとつとっても米軍兵舎近郊で生まれ育ったからこそのセンスが感じられる。オープン当初からサーフィンやスキーに明け暮れていて、店先でスケートボードを販売していた時期もあるのだとか。そのメーカーは、なんと1976年のポパイ創刊号がようやくたどり着いて取材していた、ベニスビーチ発の〈ゼファー スケートボード〉らしく、ここがあまりに早いアメリカンカルチャーの巣窟だったことを話の端々から分からされた。


「当時まだサイケなゴーゴーバーとして流行する前の『レッドシューズ』という中華街のバーでよく踊っていたんだけど、そこも外国人だらけ。ウチの店も外にはチョッパーバイクが何台も並んでいて、音楽をガンガンかけていたからか、外国人がいっぱい寄ってくるんだよ。“ヘイ!ジョンジョン!”って。親父とおふくろのことは“パパジョン”、“ママジョン”ってみんな呼んでいた。ベトナム戦争の頃の話だけど、黒人3人が店に入らずにずっと外にいるんだよね。店内の白人がいなくなったら“入っていいか?”って聞いてきたりしてさ。“スウェーデン大使館にどうやったら行ける?”って聞いてきた外国人もいた。戦争から逃げたかったんだよ。こんな店が他になかったからみんな慕ってくれていたのかもしれない」。






1974年頃に店を両親に任せて、ヒッチハイクで日本一周の旅へ出たりもしたという、なかなか自由な安藤さんだけど、『ジョンジョン』はしっかり町に根付いていった。ジャズバンド、スタッフのベーシストであるゴードン・エドワーズが来るなど、海外からミュージシャンが訪れるようにもなり、1984年には、閉店した裏の洋食器店をぶち抜いて拡張。カフェ & バーとして本格的に始動していくようになった。テーブルなど店の内観を、通りがかる人たちに手伝ってもらいながら作ったというから面白い。

「そのうちネパールあたりでのんびり過ごす予定だったのに、50年もやるとはね(笑)ホットドッグはきっかけに過ぎなくて、お店はお客さんに育ててもらった。店のVHSもお客さんが持ってきてくれたりするんだよ。音楽を聴くといろんな人のことを思い出せる」と安藤さん。席に座るエキゾチックなこなれた女性が、“チョリソーホットドッグと、もう一杯”と言うと、店主は腰を上げ、VHSをノラ・ジョーンズに変えてから厨房へと向かった。きっとこんなやりとりが、何十年も変わらずにおこなわれているのだろう。





『ジョンジョン』が50年続いたわけは、本物がいることに加えて、この店が人や町に愛し、愛されてきたからなのだ。お店のこれからを問うと「風の吹くまま」と、若き日のように、はにかんだ安藤さん。いつまでも変わってほしくないと感じたし、きっと誰もが同じ考えで、ここに通うのだろう。ヒリヒリと辛いチョリソードッグと、アメリカンミュージックをお酒のあてに、横浜の小さな小さな本物のアメリカ『ジョンジョン』へまたすぐ訪れたいと思った。

インフォメーション
ホットドッグ カフェ & バー ジョンジョン
◯神奈川県横浜市中区伊勢佐木町2-8-1 ☎045・251・5382 営業時間についてはJohnJohn公式HPをご確認下さい。
Official Website
https://johnjohn.jp/
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