カルチャー

【#4】英語の発音ルール

執筆: ピーター・バラカン

2021年10月30日

 コロナウイルスが蔓延してからのこのほぼ2年の間、海外からの旅行者の姿が見えません。そのため東京の街は多少落ち着きを取り戻した面もありますが、観光ブームが起きてからその収入を当てにしているところも多く、政府は今でも2030年には年間6千万人の来日を目標にしているとのことです!大勢の外国人が日本を訪れるようになった結果、それまで学校で習った英語を使うことがあまりなかった多くの日本人は、日常生活でその英語を生かす機会が急に増えたのです。その事情を見て、出版社の方から、ぼくが以前出した本の再出版の話をいただきました。その本はこの前出ました。これです。

 そもそもなぜこんな本を書いたかというと、ぼくがホスト役を務めている海外放送のテレビ番組で、英語を話す日本人のゲストの方が何を言っているか聞き取れないことが多かったからです。もちろん個人差はありますが、毎週毎週その番組の収録をしていて、あまりにもそういったケイスが多いので個人差の話で済まない問題だと気づきました。何が一番の問題かといえば、本の表紙に大きく書いてあります。ローマ字発音。「ローマ字は英語ではありません」。これを日本人の皆さんに、毎日自分に言い聞かせるようにしてもらいたいです。ローマ字というものはあくまで日本語をアルファベットで表示するために考案されたもので、外国語を日本語に置き換えるための手段ではありません。特に字面と発音が違うことが多い英語の場合はむしろ弊害になることの方が多いのに、メディアでは(本当はミーディアと書いて欲しいね)圧倒的にローマ字発音で英語が表記されます。そうすると当然テレビを見たり、ラジオを聞いたり、新聞や雑誌やSNSを読んだりする人は無意識のうちにその影響を受けてしまいます。その結果、長年学校で英語を習っていて、文法もそれなりの語彙が備わっているにもかかわらず、話している内容は相手に通じない。大げさに聞こえるかも知れませんが、ぼくは時々日本語があまり分からない英語圏の人にわざとローマ字発音の英語を話してみると、相手の顔に「?????」の表情が浮かびます。「英語発音ルール」というタイトルです。決められたルールというより、英語圏の人間は意識せずに分かっている発音の仕組みのようなものです。一つの例を取りましょう。言葉の中に同じ子音が2つ続くことが多いですね。例えば、「shopping」。これは日本人なら「ショッピング」と発音しますが、これは間違いです。本当は「ショピン(グ)」です。では、なぜ「shoping」と書かないのか。いい質問です。同じ子音を繰り返すことで、その前の母音の発音が短いことを示しています。「shoping」だったら「ショウピン(グ)」になるわけです。「(グ)」と書いているのは、英語の語尾に来る「ng」をほとんど発音しないからです。その点に関しては中国語や韓国語などアジアの言語と一緒だと思えばいいです。

 この本を最初に出した時は「さるはマンキ、お金はマニ」というタイトルでした。はい、さるは「モンキー」ではなく、「マンキ」です。「o」を「a」と発音するケイスが多く、まさにmoneyもそうですが、今度は「マネー」ではなく、「マニ」です。語尾の「ey」はほぼすべて「イ」と発音するのです。因みに「エー」という発音は基本的に英語にありません。ぼくが「ケイス」と書く通り、必ず「エイ」となります。「モンキー」とか「マネー」とか言っていると日本人同士ではもちろん通用します。でも、日本人同士だったら「猿」と「金」でいいはずです。不必要な、しかも間違った和製英語が氾濫していることが本当に大きな問題だと思います。この新しいヴァージョンは「さるはマンキ、お金はマニ」を少しだけ書き換え、最後には個人名の発音が分かるリストを追加しました。特にファースト・ネイムのリストはかなり充実しています。日本人に間違われやすい名字や地名もある程度載せました。細かいことをくどく言うオヤジに思われるかも知れませんが、せっかく英語を使うなら相手にちゃんと伝わる方がお互いのためになると考えて書いたものです。決して教科書のような本ではありません。むしろ軽く読めるものです。日常的に英語を使うことがある方、ぜひ書店で手に取ってみてください。

とにかく、ぼくのマントラを最後にもう一度繰り返します。

「ローマ字は英語ではありません」

プロフィール

ピーター・バラカン

1951年、ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科を卒業後、1974年に音楽出版社の著作権業務に就くため来日。現在フリーのブロードキャスターとして活動、「バラカン・ビート」(インターFM)、「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM)、「ライフスタイル・ミュージアム」(東京FM)、「ジャパノロジー・プラス」(NHK BS1)などを担当。

著書に『Taking Stock どうしても手放せない21世紀の愛聴盤』(駒草出版)、『ロックの英詞を読む〜世界を変える歌』(集英社インターナショナル)、『わが青春のサウンドトラック』(光文社文庫)、『ピーター・バラカン音楽日記』(集英社インターナショナル)、『魂(ソウル)のゆくえ』(アルテスパブリッシング)、『ラジオのこちら側』(岩波新書、電子書籍だけ)、『ぼくが愛するロック 名盤240』(講談社+α文庫、、電子書籍だけ)などがある。2014年から小規模の都市型音楽フェスティヴァルLive Magic(https://www.livemagic.jp/ )のキュレイターを務める。

ウェブサイト
http://peterbarakan.net