フード
『若き日のサンドイッチ作戦』
文・せきしろ
2021年9月26日
illustration: Tetsuya Murakami
text: Sekishiro
edit: Yu Kokubu
2014年9月 809号初出
![村上テツヤ](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2021/09/f5f489b70e370bd85f55fb266f719076.jpg)
高校生の頃、バイトは校則で禁止されていた。隠れてバイトをするには、私の住む町は小さすぎた。
ゆえに小遣いを使い切ってしまうと、翌月の小遣いを待つしか方法はなく、ならば計画的に使えば良いのだろうが、それだけはどう頑張ってもできなかった。
とはいえ、何かと金は必要であるから、よく「参考書を買う」という方法を使った。親に「参考書を買いたいからお金をくれ」と言うだけの簡単な方法だ。参考書と言われれば、親は金を出さないわけにはいかない。「いくらだ?」と聞かれ金額を申告し受け取る。あとは参考書など買わずにくすねるという方法だ。
しかしこの錬金術はそう何度も使えない。幾度となく参考書代を渡しているのに、本棚に新しい参考書が一冊も増えないと親は怪しむ。そもそも参考書などそう何冊も必要ではない。
そこで新たに編み出したのが、昼食を使う方法だった。別名『サンドイッチ作戦』である。
私の通う高校は弁当を持っていくのが基本だが、弁当を持ってくることができない生徒のために学食があり、そこで弁当かパンか、あるいは麺類かを選択することができた。
私はこの制度を利用して金をくすねることにした。いつも弁当を作ってくれていた母親に「学食で食べるから弁当は要らない」と告げ、昼食代を貰うのだ。「毎日弁当作るのは大変でしょ。学食で食べるからさ、少しでも休みなよ」くらいの親思いなことを言った記憶もかすかにある。
そうやって得た昼食代をすべて懐に入れたいところなのだが、さすがに空腹には耐えられない。そこで学食で最も安いサンドイッチで飢えをしのぎ、悪行の陰では少しでも金を浮かすという小さな努力を重ねた。参考書の場合とは違い、親は私が何を食べているかなど知る由もなく、食べ物は消えもの、イコール証拠は残らないことを十分に活用した。
こうして地道に貯めたお金を握りしめ、学校が終わるや否や私はゲームセンターに駆けつけ、『熱血硬派くにおくん』にコインを注ぎ込み、なんとかスケバンのところまでたどり着くことができた。
こうして多感な時期に食べ続けたサンドイッチは残念ながら私の人生に特に影響を与えることはなく、「これがサンドイッチ職人になるきっかけになったんですよ」なんていうような都合の良い話にもならずに、今に至る。
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