カルチャー

9月はこんな映画を観ようかな。

過ぎゆく夏の思い出として観たい7作。

2021年9月1日

『スイング・ステート』ジョン・スチュワート(監)

(C)2021 Focus Features, LLC. All Rights Reserved

2016年の大統領選において、ヒラリー率いる民主党陣営で選挙参謀を務めたゲイリーは大敗を喫する。失意のどん底にいた彼は、YouTubeでウィスコンシン州の片田舎の老いた退役軍人が、不法移民のために立ち上がる演説を発見。このエリアは共和党が強いので、彼を民主党推薦の町長にできれば次の大統領選挙でスムーズに勝てるかも。そう目論んだゲイリーはかの町へ行き、退役軍人を町長選に立候補させるが……。とアウトラインを書くと、難しそうな映画と思われるかもしれないが、さにあらず。本作は爆笑必至のコメディだ。でありながら、選挙制度のダメなところも暴き出しちゃうんだから、アメリカ映画はやっぱりすごいなぁ。9月17日より全国公開

『アナザーラウンド』トマス・ヴィンターベア(監)

©2020 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa Sweden AB, Topkapi Films B.V. & Zentropa Netherlands B.V.

「血中アルコール濃度を一定に保つと仕事の効率が良くなり想像力がみなぎる」。ウダツのあがらない高校教師4人衆は、ノルウェー人哲学者が提唱したというこの説を立証すべく、酒を飲んで授業に挑む。すると、なんかいい感じだったもんだから、どんどんエスカレートしていって……。自身もアルコール依存症気味だったフランス人哲学者のジル・ドゥルーズは「酒のみがさがすのは、最後の一杯ではなく、実はそのひとつ前の杯である。翌日にも酒を楽しむためには、最後の一つ前の杯で止め、飲みすぎてはいけない」といった意味のことを語ったことがある。まさに名言を“肝”に銘じたくなる作品だ。9月3日より全国公開。

『ディナー・イン・アメリカ』アダム・レーマイヤー(監)

(C)2020 Dinner in America, LLC. All Rights Reserved

パンクロックを聴くことだけが生きがいの孤独な少女パティは、ひょんなことから警察に追われる謎の男サイモンを家に匿う。すると、なんと彼はパティが愛するバンド「サイオプス」の覆面リーダーだったという! そんな破天荒なサイモンと彼に翻弄されっぱなしのパティが巻き起こす騒動を描いたへんてこりんなラブストーリー。アメリカ映画なんだけど、なぜか00年代(つまりは『トレイン・スポッティング』以後)のイギリスにおける荒々しい青春映画のバイブスがあってグッときた。9月24日より全国順次公開。

『マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”』ライナー・ホルツェマー(監)

(C)2019 Reiner Holzemer Film – RTBF – Aminata Productions

1998年、ひとつのブランドが産声をあげた。その名は〈メゾン・マルタン・マルジェラ〉(現〈メゾン・マルジェラ〉)。しかし、デザイナーであるマルジェラは51歳で突然の引退を発表するまで、公の場に一切登場せず、あらゆる取材を断ってきた。そんな彼が顔は映さないという条件で一肌脱いだドキュメンタリーがこちら。“タビブーツ”の誕生秘話が語られたり、7歳のときに作ったというバービー人形の服まで登場したり(「既にマルジェラっぽい」とは本人談)、いやはやファン垂涎。今年もっともオシャレなドキュメンタリーだ。9月17日より全国順次公開。

『空白』吉田恵輔(監)

(C)2021「空白」製作委員会

ひとりの女子中学生がスーパーで万引き未遂をする。それを発見した店長は、彼女を事務所に連れていくが、女子中学生は逃亡。しばしの追いかけっこを繰り広げた挙げ句、彼女は道路で車に轢かれ、亡くなってしまう。娘がそんなことをするとは信じられない女子中学生の父は、店長や学校を執拗に責める。彼自身、生前の娘に興味を示さなかったのを棚に上げて……。これを面白おかしく取り上げるのはマスコミだ。かくして、少女の死という悲劇は、小さな善意と小さな悪意の複雑な連鎖により、より悪い方へ転がっていく。正直、観ていてつらい。しかし、これが現実なのかも。9月23日より全国公開。

『ムクドリ』セオドア・メルフィ(監)

何が人生を好転させるきっかけになるかはわからない。本作の主人公は、とある事情から喪失感に苛まれる主婦のリリーだ。夫は悲しみを癒やすために旅に出ているし、裏庭に巣を作ったムクドリは彼女に嫌がらせをしてくる。そんな八方塞がりの彼女に手を差し伸べてくれたのが、心理学者から獣医に転向したラリーである。ラリーも過去に何か問題を抱えているらしいが、その友情が彼女の人生を好転させるのだった。監督が『ドリーム』のセオドア・メルフィだけあり、地味になりそうな物語をいい感じに見せてくれる。9月24日よりNetflixにて独占配信。

『ブラッド・ブラザーズ マルコムXとモハメド・アリ』マルクス・A・クラーク(監)

今年の米アカデミー賞でいくつかの賞にノミネートされていた映画『あの夜、マイアミで』でも描かれていたけど、公民権運動を率いた人権活動家のマルコムXと“蝶のように舞い、蜂のように刺す”でお馴染みのプロボクサー、モハメド・アリには“ブラザー”と呼べるくらい深い交友があった。このドキュメンタリーが貴重なアーカイブ映像や関係者へのインタビューを通して明らかにするのは、そんな二人の友情と仲違いの裏にある驚くべきストーリーだ。またしてもネトフリのドキュメンタリーに知られざる歴史への扉を開かされてしまった! 9月9日よりNetflixで独占配信。