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【#3】ヴィタリ・マクラコヴをインタビュー。

2021年11月6日

translation & text: Maya-Aska
edit: Yu Kokubu

ヴィタリ・マクラコヴはスヴェルドロフスク州の小さな都市、カメンスク=ウラリスキー出身のアーティスト兼音楽家。彼は’00年代から展示会に参加したり、自分でデザインしたCDやテープを自費出版していた。DIYした機械のフィールド・レコーディング、ラジオ音やシンセ・ノイズを主に扱い、世界中の様々な音楽家や芸術施設と共同制作した。そんな彼を電話でインタビューした。

どの様にしてノイズ・ミュージックを知ったの?

「コミュニズム」といバンドのエゴール・レトヴのアルバム「サタニズム」を買ったんだ。ほとんど騒音でびっくりしたよ。だけど気付いたんだ:音符やコードが分からなくても音楽を制作出来るんだって。同じジャンルの音楽を作っている「Strely Peruna」というモスクワの近くにあるレーベルを見つけて幾つかカセットテープを注文したんだ。中には「Misery」、「Odolenveter」、「 Medva na meche」 と「Unknown」があった。

どうやって収録し始めたの?

葉っぱが窓に擦れる音を古い中国製のマイクで録音して、Ejayで処理したんだ。結果13分の曲になり、抒情的かつ、コスミックな感じになったんだ。同じ感性を持った人を見つけ始めて、色んなレーベルがインターネット上で現れた。そんな中、「Monochromnoe Videnie」というレーベルがあって、自分の作品を送ったんだ。そのレーベルの下で音楽を発表する筈だったんだけど、結局上手く行かなくって、自分でこなそうと決意したんだ。

音楽を制作する上で、原則の様な物はある?

実験するのが大好きなんだ。一回カセットテープのピンチローラを開けて、テープが速く動き始めたんだ。「ミュジック・コンクレートと同じ方法で音を変形出来るぞ」と思って、元の音が分からなくなるまで歪ませたよ。その日から、その同じテクニックを使って音楽を作っているよ。音をテープか録音機に収録して、PCで歪ませる。

最初のレーベルはどの様にして設立したの?

友達と一緒に最初のレーベル、「Ostroga」の為にNarod.ruというホスティングプロバイダーを使ってウェブサイトを作ったんだ。本当にシンプルで、写真、カバーと小さい紹介があっただけ。インターネットの接続が悪くて、音楽を実際に投稿するのは無理だった。一緒に演奏したり、展示会に参加したけど、他の人達は仕事や家族の事で忙しくて、自分一人で管理する様になったよ。一人、印刷やカバーを手伝ってくれたけど、結局最後は一人になった。

2012年からヴィタリ・マクラコヴとして95作品、Obozdur の下で90、ライト・コラプスの下で145。他には様々な別名義で音楽を出している。しかもそれは全てカセットテーピやCDと言った物理的フォーマット。全部で何曲リリースしたの?

最初は数えていたけど、今は気に留めていない。誰も知らない物だってある。なぜなら匿名性を保ちたいから。

Eunting – Eunting ハート型ボックス

Euntingは自分の本名で出版した最初の作品だね。なぜ多くの偽名を使うの?

エゴール・レトヴのインタビューを読んでいて、彼は自分が決して捕らえられない様な存在だと哀れに言っていた。「皆んな僕が予測不可能だと言う。表現も自由にしていると言う。」そんな感じになりたくて色んな偽名を使うんだ。予測不可能な事をしたいから新しい名前で音楽を出すんだ。

Kamera Sensornoy Deprivatsii – Archive レコード (Heart Shaped Box、2016年)
Maromokotro – Yaatra、Monotype シリーズ (2021年)

どの作品が主要な物なの?

Kromeshna、Light CollapseとObozdur。そして一番最初に出来たのもこの二つ。Light Collapse は空間から離れて抽象化する事から始まったんだ。基本の音はラジオのノイズので他の音と合わせる事によって生まれたんだ。Obzdur は抑圧されていないエネルギー。想像して、沢山の女性、歯が無い狂気じみた女性、酔っ払った人が荷車に乗っている光景。社会の規制が届かない衝動的で予測不可能な物。

Obozdur – Subconscious Cuntscamer (Zaimka 2020年)
Heart Shaped BoxのLight Collapseの最初のリリースの一つ 2006年

どうやったらそんなに作業する時間があるの?

時間の概念を無視しているんだ。だから日付とかは質問しないで。時間に拘ると老いる、そんなもの誰が要るんだって思うよ。

では厳しい日課が無いという事?夜起きて、昼に寝る事は出来るの?

給料の為に働いているけど、僕の仕事は自由が利いていて結構やりたいように出来るんだ。もちろん、今は二人の子供がいて、家族のことも考えなければならない。時間は短いから、穴があったら家族の世話をする。家族が第一だからね。

トボリスクで

音楽を物理的な形式で出しているよね。なんでインターネットに投稿するのではなく、カセットやCDで公表しているの?

CDやカセットやレコード、これらは音を具現化した物。デザインによって僕が何を聴くかが左右される。デザインがかっこよかったら聴く価値があると思う。出版する際、普段は印刷などにお金をかけるけど、僕は違うんだ。スクラップから作るからね。

Maklakov – Etazhi (Zaimka 2021年)
Giacomo Salis + Vitaly Maklakov – コラボレーション (Zaimka 2021年)

レーベルを立ち上げる時、普通はその一つのレーベルに献身するよね。CDやカセットを作成するのは時間が掛かるから。けどヴィタリは僕が知っている限りでも六つのレーベルを経営しているよね。なぜそんな多くのレーベルを持っているの、そして一つ一つどう違うの?

Ostroga はもっと伝統的な物を扱っているんだ。古典、シャーマニズム、儀式。Heart Shaped Box はニルヴァーナのカート・コバーンからとったんだ。もっと人間的な音。Torga Amun は Zhenya Solomatinジェニヤ・ソロマティンと僕で彼の友達のクラスノヤルスク(シベリア中部の町)にあるレーベルを復活させたんだ。非順応的でヒヤリとした生々しい音楽のレーベル。緊張が昇華する様な音。この三つがメインのレーベル。新しい楽器をマスターすると音も変わって、新しいレーベルを作りたくなる。けど訳あって今の所CDの発売やレーベル活動は一時停止中。

Obozdur – Garstvo (Ostroga 2017年)
Obozdur – Skuchniy アルバム (Torga Amun 2019年)
Roadside Picnic & Light Collapse – split (Heart Shaped Box 2014年)

Secret Cache の為の Sound Installation は本当に見事だったよ。こんな異色を放つデザインをどの様にして思い付くの?

italy Maklakov – Zvukovaya Installyatsiya Dlya Tainogo Shrona. ケースはセメントとケイ酸塩系の接着剤ワニスで出来ている (Zaimka 2019年)

アーティストだからかな。標準のCDケースには飽きたんだ。僕の目的は音と画像を合わせること。小さい頃、祖父と一緒に工作を良くしたんだ。応用美術の達人で、ダルマトヴォの地元伝承美術館にも作品があるんだ。彼が僕にインスピレーションを与えたんだ。音楽は枠を壊さなければならないと思う。全てを自由自在に操作し、無関係な物を繋ぎ、一つにする。大事なことは頭の中にあるもの、そしてそれを音楽と合わせること。

「Zaimkaは数年間メインのレーベルだった。その中、丹念にデザインした作品」
ダンボールとワニス。飴で塩気を。
Carl Kruger + Vitaly Maklakov – A lump of everyday)

Vitaly バンドキャンプ: https://vitalymaklakov.bandcamp.com

Vitaly インスタグラム: https://www.instagram.com/vitalymaklakov/

プロフィール

ФAKTYPA

アルテム・デュルツォフとダニール・クライヴが2017年に設立した、ロシア・エカテリンブルグ拠点の実験的なダンスレーベル。現在は主に地元アーティストの音源をカセットテープでリリースしている。読み方は”ファクトゥラ”。日本国内では『Tobira Records』で作品の取り扱いがある。